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「まさか、妖精女王……」
誰と間違えているのかは分からないが、人違いだ。
「いえ、僕は小さな村出身の」
「如何にも! 私が3代目がエルフの王、妖精女王、メリル・トリアーナです」
僕の声を遮ったのは、手の中にいる宝石、メリルだ。けれど、なにを言っているのか、理解が追いつかない。妖精女王? エルフの王? メリルが?
「あなたのその声、私も聞き覚えがありますよ」
「ずいぶん昔だというのに、覚えていてくださっているとは光栄ですな。儂は26代人類王、ユーサー・ペンタグラム。しかし、元、ですがな」
「言わなくても、分かっているわよ。こんな牢屋にそんな見窄らしい格好をしていればね」
「面目ない。しかし、ということは、妖精女王、あなたも……」
「その通り。私も元妖精女王よ」
あまりの情報量に、頭がパンクしてしまった。
メリルがエルフの王なのもそうだが、この老人が人類王? 王都の中心にある王城で全人類を統治しているあの人類王? つまり、こんな薄汚い牢屋で大陸にある二つの国、エルフの国と人間の国の王が会合しているということ。しかも、二人とも現役の王ではなく元? もう宝石のメリル、もとい、妖精女王を持つ手が震えないように堪えるので精一杯だ。
「それで、妖精女王、おまえさんはなぜ宝石なんぞに? 前は人と同じ形をしておっただろう」
「宝石にされたのよ。マーリンとか言う魔術師にね」
「マーリン……人間の国だけでなく、エルフの国にまで行っておったか」
「その様子だと、あなたもマーリンに追い出された口ね。なら、王都に行けず、ここで捕まったのは幸運ってことかしら。まあ、人類王がこんな場所にいるとは思わなかったけど」
「元、人類王じゃよ。儂だって、まさか妖精女王が宝石にされているとは思わなんだ」
「私も、元、妖精女王よ」
二人、笑っているが、僕は笑えない。こんな二人の王が「元、王だ」とか笑い話のように言われても、すでに緊張で感情は失われている。
「それで、元、妖精女王はおまえさんは何か儂に頼みたいことでもあったのか」
「えぇ。この宝石に閉じこめられた状態から抜け出す方法をね。人間の魔法だから人間に聞けば分かると思って」
「そうか……じゃが、エルフでも知らん魔法は人間も知らんぞ。おそらく、術者のオリジナルじゃろうな」
「そうよね……駄目元ではあったんだけど、やっぱり無理ね」
希望はない。そう思えたが、人類王があることに気づいたようだ。
「そうじゃ。宝石であるならドワーフはどうじゃ? 鉱石の扱いには長けておると聞いたが」
「それは無理だ」
またしても、話に横から入ってくる者がいた。一緒の牢屋にいる小柄でやけに丸っこい男だ。