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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第七章 「一つの戦争が始まり、全てを引き裂くまで」
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第七十八話 開戦――礼一少年の場合

 開戦から一週間。


 早朝。


 礼一少年は温もりの中にある眠りから蹴り出された。


 目を覚ましたのではない。その日の目覚めは半ば強制的なものだった。


 普段は閑静な早朝を打ち砕くような轟音。それが彼の目を覚まさせたのだった。


 寝ぼけ眼――耳なのに眼とは中々に奇妙だが――であったので、よく聞き取れなかったが、しかし、それは、彼にはどこか聞き覚えのあるもののように思えた。


 いや、聞き覚え、ということばではそもそも不適格だ。覚えていたのは彼の耳ではなく、体であった。


 少し遠く、その分小さかったものの、その音は――それが生み出す振動は彼自身の体を揺らした、そのことにこそ覚えがあったのだ。


(――砲撃!)


 たった一発であったが、それは彼の上体に布団を跳ね上げさせるに足るだけの力と意味を持っていた。


 城壁を越えた草原ならともかく、ルメンシスの街中で砲撃音が響くなど、流石にただごとではない。


 直近では、堀末が超巨大機装巨人を操ったときのみであろう。少なくとも彼の経験ではそれしかなかった。


 ベッドから降りた彼はまず部屋の窓から辺りを見回した。堀末のときから発砲沙汰が起きていないのなら、今はそれに準ずる事態が起きているということだ。


 とすれば、どこかに煙が上がっていて然るべきだと思ったからだ。


 しかし、彼の部屋からでは、視界が狭く、街の方角は木々に遮られてよく見えなかった。


 外に出る必要がある。でなければ、高台に上る必要が。


 そう彼は思うや否や、自分の魔導拳銃――奇しくも、堀末から贈られた一品――を手に取ることを決意した。


 砲声が聞こえるような状況下で外に出るということは、たとえ敷地内でも危険が伴うだろうという考えからだった。


 彼は部屋の隅に隠しておいたそれの銃把を握ると、そのレンコン状の弾倉を横に出し、総装弾数六発――の内、一発は使用済みであることを確認した。


 何故消費されているかといえば、堀末を射殺するために使われたのだが、何故補充されていないかといえば、単に彼が怠けていただけだ。


 何しろ、彼は(ミヤシタ曰わく、『法律上はミヤシタ商会の下でそうなっているから徴兵は免れる』そうだが)傭兵ではない。


 常に戦いばかりを考えるわけにもいかないし、機装巨人での戦いならともかく、生身での殺し合いはまずすることがない。故に補充することを怠ったのだ。


 しかもその手数の上での困難さに、更なる制限が加わる――つまり、ヨハナ・フェーゲラインが、今、寝込んでいる、ということが。


 そう――開戦の報を受け、彼女はショックのあまりか、例の熱と咳がぶり返し、またいつかのような療養生活を送っている。


 今、いつかのような、と言ったが、実のところ症状としては悪化すらしている。


 まず一つには、動くということをしなくなった、という点がある。


 前回は熱が出ていただけで、最低限のことは自分でやろうとしていた。風呂にだって、礼一少年が止めなければ入ろうとしていただろう。


 しかし今回、酷いときは起き上がることだってできなかった。今だってベッドから出るということはない。


 ひょっとすると立ち上がることができなくなっているのかもしれない。精神的な理由でそうなるという事例を礼一少年は「以前いた世界」で聞いたことがあった。


 だが、一番彼を苦しめたのはそれによって担当することになった雑用でも家事でもなかった。


 そうなってすぐ、ヨハナの顔から笑顔が消えたことだった。


 彼女の世話をすることで彼女によく触れるのはどうしても彼だから、どこか遠くを悲しげに眺めているその顔を否が応でも見ることになる。それから彼女は見られていることに気づくと、無理に、つまり歪に笑ってみせ、「何でもないんです」と嘘を吐くのだ。


 それが彼には耐えられなかった。


 彼女のそのどこか空虚な笑顔を見る度に、彼はどういうわけか彼女の背中の翼を思い出すのだった。


 恐らく、それは彼の中で既に彼女の影の象徴として登録されているからであろう。あの日彼が経験したことは正にそう形容すべきものだった。


 その触れることのできない影を毎日見るのだから、(この国が当事国で戦場だとはいえ)「遥か遠くの」戦争が彼女の笑顔を奪った、ということは、彼の心にかかる負荷は日増しに強くなっていった。


 そう、遠くでさえ、これ、なのだ。


 もしも、彼女が直に、戦争に触れたとしたら――あまり、考えたくはない。しかし彼の想像では、彼女は自死さえ選びかねなかった。それが彼女の信じる教義に反する行為だとしても。


 彼は銃を握る手を強ばらせた。そんなことはあってはならない!


 何としても避けなければ――そうして、彼ははやる気持ちのまま、ドアへ向かい、それを開けようとした。


 そのときだった。背後でまたも大きな炸裂音が鳴り、窓と彼の身を震わせた。彼は反射的に身を屈めたが、すぐに発生源を探ろうと後ろを向き――まだ振動の残る窓ガラス越しに「それ」を見つける。


 その男は黒い服に身を包んでいる。顔は伺い知ることができない。そこもまた、黒い覆面で隠されているからだ。


 礼一少年は男の手に何か細長い棒状のものがあることに気がついた。


 ――小銃!


 礼一少年の戦争が、始まった。

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