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仕返返し  作者: 七星北斗


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8/8

プロローグ 吸血鬼狩り


 夜は静かすぎた。

 町は眠っているというより、死んでいるようだった。


 その死骸の中を、二つの足音が進む。

 先を行く男と、影のように付き従う少女。


 男が立ち止まる。

 少女も止まる。


 それは偶然ではない。

 狩りの距離だった。


「……いつまでついてくるつもりですか」


 男は振り返り、少女を見下ろす。

 吸血鬼特有の赤い瞳が、獲物を値踏みするように細められた。


「信仰派、ですよね? じゃなきゃ、こんな時間に私を尾行する理由がない」


 吸血鬼は少女の腕を掴む。

 骨の細さに、嘲るように口角を上げた。


「正直に言えば、血を吸うだけで済ませてあげますよ。抵抗しなければ、痛くもしない」


 少女は答えない。

 恐怖も、怒りも、命乞いもない。


 ただ――底の抜けた眼で、吸血鬼を見ていた。


(……空っぽ?)


 吸血鬼は思考を読むため、視線を重ねる。

 次の瞬間、脳を殴られたような衝撃が走った。


 そこにあったのは、感情ではない。

 殺意だけで形成された、異常な意思。


「っ……!」


 吸血鬼は思わず身を引く。

 だが、すぐに自分を嘲笑した。


(馬鹿な。吸血鬼(わたし)が、人間に怯えるわけがない)


「……黙秘ですか。それとも、声を出せない?」


 吸血鬼は少女のシャツのボタンを外す。

 支配の証のように、ゆっくりと。


 次の瞬間――


 少女は、吸血鬼の手を叩き落とした。


 そして、口を開く。


 ――吹きかけられたのは、透明な液体。


「ぎ、あああああああああ!!」


 肉が焼ける音。

 魂が腐る感覚。


「せ、聖水……!」


 吸血鬼はのたうち回る。

 少女は、その様子を無感情に見下ろしていた。


 彼女は喋らないのではない。

 喋る必要がなかった。


 サイホルスターから銃を抜く。

 迷いはない。祈りもない。


「触るな。吸血鬼」


 冷たい声が、夜を裂く。


「お前に触れられた時点で、不快だ」


 銃口が額に当てられる。


「死ね。吸血鬼(くそやろー)


 銃声。

 頭部が弾け飛ぶ。


 それでも吸血鬼は、まだ死なない。

 少女は理解している。


 だから――心臓を撃ち抜いた。


 吸血鬼の身体は崩れ、灰になり、意味もなく風に散った。


 少女はその中で、微笑った。


 それは勝利の笑みではない。

 復讐を果たしても、何も埋まらない人間の顔だった。


 スマホを取り出し、通話を繋ぐ。


「……ナノフ。終わった」


 声が、微かに震える。


「吸血鬼を殺した。でも……身体が、言うことを聞かない」


『初任務、成功だ』


 受話器越しの声は、淡々としていた。


『君が殺したのは怪物だ。人じゃない。救われた命の方が多い』


「……それでも」


 少女は、呟く。


「寒い。手が、震える」


『今日は休め。戻ってきなさい』


 通話が切れる。


 少女は歩き出す。

 ふらつきながら、それでも止まらず。


 彼女の目は、もう次の獲物を見ていた。


 進むことしか許されない。

 立ち止まることは、許されない。


 これは――

 血を浴びても救われなかった少女が、怪物を殺し続ける物語。

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