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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第六章 「一人の戦士が対峙し、その因縁を断ち切るまで」
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第七十一話 イッツ・レイニング

「くッ……!」


「ウッ……!」


 よって次の瞬間、お互いの視界が敵の攻撃によって塞がれる。


 お互いがお互いの隙を突いたという自信があったために、両者とも完全な無防備であった。


 だから礼一少年は予想だにしなかった激震に襲われ、驚愕しながら反射的に機体の姿勢をかがめた。


 しかし、着弾したのが彼の予想していた徹甲術弾ではなくて、それで地面が予想より大きく揺れたため、ほとんど姿勢を崩したようになり、彼は頭を強かに打つ。


 対するムニジョウは、既に機体を立て膝で構えているためすぐに動けないと判断し、精々コックピットの中で頭を庇う程度しかできなかった。


 機体のどこかが裂ける音を聞いたような気がしたが、激しい砲撃のせいで確認もできない。


 そして、揺れが収まり、煙が晴れ――お互いがお互い自身の損害の有無に気がついた。


 オスカーは、榴弾の至近弾により左のアイ・レンズが破損。左の視界がぼやけてしまいよく見えなくなってしまった。


 その上、立ち上がろうとした足まわりからは異音。確かに少し動きがぎこちない。だが、実用範囲だろう。


 対する「無銘」は無数の至近弾があったものの、それらは全て炸裂しない徹甲術弾だったので、機体そのものには被害がなかった。


 そこらに無造作におかれている術弾カートリッジが誘爆するか不安だったが、幸運なことにそれらには当たらなかったようだ。


 だが、幸運はそこまでで、アウトレンジ戦法の基軸となる照準器が大破。緑のベールもところどころが焦げ、地金が見え隠れしている。最早隠れていたところで時間稼ぎにしかならない。


 そして最悪なのは――そのとき照準器を覗いていたために、一時的にとはいえ視界が全て奪われてしまってしまったことだった。


 その点では、礼一少年よりも一時的には不利になる!


「――チャアタイ・サーマニッ!」


 故に、先に動いたのは、礼一少年だった。


 彼は瞬時にペダルを踏み込み、オスカーを突撃させた。牽制として腰だめで撃ちきれなかった分をバラまきもする。


 これは、長距離ではどうあがいても不利だという判断からであった。不整地だが、全力で走れば、そんなに時間もかからず射程に入るはず!


 しかし。


「そんな弾で!」


 ほぼ同時に、ムニジョウも「無銘」を正面に向けて全力疾走させていた。もう重荷でしかない緑のベールを剥ぎ取って、より増速する。


 礼一少年は迷った。敵が「早い」上「速く」、さっきまでと打って変わって敵も距離を詰めてくるとなれば、こちらこそ距離を取って戦うべきなのではないかという考えが頭をよぎったのだ。


 損傷した足まわりでの格闘戦は避けたい。


 しかし、それこそ足まわりの損傷を考えれば、そう長い間チェイスして距離を保つことはできないだろう。


 それに連射がきくというこちらの魔砲の性質上、もう少し距離は詰めたい。狙うは中近距離射撃による短期決戦なのだ。確実な距離に向こうから近づいてくれるというのはむしろ願ったり叶ったりだ。


 そのため、両者はまるで理性を失った獣のように突撃を仕掛けていた。そこにあるのはあくまでただの闘争本能だけであるかのようだった。


 しかし、彼我距離およそ500。状況が一変する。


 一変させたのはムニジョウだった。


 オスカー同様、猪突猛進全力疾走してくる「無銘」が魔砲をこちらに向けたのに礼一少年はすぐに気づいた。


 反射的に回避機動を取りかけたが、距離が縮まっていたので「無銘」の照準器が破損していることにも気づいた。


 照準器がないなら腰だめで構えて撃つしかない――連射でもない限り、この距離の命中率は言うまでもなく低い。


 撃ちきったマガジンを交換しながら、礼一少年は更に前へと機体を走らせる――瞬間。


 オスカーが無数の閃光に包まれた。


「うッ……!?」


 ムニジョウが大砲の引き金を引いたのだと気づいたときには既に、雨粒が屋根に当たる音を大きくしたようなそれがコックピットのがらんどうの中を反響していた。


(……被弾した!? 被害は!? 怪我は!?)


