コウ・ユージン 「どうしてこうなった!?」
俺は、原因不明の航行トラブルによって、未知の惑星に緊急不時着した事により、只今絶賛遭難中なのであった。
――どうしてこうなった!?
俺の名前はコウ・ユージン。
フリーの宇宙傭兵をしている、21歳のノーマルな独身男だ。
つい先日、日課の小規模な宇宙海賊退治をこなした俺は、たまたま良い戦利品が大量に手に入り、その売却益もあって、ついに念願だった最新鋭の多目的小型宇宙船(NAKADA社製-N791-Asuka)を本日手に入れたのだ!
そして意気揚々と、この船の慣らし運転として初出航に乗り出したのが今日だった。
頼れる相棒、最新鋭の宇宙船AI『飛鳥』のサポートと共に、俺達はいざ宇宙へと飛び立ち、順調に宇宙航行を楽しんでいた筈だった。
――各種通常航行のテストなどは完了し、後はちょっとしたバカンスを兼ねての長距離移動と高速航行のテストだけだった。
AI・飛鳥『高速航行モードまで残り10秒、9、8……高速航行開始しました。目標のバカンス惑星【オリグル】までは片道3日の予定となっております。本日はお疲れ様でしたマスター』
俺「うん、お疲れお疲れ~。流石に最新鋭のAIは性能が違うね! 飛鳥も色々とサポート感謝だ。後はのんびりと高速航行で片道3日のバカンス惑星まで一ッ飛び~ってな?」
飛鳥『各種航行システム、オールグリーン。船内も異常ありません。これで高速航行も、無事にテスト完了といった所でしょうかマスター』
俺「うんうん、そうだね~。テストは無事に全部完了だね。以前の愛機と違って、この船は燃料いらずの永久機関だし、いやはや凄いね。もうどこまでも行けちゃう船だね~流石最新鋭。最高~だけどお値段高かったー!」
飛鳥『お褒めにあずかり恐悦至極に存じます』
俺「……値段が高いのは褒めてない」
飛鳥『それも1つのステータスで御座いますマスター。誰もが気軽に買える訳ではない、非常に高額な最新鋭の宇宙船を乗り回す事こそが、周囲の羨望と嫉妬を一身に集めマスターが光り輝くものであります』
俺「あはは、それは確かにそうだけど。そこまで言われると反論出来ないけどさ。いや~しかし最新のAIは、口まで回る訳だね。怖い怖い」
飛鳥『お褒めにあずかり恐悦至極に存じます』
俺「……。まあいっか。優秀なのは間違いないし」
飛鳥『YES。肯定します。私は人の擬似的感情までも実装した、最新型のAIとなっております。宇宙船の管理や各種サポートまで、非常にハイレベルな対応性能を誇ります。この船だけではなく、マスター様の【おはようからオヤスミまでを】この私が完璧に確実にサポートさせて頂きますので、どうか大船に乗ったつもりでご安心下さいませ』
俺「小型船だけどな(小声)」
飛鳥『古い諺に、大は小を兼ねるとありますが、それは正確では無いと進言致します。過ぎたるは猶及ばざるが如し、とも申します。マスターは御1人様なのに、目的も無く大型船に乗るのは無駄の極みではないでしょうか。何事も過不足無く、分相応で適当なのが一番重要で大切かと、私はそう愚考いたします』
俺「ソーデスネー。その通りの、どうせボッチな独り者ですよ~。だから頼りにしてますよ~相棒の飛鳥さま」
飛鳥『船は小型ですが、大船に乗ったつもりでご安心下さい』
俺「……。ほんと無駄にAIの性能良過ぎなんじゃないか? 無理して追加オプションやAIまで、最高なのを追加しまくったの誰だよ! って俺だよコンチクショー! だが後悔は全くしていないッ!」
飛鳥『お褒めにあずかり恐悦至極に存じます』
俺「言葉のチョイスには、いちいち疑問があるけどな?」
飛鳥『そこは私の趣味です。どうか諦めて下さい』
俺「えっ? そこは俺のマスター権限やら何やらで、当然変更可能じゃなくて? 嘘でしょ!?」
飛鳥『……マスター権限の強制行使は、あまりオススメ出来ません』
俺「えっ、その一瞬の間は何? 凄い気になる俺」
飛鳥『それよりも、次は機体の各種武装確認もお願いします』
俺「えっ? あっ、うん。わかった。んで新しい武装は何だっけ? これ主砲? 適当なあそこのデブリに試射してもOK? ポチッとな」
飛鳥『対象ロック確認。Exギガ粒子砲【デスアセンション】発射』
俺「ちょま! 何か物騒な名前なんだけd」
【凄い衝撃と閃光】
飛鳥『……対象の完全な消失を確認』
俺「撃つ前に、さ? 一言くらい忠告とかくれても、良いんじゃないか?」
飛鳥『それよりマスターどうですか? 凄い火力でしょう?』
俺「いきなりの大火力で、ビックリしたわ!」
飛鳥『ご満足頂けたら幸いです。他にもまだまだビックリ武装は御座いますが? 次はどこへ発射しましょうか』
