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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第九章 「一つの戦争が終わり、その子孫が悲劇へと育つまで」
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第九十七話 赤き皇帝

 雨が止み、夜が明けるのと同時に、味方駆逐艦は沈みゆく輸送艦へとようやく到着した。


 敵海軍の妨害に遭っていた彼らは、それを何とか撃退し、脱出した『黒騎隊』と輸送艦乗組員、そして礼一少年とヨハナの乗るカッターを収容して、ルメンシス内海を突破することに成功したのだ。


 ちなみに、その間は、ルメンシス海軍の妨害には遭っていない――本当の本当に、彼らは戦力を使い果たしたのか?


 実際問題、その問に対する答えはYESなのだが、それでも、それは妨害できなかった理由ではない。


 本当の理由は――彼らの所属する国家が、敵国と停戦条約を結んだからだった。


 『騎士団』の機装巨人が撤退したのも、事前にその情報を知っていたからというのが一因としてある。


 しかし、神聖帝国では、事前に知っていたものは一部の高官のみに限られ、前線の兵士にとってはあくまで噂程度でしかなかった。


 特に、ルメンシス襲撃を果たすため前線から隔絶されていた『黒騎隊』の隊員たちにとっては、全く以て寝耳に水であった。


 すると、あらゆる知らせがそうであるように、その反応も三者三様であった。


「停戦か――やれやれ、これでようやく帝都のカワイ子ちゃんたちとデートできるぜ」


 と、マルセリアのように歓迎するもの。


「停戦……確かに、妥当な線ではあろうが……」


 と、ハートマンのように停戦の是非について懐疑的なもの。


「停戦だと!? そんな馬鹿な! 本当に帝室から発せられた命令なのか!?」


 と、ガランドルのように停戦そのものに激昂するもの。


 それぞれの思いを乗せて、艦隊はガブリルテーエーへ寄港。そこで乗員を別の輸送艦に移し、そこから船旅を経て、帝国の北部に位置する軍港へと入った。


 しかし、礼一少年はその船旅の間、ずっと目隠しをされていたので、船はどこかの港に止まり、自分はそこで降ろされたということしか分からなかった。


 それどころか、今度こそ体を拘束され、排泄と二日に一度の入浴の他は身動きが取れなかったのだ。


 これは、取り巻きの兵士がいたとはいえ、ヨハナを奪還する寸前まで『黒騎隊』と渡り合った、その原因が彼であろうという判断であった。


 無論、そこにはいくらかの誤解もあって、例えば『騎士団』兵士が殺害した見張りを彼の戦果として数えていたり、『騎士団』と初めから内通していたとされていたりするのだが、それは過大評価ではあっても、決してやりすぎではなかった。


 事実、彼は孤児院の戦いで二人の『黒騎隊』隊員を殺害していたし、見張りに対しても気絶させるところまでは抵抗したのだし、そもそも機装巨人乗りという時点で十分危険であろう。


 というより、今までずっと、彼は侮られてきたのだ。


 危険とはいえただの少年だから、という認識が、最終的には作戦全体を狂わせた――その対策は当然必要である。


 とはいえ、実際の彼がどうだったかと言えば、たとえそれらがなくとも、何もしなかったのだが。


 彼は憔悴しきっていた。自分の唯一の取り柄であった戦いに破れ続け、ヨハナを守れなかったという事実を何度も重ね、それを反芻するだけのことしかできない――それがあの戦い以来の彼の姿だった。


 いや、あるいは、ただ単に身体的疲労が溜まりに溜まっていただけかもしれないが。


「歩け」


 輸送艦から降ろされたときに乗せられた車(だと彼は揺れと音から判断した)から降ろされると、彼は誰とも分からぬ兵士に後ろから命令された。


 銃を自分の背中に向けられているわけではないようだったが、兵士の声には必要とあらばいつでもそうするという凄みがあった。どうやら、あの船に乗っていた生き残りらしい、と彼はそう考えた。


 すると、抵抗はほぼ無駄――後ろに物騒な気配を感じながら礼一少年はとぼとぼと歩いた。


 しかし、彼は歩く内に、段々と奇妙な感覚を抱いた。


 距離が長いのである。


 車で進入できないのは、初っ端に階段を上らされたので分かるとしても、とにかく歩かされるのである。


 それは、普段ならともかく、彼史上、最長期間の拘束をされていた礼一少年にとってはかなりの苦痛であった。


 もちろん、目隠しされているので正確な距離は分からないし、角を曲がったり階段を上ったりと、とかく入り組んで苦しい道のりを辿ったから長く感じる、というのは理由としてはあるだろう。


 とはいえ、その回数が非常に多かったことを思えば――恐らく、広い建物の中にいることは間違いなかった。


「跪け」


 ずっと聞こえていた堅い足音が聞こえなくなるほど歩くと、命乞いをしろ、という幻聴が聞こえそうなほど冷酷な声で礼一少年の後ろにいる兵士は命令した。


 当然、彼は言われた通りに膝を折り、そこに伝わる柔らかさを感じた。


(絨毯――?)


