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「用も済んだことじゃし、さっさと行くぞ。あんまり長居しすぎると見回りが……」
人類王が気にした途端、足音が聞こえてきた。
「しっ! 階段からじゃ」
人類王が年老いた体とは思えない素早い動きで階段近くの壁に張り付いた。
「壁に張り付いて、何をしているんだ人類王」
「隠れてるんじゃ! それより静かに! 見回りが来るぞ!」
「そんなの、正面から叩き潰せばいいじゃない。そのための剣と盾でしょ?」
「戦闘はなるべく回避するべきじゃろ。というか、言い合いしている場合じゃ……」
そう言っている間にも、足音は間隔が短くなっていき、そして、すぐ近くまで着た。
「牢屋の鍵が……。お前等、何してんだ!」
見回りに来ていた若者が慌てて階段を下りてくる。丸腰ではない。腰には剣を下げているように見える。戦闘は免れない。剣を出す準備をしておこう。対人戦は初めてだが、こうなることは覚悟していた。大丈夫だ。気持ちを落ち着かせて手の震えを落ち着かせる。
「鍵が壊れたのか? ったく面倒だな。おとなしくしてろよ」
慌てたのか、小走りで階段を下りてきた男は角に隠れていた人類王に気づくことはなかった。
「うぐ……」
人類王の不意のストレートパンチで、見回りに来た男は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「おぉ……。人類王、武術の心得があったとは……。口の中から鍵を出したときはなんだこの王はと思ったが、なかなかやるではないか」
「護身術じゃよ、護身術。人類王というものは、よく暗殺者とかに狙われていてな。例え寝室で寝ている時に襲われても撃退できるように素手でも戦えるようにしとるんじゃ……お、なかなかの業物じゃの。それに服も高価な生地ではないか」
人類王は説明しながら気絶した男の身ぐるみをはがしていた。それはまさに盗賊の姿だ。
「……人類王がやることじゃないわね。人からものを奪うなんて……」
「こやつらは盗賊じゃぞ? 儂らから衣服を奪ったんじゃ。因果応報じゃ」
そう言って、見回りに来た男の衣服を着てしまった。流石、人類王。盗賊が着ていた服なのに、人類王が着ると様になる。
「あぁ……剣はいらんかの。重いし。この程度の相手なら素手で十分じゃ」
僕は、どのタイミングで妖精界の宝剣で切りかかろうかと思っていたのに……。やはり、人類王ともなると、小さな村出身の僕とは比べものにならない。でも、元ではあるが三王と一緒に旅をするんだ。これぐらいの機転が利くように精進しなければ。
「ドワーフ王、剣はいるか? 儂には不要なんじゃが」
「俺は武道の心得はないからな。剣ぐらいは持っておこう。だが……これが人間にとっての業物か。これなら赤子でも作れるぞ」
「ドワーフを基準にせんでほしいのう」
人類王はドワーフ王に剣を渡した。これで、一応、全員の戦う準備はできた。
「とりあえず、外に出るまでに全員分の衣服ぐらいは揃えたいのう」
「人類王は強かだな」
脱出に加え、衣服の奪取も僕らのノルマに加えられた。