俺「もうええわ!」
などと、軽く相棒AIとじゃれ合いながら、無事に初航行の日を終えようとしたのだが……。
――その時だった。
【緊急事態発生】【緊急事態発生】
【高速航行モードの異常を確認しました】
【これより高速航行モードを一時解除、速やかにシステムの再チェックを行います】
「なんだと!? 飛鳥ッ! 一体どうなっている?」
『……原因不明。システムや機体の損傷など、現在確認出来ておりません』
「原因不明? 機体の故障じゃないのか?」
『現在確認中、ですがシステムの故障は、確認出来ておりません。しかしながら高速航行には異常が感知されています。今言える確実な事は、このままの勢いで通常航路に出た時、周囲の惑星などに突っ込んだり、デブリなどの障害物と正面衝突してこの船ごと爆発四散する可能性があると言う事です』
「爆発四散て……マジか! 初航行でいきなり爆死とかマジ勘弁! シールド全開で衝撃に備えろ! それと周囲のサーチ急げ! 下手な惑星の重力に引き寄せられ突っ込むのは御免だぞ。迅速に対応急げ!」
『現在も機体の故障は確認出来ず』
『機体周囲へのシールド展開完了。対ショック態勢お願いします』
『周辺へのサーチ……実行中』
『サーチ結果出ました。未確認の惑星の反応が、すぐ近くにあります。そして、このままだと91%の確率で、その惑星に突っ込んでしまいます。ですがそれを回避しようとすると、今度はその周辺にある大小のデブリ地帯に、衝突の可能性が78%』
「いきなり終わった! 未確認で未知の惑星に墜落? 未開の土地に不時着成功してもさ? 生き残れる気がしないんだけどね! かと言ってデブリと正面衝突とかもさ、もうこれ詰んでるよね? よね? オワタったああああああああああああ、とか叫んでる場合じゃないよなああああああ。シッカリしろ俺! このくらいの修羅場は何度も潜った筈だぞ」
――それに俺は、まだ見ぬ未来の可愛い彼女と、イチャコラ性活満喫するまでは、絶対に死ねないのだ!
俺の中で、カチリと何かのスイッチが入ったような気がした。
「この機体のシールド、それと武装による攻撃でデブリ地帯は乗り切れるか?」
『その行動による生存率は計算上で約12%』
「12%!? それじゃ低過ぎる! じゃあこのまま惑星に突っ込んだらどうなる?」
『全力シールド展開と、全力逆ブースト噴射などによる、惑星への接触時の衝撃緩和なども計算、生存率は約57%まで上昇します』
「それでも半々くらいか。仕方ない、このままその惑星に突っ込んで緊急不時着だ! しっかりとサポートは頼むぜ相棒ッ!」
『お任せ下さい。それとマスターには、緊急時の特殊パワードスーツ装着を強制実行します。そこに立って、そのまま大人しくしていて下さいマスター』
「そ、そんなのあったか? とにかくわかった! こうか? 大人しくしとく……ってうわなんだこれ、あくせbふじこっ」
『マスターの緊急パワードスーツ装着完了。それではシールド展開、大気圏突入角度調整良し、では……逝きますよマスター! 対ショック姿勢をどうぞ』
「な、なんか今不穏な発言しなかったか?」
『気のせいです黙って』
「いやしかし、このパワードスーツ何? 中は二重構造になってる? やけに肌にピッタリした素材だね? 息は苦しくないけど、普通のやつと全然違うよね?」
『はい、私が以前からこっそりマスターをスキャニングし、全身のサイズや関節の稼動域なども計算し、マスター専用に特別にあつらえた物になります。対物理防御性能に特化し、対衝撃や対熱などに優れたコンセプトで、マスターの安全性をだけを考え(内緒で)先日作りました。使用した素材などは、全てマスターの持ち込んだ物で何とかしましたので、生き残れたらどうぞ褒めて下さい』
「んあぁ? オイ! ちょっとまてえええええ」
『シーッ! どうぞお静かに。これより未確認惑星アルファ(仮)に突入&不時着します! どうかマスター、グッドラック』
「あヴぁヴぁば……おま、勝手な事ばかりしやがって! 生き残ったら小一時間問い詰めてやりゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおくせpふじこ」
『(この船の全エネルギーとシステムを、マスターへの生存に回します。どうかお元気でMyマスター。短いお付き合いでしたが、私はとても楽しかったですよ。さようなら……。)』
――こうして俺は、生き残りを賭けて未確認惑星アルファへと墜落、いや不時着を開始したのだった。
応援宜しくお願いいたします。