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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第八章 「一つの艦が出航し、水平線に消えるまで」
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第八十九話 闇夜の奇襲

「右舷――二時方向に敵機装巨人複数……訂正! 数、三! 距離およそ三千と推定!」


 三千、という数字を聞いて、中佐は憤りと焦り、そして違和感を同時に感じていた。


 その観測情報が示すことの内、まず一つ目は、彼の艦が、大方の機装巨人の装備する魔砲の対艦射程距離の寸前に入られるまでそれに気づかなかったということである。


 夜間。霧雨。当然月明かりもなく、視界は圧倒的に不良である――その逃げ隠れするにはうってつけの気象条件が、新兵ばかりの寄せ集め艦であるという追加条項によって全て裏目に出たのだ。


 彼らのほとんどは、ベテランの持つ、実戦で鍛え上げられた「目力」を持っていない。


 それは視力のことではない。農村出身の視力に優れた新兵にはない、敵味方識別能力と勘のことである。


 更には、艦自体が民間改造の急造品であるという特性も悪影響を与えた。


 もちろん民間船からの改造であるということは、魔導反応――魔力が生み出されたり使われたりしたときに生じるもの――も民間船の波形を出すという、「探知される側」としての利点を与えたのだが、「探知する側」の性能が低くなるという欠点が一面として存在していた。


 つまり、強度や偽装の関係から、探知器の性能が非常に弱いものであったのだ。


 そこに、霧雨という気象条件が重なる。雨や雷といった天候は、拾われる魔導反応にノイズを生み、探知能力を下がらせる。


 その上、相手は小さい機装巨人である。


 しかも僅かに一小隊規模である。


 そのような、正規の軍艦でも発見の難しいレベルの敵勢力を、どうしてこのような欠陥品で発見できるだろうか。しかもこの悪い天候条件で?


 それら数々の問題点が積み重なり、こうして距離二千という致命的観測結果が中佐率いる輸送艦の目の前に立ちふさがったのだ。


 しかし、その壁は、また、中佐の脳裏にもう一つの見方を提示した。それは、これはおかしい、という認識である。


 現実逃避ではない。それは純粋な違和感なのだ。この中佐は、独立戦争時代から戦い続けてきた生粋の船乗りである。


 その経験の中には、機装巨人に追い回された苦い思い出もある。


 そこから彼が導き出していたのは――機装巨人は、大艦隊相手でもない限り、敵艦船を一方的に発見することはできない、ということである。


 これは簡単な理屈で、機装巨人程度の大きさでは、高さがないので探知機で反応を拾える範囲が狭すぎて意味をなさず、それを補うために高く広いレーダーマストを搭載するには機装巨人は非力であるからだ。


 もしそれを現実のものにしようとすれば、機装巨人としてはあまりに巨大なものになってしまう。


 そうなると、陸上ではともかく、不安定な海上では使えない上、ステルス性という艦載機装巨人特有の重要な性質が失われてしまう。


 そして何より、目の前の現実にそぐわない。


 だからこそ、中佐は奇妙に思うのだ。ならば今、右舷から迫る小さな巨人らは、一体どのようにしてこの艦を一方的に発見し得たのか?


 少なくとも、それは目視によってではなかろう。いくら艦が相対的に大きくても、夜間に霧雨では条件が悪すぎる――多少なりと海面も荒れることを考えると、背の低い機装巨人ではこの船がそうするよりも難しいはずだ。


 そもそも、出撃していること自体がおかしい。司令部たる首都が壊滅的被害を受けているのだから、出撃命令を下すにも、情報が錯綜していて何もできまいし、襲撃を受けたということ自体、伝わっているか怪しい。


 よしんば出撃と発見に関して偶然による何らかの手助けがあったとしても、例えばそれは哨戒コースの途中で見つかったということ――しかし、それでは、辻褄が合わない。


 何故なら、機装巨人というのは基本的にあまり航続距離が長くないからだ。


 ガブリルテーエーの海戦により、中継基地となる機装巨人母艦がルメンシス海軍から失われた今、余程ピンポイントに輸送艦の位置を推定して、航路に回り込まないと、帰る途中で魔力液が足らなくなる。


 それほど陸地から離れた位置を輸送艦は航行していたのだ。制海権のない中で機装巨人小隊が哨戒していること自体は不自然ではないにしろ、それでもそう遠くには行くまい。


「敵はただの哨戒部隊ではないかも知れん――砲雷長にそう伝えろ!」


 彼は、しかし、多くの名将がそうするように、その謎を一旦頭の外に置き、伝えるべきことだけを部下に伝えることにした。現場に必要なのは敵が強いか弱いかであり、現状分かっているのは、敵が、そのあらゆる困難の前提を越えてきたのだということ――つまり、強いということ――だけだったからだ。


 考えなくてもいいことや考えてもどうしようもないことを考えないというのは、指導者に必要な一つの才能である。


 そしてこれの真相はその類の出来事の内、後者に分類されることだった。


「中佐殿」


 そうして彼が迎撃への決意を固めたとき、彼を呼ぶ者があった。例の少佐――ガランドルである。


「何だ」


 中佐は数少ない防御火砲による絶望的な迎撃作戦を考えていたところだったために、その声色が不機嫌になったのには自分でも気づいていて、申し訳ないと思っていた。


「我々黒騎隊もお手伝いさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」


「何だと? ――ならん! 指揮系統が混乱する。それに『テオドール』は積んでいないはずだが?」


 『テオドール』というのは、シリーズ109のバリエーションの一つで、艦載機型のことである。


 何故彼らがそれらを積んでいないのかといえば、旧式とはいえ貴重な戦力であるそれを海軍が譲ってくれなかったからであった。


 であるから、ここでガランドルは海軍所属である中佐に皮肉を言ってやることもできたのだが、彼はそうすることを嫌った。明らかに建設的とは言えなかったからだ。


「自分は陸軍将兵でありますから海戦について詳しくはありませんが……それでもコンテナにある対機装巨人魔砲は有効でしょうし、機装巨人とて、移動砲台ぐらいにはなれるはずです。機装巨人はパイロットの判断に任せる形にはなりますが、魔砲はそちらの砲術士官の指示に従わせます」


 ガランドルの提案は魅力的であったし的確でもあった。故に中佐はわずかに唸る。


 実行は、できる。


 少なくとも不可能ではない。


 だが。


「ならば構わんが……艦からの射撃で機装巨人を落とすと? 本気で? 無謀に過ぎるぞ少佐」


 その言葉を聞くより早く動いていたガランドルは振り返らずにこう返した。


「その無謀無茶無策をこなすのが黒騎隊ですから」

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