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「この4人で世界を救うのはいいんだが、まずはこの状況をどうするかだな。残念ながら、俺たちは全員パンツ一丁。戦うにも素手ではな……」
「儂は素手でも戦えるぞ?」
「人類王、お主も歳だろ? 自分の体を少しは考えろ」
武道の達人のような気迫を放つ人類王をドワーフ王が軽くあしらっていた。
「あら、武器が欲しいなら出してあげるわよ」
僕の手の中ある宝石、メリルがしゃべると同時に、目の前の空間が歪み、そこから綺麗な棒が出てきた。
「引き抜きなさい、アルスター」
言われるがままに、空間から飛び出ている棒を引き抜くと、そこから薄暗い牢屋の中でも光り輝くような綺麗な刀身が出てきた。
「おぉ! それが噂に聞く妖精界の宝剣か!」
「ええっ!?」
ドワーフ王の言葉に思わず滑りそうになった手を慌てて握りなおした。
「そ、そんなもの、どうして……」
「世界を救うのよ? それに見合う剣なんてこれしかないでしょ」
「いやでも……」
これを持つには、僕は力不足にしか思えない。もっと相応しい人間、例えば、人類王とか。
「これは僕が持つべきではないですよ。じ、人類王、あなた様が持つに相応しい」
「無理じゃ無理じゃ。儂にはその剣は重すぎる」
「い、いえいえ、そんなことはないですよ! この剣はまるでガラス細工のように軽く、風のように自由に動きますよ!」
宝剣と言うだけあって、村でもらった剣に比べるととても扱いやすい。おそらく、切れ味もかなりいいのだろう。
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、私はその剣をアルスター、あなたに託したのよ。それを気軽に他の者に渡したりしないでちょうだい」
「あ……すいません……」
宝剣なんだから誰にでも渡せるようなものではない。メリルは僕を選んで渡してくれたんだ。その妖精女王の意志を蔑ろにしてはいけない。
「いいのよ。別に。どうせ手放そうとしても簡単には手放せないから。試しにその剣をその辺に捨ててみなさい」
「い、いいんですか? 床、石ですよ? 傷ついたりしますよ」
「大丈夫よ。妖精女王の私が言っているんだから信じて手を離しなさい」
「分かりました……」
握っている手から力を抜くと、手から剣が離れ自由落下し、そして、石の床に甲高い音を響かせる。と思ったのだが、甲高い音を響かせることはなかった。
剣は床に落ちることはなく、手から放れると、まるで幻だったのかのように消えてしまった。
「剣が、消えた……。え、ぼ、僕、何かまずいことしましたか? ただ手を離しただけなんですけど」
僕のせいで妖精界の宝剣を消してしまったと焦ったが、どうやら違うようだ。
「所有者の手から放れると妖精界に戻る仕組みなの。盗難防止には最適でしょ?」
自分のせいで消えてしまったわけではなくて安心した。
「それで、次に出すときにはどうするんだ? まさか、一々、妖精女王が出す訳じゃないだろ?」
ドワーフ王の言う通りだ。一々出すのに時間がかかっては使い勝手が悪い。
「今から話すところ。せっかちなのは嫌いよ、ドワーフ王」
「妖精女王に好かれる気はないから早く説明してくれ」
「分かったわよ」
妖精女王も気が強いが、ドワーフ王もなかなかに気が強いようだ。気が強くないと王の責務を全うできないのだろうか。
そう思っていると、メリルの強気な声が僕の名前を呼んだ。
「アルスター、剣を握りなさい」
「剣って言われても……」
周りに剣なんてものはない。
「空想、想像でいいの。そこに剣があると思って握ってみなさい」
おそらく、それであの宝剣が出てくるのだろうが、信じられない。信じられないのだが、メリルを信じて言われたとおり空想の剣を握ると、本当に宝剣が出てきた。
「おっと……」
出てくるかもしれないと覚悟はしていたが、いざ出てきたら落とすことはなかったが、刀身は傾いた。
「妖精女王の権限でアルスター、あなたに我らが宝剣の所有権を移譲しているの。だから、あなたの意志で宝剣は動いてくれる」
「ほほう。妖精女王の権限ね……」
ドワーフ王の含みのある言い方は、おそらく、元妖精女王なのに妖精女王の権限なんてあるはずがないといいたいのだろう。
「妖精女王は終身在位。なぜなら、妖精女王としての力は死なない限り継承はされないから。だから、まだ私には妖精女王としての権限は残っている。でも、権限って言っても、宝物庫からものを出し入れしたり、禁書庫への立ち入りができたりするぐらい。そこまで、便利じゃないから」
「お国柄って奴か。お互い、大変だな……」
ドワーフ王がよくメリルに噛みつくので、ドワーフはエルフが嫌いなのかと思っていたのだが、そういうことでもないようで安心した。