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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第七章 「一つの戦争が始まり、全てを引き裂くまで」
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第七十九話 開戦――ルメンシスの場合

 時を少し戻す。


 郊外でクドウが死に、その最期のメッセージが発砲音という形で放たれたわけだが――もちろん、それはフェーゲライン邸にいるらしい「内偵」へのものなのであって、当然、街の中枢へは届くはずがない。


 単純に、距離が遠すぎる。また、街の背の高い建物は音を遮るだろうし、そもそも、街はうるさいものだ。


 そんなわけで、戦時下なりとはいえ、ルメンシスの街はその住人たちで賑わっていた。


 特に、数あるランドマークの一つであるコロシアムに続くメインストリートは、かつてかの大巨人「モイスヒェン」に蹂躙されたことがあるにもかかわらず盛況であった。


 むしろ、それで建物が新しくなったことで取り戻した精気がそのまま息づいている感じすらあった。


 もちろん、内海が押さえられてしまっているので、海外から輸入されたものや、外国人の出入りはほとんどなくなってしまったが、それでも彼らにとって戦争は遠くの出来事であった。


 少なくとも、この日までは。


 最初に起きた奇妙なことは、石畳の道を金属製の何かが踏みつける音を外にいた人々が聞いたことであった。


 なるほどまだ「ゴム」というものが生まれていないのだから、魔導車も金属の車輪をけたたましく鳴らして道を通っていくのが当然な時代である。


 しかしそれにしては妙な音だ、とそれを聞き慣れているはずの彼らは思った。


 それは、どこか規則的で、そのくせ断続的な感じがしたのだ。


 規則的なのはまだ分かる。道の小さな段差が魔導車の車輪とぶつかる音は、石の敷き詰め方の規則性に準じて鳴るからだ。


 その一方で、断続的なのは意味不明だった。車輪というのは常にどこかが地面に接していているのであって、だから音が途切れ途切れになるのはおかしい。


 しかし、その疑問は次の段階に移って、ようやくはっきりする――それが、「音」ではなく「振動」に変わったのだ。それも上下の。しかも地面の。


 ここに来て人々は戦慄した。彼らは活気を取り戻しこそすれ、あの「モイスヒェン」の脅威を完全に忘れたわけではない――だが、体は動かない。何故か。


 答えは簡単で――周りの人が、そうする気配を見せなかったからだ。


 最も用心深い人でも、あるいは街一番の臆病者でも、まさか、そんなことがそうそう何度も起こるはずもなかろうと心のどこかでは思っていたのだ。


 たとえ戦時下という特殊環境でも、そういうことが起きるのなら何かしらの前兆があるはずだという考えもあったに違いない。


 だから、それはまるで蛇に睨まれた蛙のようであった――と後に襲撃者の一人は手記に記した。


 そして、黒い服を着た彼らはその蛙を一飲みに下したのだ。


 以前この街がそうなったときよりかは、幾分か小振りな鎧を以て。




 メインストリートの方角に黒煙が上がったことで、皇帝の住まいである宮殿も俄かに恐れをなした。


 聞こえるはずのない銃声や砲声がルメンシスの街にいながら聞こえた。


 ここからそう遠くはないぞ、早くしろ、と近衛将校達が慌てて敷地内の近衛兵に集合命令を出し、門に向かっての陣地構築を命じる。自らの崇拝するところである皇帝皇后両陛下及び宰相らを逃がすにしても時間が必要である。それを稼ぐためだ。


 とはいえ、長年平和だった大帝国の中心にあるここを守るのは、本来お飾りの部隊なのだ。マトモな装備も兵士もいない。旧式小銃が一人一つ配布済みなだけで、予備の魔力カートリッジは一クリップ分もない。


 そもそも、宮殿という建物が防御に向かない。広く平坦で、遮蔽物がないくせに守るべき建造物そのものはとても大きい。そして守るべきものは重大極まりない。


 何より、近隣の駐屯地から増援が来る可能性は極めて低い。戦時下故、全てが前線に引き上げられているため。


 そして、ルメンシスという街が、皇帝軍と教皇軍両者の縄張りについて、唯一無二の係争地であるからだ。


 お互いの本拠地である。


 下手に手を出せば即政争に発展しかねない。


 故に将校たちは焦った。その焦りは、当然その部下にも伝わり――事態は最悪の結末を迎えることとなる。


 一人の兵士が突然、正面を指差して狼狽した。黒い機装巨人――敵機である――が二機、すぐそこまで来ていることにようやく気がついたのだ。


 陣地構築に忙しく、誰も外を気にしていなかったために発見が遅れたのだ。


 将校は反射的に、撃て、と叫んだ。それから、何を? と自分でも首を傾げた。


 そう――機装巨人に、歩兵の魔導小銃は通用しない。束になってかかったところで、むしろまとめて地獄の釜へ蹴落とされるのがオチだ。


 だから、雀の涙ほどの抵抗を意に介さず、その機装巨人は、肩に担いだ太い槍のような大筒の、その穂先を宮殿目掛けて飛ばした。


 穂先を目で追って振り向いた将校は、それの爆発がその両目を焼くまでの一瞬の間に、自分が、荘厳で、歴史に名を残すべきだった建物を守れなかったことと、この国のトップはほぼ全滅したということを悟った。


 次の瞬間、暴虐的な魔力が純白な建物をただの粉に変え、でなければ黒ずんだ石に変えた。


 中にいた皇族や政治を司るこの国の選良たちは、全員行方不明となった――死んだかどうかさえ、分からない。ほとんどの遺体が身元確認できないほどの爆発だったのだ。


 そのため、その爆音は遠くへ、より遠くへと響き、街中はもちろん「郊外まで」届いた――。

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