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「まあ、私から渡せるのはこの剣ぐらい。あなたたちもアルスターに片棒を担がせるつもりなら、何か役に立つものを渡しなさいよ」
「いや、そんな悪いよ……」
「妖精女王にそんな煽られちゃな。ドワーフ王として、黙っているわけにはいかねえよ」
僕の意見は無視されて、ドワーフ王が近づいてきた。
「仕方ねぇ。俺からはこれをやろう」
そういって、ドワーフ王が渡してきたのは、自分の指から外した指輪だった。細かな模様が刻まれていて、小さな宝石のような綺麗な石がはまっている。
「アルスターの指はドワーフのように太くはないのよ。そんな大きな指輪、つけれないし、それにそもそも指輪なんて必要ないでしょ」
「まあ、そう結論を焦るなよ、妖精女王。おい、坊主、左手を出せ」
ドワーフ王に言われたとおり左手を出すと、指輪を僕の人差し指につけてくれた。だが……。
「ほら、やっぱりサイズが合わない」
僕もメリルと同じことを思っていたら、指輪の輪が急に狭まり、僕の指を程良く締め付けた。
「ドワーフ王の俺が直々に作った指輪だ。サイズの違いなんて些細な問題よ」
これがドワーフの技術力。あの太い指につけていた指輪が僕にもちょうどいいサイズになるなんて、すごいという言葉以外に思いつかない。
「誰にでもサイズを合わせることができる指輪……なるほど、だからこれは奪われなかったのか……」
人類王が興味深く指輪を見ながら外そうと試みていたが全く外れることはなかった。だから、パンツ一丁だけれど、この指輪は奪われなかったのだろう。
「まあ、すごい指輪だっていうのは分かったけど、今はそんな装飾品、売り払うぐらいしか役に立たないわよ」
「だから、結論を焦るなって。坊主、その指輪に力を入れてみろ」
「力って言われても……」
よく分からないが、僕に拒否権はないようなので、言われたとおり、指輪を付けている左手の人差し指に力を入れてみた。
すると、指輪の装飾がまるで丸めたスポンジのように勢いよく大きくなり、真ん中にオレンジ色の綺麗な宝石をあしらった盾へと変化した。
「す、すごい……」
もはや、先ほどからすごいという驚き以外の感想が思い浮かばなくなっていた。
「剣ときたら、次はやっぱり盾だと思ってな。俺製の一級品だ。性能は保証するぞ。どんな刃も通さない」
「ふぅん……。それって、私の剣も効かないってこと?」
「妖精女王の私物ではないだろ。それに、この盾にはオリハルコンを使っている。魔法の剣だかなんだか知らないが、世界一の硬度を誇るオリハルコン以上の鉱石なんてありはしない」
「へえ……。そこまで自信があるなら、試してみましょうよ。アルスター、その剣でその盾を真っ二つにしてやりなさい」
「坊主、遠慮はいらん。その剣、折ってしまえ」
やっぱりエルフとドワーフは仲が悪いのだろうか。
「まあまあ、お二人とも落ち着いて。せっかくエルフの最強とドワーフの最強が揃っているんだ。どちらかが欠けるなんて儂らに利益はないだろう」
人類王だけでも仲介してくれてよかった。こんな状況、僕では手に負えなかった。