プロローグ それすらも平穏な日常
ゼグライド本編です。
友人と飲みに行き、ゼグライド外伝をなろうに書いてます、と言う話をしたら。「本編は?」と言う至極もっともな質問をされました。
マサルさんじゃないんだから本編書かないとまずいね。と言うことで書き始めましたが、外伝の合間に書くことになるので超不定期連載になるかと思います。グライド開発前の話になるのでロボとか超メカみたいなものは出ないかな。ハードSFを目指してますが、作者の力量でどこまで出来るかは疑問w
プロローグ
「それ」は、人の造った物ではなかった。
「それ」は体内から膨大な数の感覚器官を広げ、宇宙の闇の中をゆっくりと漂っていた。
永い永い年月をかけ、「それ」はあるものを探し続けた。宇宙は無限と言えるほど広く有限の速度しか持たない「それ」にとって限りなく困難なことだった。無数に創り出された「それ」の兄弟達にとっても同様だっただろう。生き物ではない「それ」は自分の体が壊れるまで探し続るしかなかった。
光速を遥かに超える速度で宇宙の海を漂い続けた「それ」は、ついに目的の物を見つけ出した。
感覚器官に微かに感じる信号を追ってたどり着いた先には、青く輝く小さな星があった。
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始めはただの小惑星だと思われていた。
地球に非常に接近する軌道を取っていたので一部では話題になっていたが、万一地球に到達しても大気圏で燃え尽きると考えられた。
だが有り得ないことに、その小惑星は地球に接近した後そのまま安定した衛星軌道を回りだした。
偶然では起こりえない事態に各地の天文台や研究機関、そして大小様々な国が慌てて詳しい調査を開始しだした。だが解ったことは少なかった。
形は縦に潰れた歪な球体。
表面のほとんどは光を吸収する素材で出来ていたため大きさの測定がし難く、衛星軌道を回り出した後に図られた正確な大きさは最長部分で13.076km、最初に報じられていたよりもはるかに大きい事がわかった。
いくつかの大国は宇宙船を打ち上げ直接小惑星に取り付き調査を行った。だが異常なほど強固な物質で出来ており表面に傷すら付けられず、何で出来ているかということも判定出来ないため科学者達の間では、あれは物質ではなく擬似物質と呼ばれる特殊なエネルギー形態ではないかと言うものもいたが、実際の事は解らなかった。
異星人の宇宙船ではないかと言い出した者達が、レーザーや放射線、無線などを使ったコミュニケーションを行なったが、それに対しても一切反応はなかった。
結局、チャミュエルと名付けられた小惑星については何も解らないまま数年が経ち、人々の多くは小惑星から興味を失った。それは、見なければ無かったことに出来ると信じているような愚かな行為だとも知らずに。
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1 . それすらも平穏な日常、二郎の場合
「それじゃ、行ってくる」
神坂二郎は生まれたばかりの子供、良一郎を抱いた妻の真理恵に手を振って車に乗り込む。二郎の職場は自宅から40分程かかる場所にあるが渋滞を避けて少し早めに出るようにしている。
ラジオをつけると、丁度交通情報を流していた。特に渋滞もないようで、道路の流れはスムーズだった。国道を60Kmくらいで走らせ、窓を開けて煙草に火をつける。
「家だと赤ん坊の良一郎が居るから煙草吸えないんだよなあ。最近煙草吸い過ぎだし、これを機会に禁煙するか」などと思っていると
クシュン
急にくしゃみが出る。花粉の季節はまだ終わっていないようだ。
会社につき、車を地下の駐車場に入れる。二郎の車はホンダのシビック。車にこだわりのない二郎が中古車を値段で適当に選んで買ったものだが、特に問題もなく良く走ってくれる。
階段を上っていると、女子社員とすれ違う。
「おはようございます」
女子社員がペコリと頭を下げ挨拶してくる。最近入ったばかりの娘だったな。名前なんて言ったかなあ。
「あ、ああ。おはよう」
適当に挨拶を返し、階段を上る。
その時胸に入れたスマホから、耳につく嫌なアラーム音が鳴る。何処かで聞いた事がある音だな。
ああ、思い出した。某国が弾道ミサイルを打ち上げた時に鳴っていた音と同じだ。
スマホを取り出し画面を見る。
**緊急速報***
5月2日 午前7時35分現在、小惑星チャミュエルから何らかの物体が発射され、神奈川県厚木市***に落下した模様。某所は自衛隊による緊急封鎖が行われ…
ちょっと待て、そこは俺の家のすぐ近くじゃないか。二郎は慌てて階段を駆け下りる。
「あ、神坂さん…」
「済まない、課長に今日は休むって言っておいてくれ」
すれ違った女子社員にそう言うと二郎は車に飛び乗った。
来た時と打って変わり、国道は異常に渋滞していた。家に電話しても全く繋がる様子がない。
焦っても仕方ないとわかっているが、イライラしてやたらに煙草をふかす。
そうだ、メールなら送れるかも。災害時でもメールは繋がりやすいと聞いた事がある。
普段スマホでメールとかほとんど使っていないのが災いして、一通のメールを送るのにも時間がかかる。
渋滞で動かない車の中でじっと返信メールを待つ。
程なくして真理恵から返信メールが届く。よかった、無事のようだ。
自宅待機するように指示があったらしく、家の中にいるみたいだ。
安心して車のシートにもたれかかる。ふと、窓から空を見ると何か光るものが尾を引いて飛んでいる。隕石?
それはそのまま尾を引いて落ちていった。その後目を覆うばかりの閃光が起こり、しばらく経ってから腹に響く低音の響きが来た。
その後、何度メールしても真理恵からの返事はなかった。
2.それすらも平穏な日常、洋二の場合
駅の外にある待合室のベンチに座って、缶コーヒーを飲んでいた藤原洋二はダークグリーンに塗装された無骨な車が何台も走りすぎるのを目にする。
「自衛隊の車?やけに多いなw何かあったかな」
ここから自衛隊の駐屯場はそれほど離れていないので、時々自衛隊の車は見かけていたが今日ほど多く走っているのを見るのは初めてである。
スマホでツイッターを見てみると。
小惑星チャミュエルから発射された物体。落下地点は神奈川?と言う記事を見つけた。
「この辺に落ちてくるのかな。やばいな」独りごちているといきなりスマホから嫌な音のアラームが響く。
「うおっ、何だよビックリさせるな。ん、何かあるな」
スマホ見ると。
**緊急速報***
5月2日 午前7時35分現在、小惑星チャミュエルから何らかの物体が発射され、神奈川県厚木市***に落下した模様。某所は自衛隊による緊急封鎖が行われ、付近住民は自宅での待機を…
「ホントにここに落ちるのかよ。でも落下した模様ってあるからもう既に落ちたって事だよな。じゃあ大丈夫か。焦って損したw 自宅待機ってなってるから、今日は学校休みだな」
ベンチから立ち上がりパンパンとお尻の埃を払い歩き出す。
「帰って寝なおすか。いや、折角休みなんだし勿体無いか」
色々考え、積みゲーを崩すことにする。
その時洋二は周りの人々が空を見上げ指差しているのに気がつく。
上を見上げると光の線が縦に伸びている。
「何だあれ」
その直後、眩しい光が周りを包んだ。