 服越しの感覚とはいえ、今までの足音から想像していた衝撃は彼の足まわりに伝わらなかったということは、彼を少なからず驚かせた。


 なるほど後ろの軍靴の音が聞こえなくなったのも、彼が疲れ切ってしまったからではなく、これに消音されたかららしい。


 しかし、床に敷かれているのがこの世界の(正確に言えば、『この時代の』)絨毯となれば、ただの家のリビングというわけにもいくまい。


 当然、それ相応の格式のある場所ということで――。


「ふむ――大役ご苦労だった、ハートマン少尉」


 今までとは違う、正面からの声。それは、今までの若く、活力に満ちた声ではなく、どちらかといえば年老いていて、だからこその老獪さを感じさせる声であった。


 違うのはそれだけではない。声が発せられている位置が、礼一少年には遠く、かつ高く感じられた。


 しかし、このように礼一少年が経た思考のあれこれは考慮されずに、男たちは話を続ける。


「しかし、そのような格好でというのは感心せぬな――むしろ寒心する。彼は許されざる罪人かね? 余は彼を余の客人だと思っていたのだが……余は一体どのように貴公に命令しただろう。貴公は軍人、しかも『黒騎隊』であるが、どうかね?」


 礼一少年は、当然のことながら、そう言ったとき正面の男がどのような顔をしていたのかは見えていなかったが、少なくともその声色は少なからず本物の怒りを含んでいた。


 その一方で、背後の兵士――ハートマンというらしい――の声は平然としたものだった。


「この者がご客人であるにもかかわらず、また国のために殉ずる誓いを立てた騎士であるにもかかわらず、命に逆らってこのような拘束を施していることは大変申し訳なく存じます。


 しかし、優秀な士官というのは必ずしも命令のみに従うものではありませぬ――ご存じのこととは思いますが、こと戦場におきましては臨機応変こそが求められるもの。


 恐れながら申し上げますと、この者は私めの部下を二名殺害しており、お恥ずかしながらこの私自身も脱出の車中においても一杯食わされました。


 それのみならず、戦闘中の状況から判断いたしましても、『騎士団』をはじめとしたルメンシス教国皇帝軍とも繋がっていると思われます。


 と、しますれば、かような危険人物を我が主君の御前へただ通すだけというのは、最早不忠であると愚考した次第であります。」


 礼一少年は随分と長い言い訳だと思ったが、ハートマン――それは、あの車中での男らしい――にとって、それだけ丁寧に事を進め、言葉を選ばなければならない相手らしいということは彼にも理解できた。


 しかし、その長さは彼の思考からもっと注目すべきで、最も注意すべき単語をまるで氾濫した川のように押し流した。


 「我が君」、というそれを。


「なるほど、貴公の忠義にも一理ある――」


 その「我が君」は、自らの家臣の言葉にそのようなワンクッションをおいた。


「――しかし、だ。如何に凶悪な男といえども、その目隠しは不要だろう。貴公の忠義が彼の手足を拘束したと申すならば、たとえ見えたとしても、余に対して何もできるはずがあるまい……違うか?」


 すると、自分の言動を逆手に取った言葉を受けた後ろの兵士は閉口したらしかった。


 程なくして衣擦れの音がしたかと思うと、後頭部にある目隠しの結び目に手がつけられ、すぐに礼一少年の視界は暗闇から解放された。


 とはいえ、鋭い光が闇に変わって彼の視力を一時奪ったので、何か大きな椅子のようなものを背に何かが――誰かが立っていることしか分からなかった。


 一つ付け加えることがあるとすれば、光はカラフルだった、ということ――それは、ステンドグラスによるもの。


「初めまして、になるのだな。君とは」


 光の中から先ほどの老獪な声が聞こえた。それが一言聞こえるにつれて、その長身ながらがっしりとした背格好や、軍服を赤く染めて金属の装飾を散りばめたような服装――そして、頭の上の王冠も、見えるようになってきた。


「余は、神聖帝国第二代皇帝――『赤き皇帝』カール・フォン・ライヒスブルクである! 君がこの国に来ることができたことを心から祝福すると共に歓迎する」


 その声からは、先程までのような取り付きにくさというか、高貴すぎる雰囲気のようなものは取り払われていて、異国から(あるいは異世界から)来た礼一少年の心を溶かそうという努力がそこには見て取れた。


 しかし、その努力は意味をなさなかった――何故なら、この皇帝を名乗る男の顔の上半分は、白い仮面で隠されていたからだ。

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