 礼一少年は冷や汗が汗腺からボトル単位で噴出するのを感じた。聞いたことのない奇妙な音に震え上がった。


 そしてこれは彼にとって操縦士人生初の被弾だったのだと後から気がついた。


 しかしそれらの動揺を声に出さなかったのは、それらが杞憂であることに気がついていたからだ。


 礼一少年はこの閃光にどこか見覚えがあった。それはコロシアムでの初戦、敵が使っていたそれ――に非常に近い。が、それより遥かに薄く小さい。


 つまり、一発一発は細かい粒でしかないはず――ムニジョウのしたことは、言わばショットガンのようなものだ、と礼一少年は考えた。


 しかしショットガンの散弾が有効なのは、あくまで人間の肌というようなソフトターゲットに対してである。


 だから、たとえサイズを揃えても、装甲化された機装巨人に通用するものではない。


 もちろん、ムニジョウがそうしたように何発も重ねたところでそれは同じことである。


 ただ精神的圧迫を与えるのが精一杯というところで――それも一時的なもの。


「――牽制程度に、ビビったりするものかよッ!」


 礼一少年は術話をオープンにしてそう怒鳴りつけて瞬時に思考を切り替えた。


 散弾とはいえ当てられるぐらいのチャンスをムニジョウは逃したのだと結論付け、更に距離を詰め――る必要はない。


 既に距離400。ほぼ必中距離だ。


 礼一少年は機体に急制動をかけつつ、今まで腰だめにしていた魔砲を構えた。反対に回避機動に移ったムニジョウを照準に捉え、引き金を引く。


 が、小気味よい発砲音は何一つしなかった。


 馬鹿な、と礼一少年は今度こそ驚きを隠せなかった。確かに牽制としてかなり無駄遣いをしたが、弾切れに陥るほどではないと断言できる。


 何よりこれが最後のマガジンであったから、むしろ大切に扱った方だ。


 ――マガジン?


「誰が、牽制などと言ったのだ?」


 術話から聞こえるのはどこか勝ち誇ったようなムニジョウの低い声。


 何が起きたか悟った礼一少年は――時間がない――届かないと分かっていながらも魔砲をせめてもの抵抗のように「無銘」に投げつけた。


 次の瞬間――爆発。


 マガジンの中の魔力カートリッジが誘爆したのだ。


 そう、「無銘」の散弾攻撃はオスカーに対する攻撃でもなく、牽制でもなく――装甲化されているわけではないマガジンの、誘爆をこそ意図していたのだ。


 更に言えば――オスカーの射撃兵装を喪失させることを!


「うッ!?」


 礼一少年にとって悪いことは続く。投げつけた魔砲の爆発がさしたる成果を上げなかったばかりか、それが煙幕となって、敵の行動をすっぽり覆い隠してしまったのだ。


「だから甘いと言うのだ――ナカジマ・レイイチ!」


 煙の中から何かが出て来たと思えば、それは言うまでもなくムニジョウの「無銘」だった。煙幕の援護を受けて突進してくるそれは既に腰だめでも十分狙える距離である。


 礼一少年はその瞬間に自分が足を止めていたことに気がついた。敵機の右に進むようにペダルを踏み込む――と、同時に巨大な熱量が自分の右を掠めるように通り抜けたのが分かった。


 彼我距離、およそ100!


 オスカーは魔導刀を抜いた。「無銘」もそれに応じんとする。


 しかし先手を取ったのはオスカーだった。「無銘」は魔砲を捨てる動作がある分後手に回らざるを得ない。大上段からの鋭い一撃がムニジョウに迫る――しかし、間合いが遠い!


「反応のよさが必ずしも勝敗を分けるわけではないということを――教育してやるッ!」


 ムニジョウは魔砲を、相手から見て左にかわす自分と反対側に投げることで礼一少年の意識を一瞬逸らさせた。


 若く、反応がいいだけに、相手の動き「全て」に反応してしまう――礼一少年を普段から見ていたが故に、その長所でもあり短所でもあるものを彼が持っているとムニジョウには分かったのだ。


 礼一少年からすれば、敵が瞬間移動でもしたかのように見えただろう。機体の損傷に漬け込まれたこともありその効果は絶大だった。だから、対象を見失った彼の攻撃は空を切ることもなかった。


 ムニジョウはその一瞬の隙を利用して、遅ればせながら自機の左腰から「魔導刀を」抜く。


 礼一少年はその抜く途中の刹那にムニジョウの姿を認め直した。しかし、それと同時に彼はある脅威を味わった。


 「無銘」のそれはオスカーのそれよりも、長い!


「――ちェェすとォッッ」


 長さをものともせず、居合い切りの要領で生まれた鋭い鞘走りがオスカーの胴に迫る! 


 その刀身には幽かで妖しげな大気の揺らぎが漲っていて――それはオスカーが後転して距離を取ったことによりかわされたが、礼一少年の実感では「自分自身の」数センチ先を通り抜けたようですらあった。


 事実、その刀の力強い妖力は余韻を残して、薄い装甲の表面を少なからず刀傷であるかのように焦がしていた。


 ――魔導刀。


 礼一少年は冷や汗をかく。


 その厄介さを彼はよく知っている。魔力を切断面に吹き付けることで切り裂くそれは、その原理上防御ができず、回避しか許されない。


 それが、回避の難しい長さをもって襲ってくる――このことが困難であるのは礼一少年でなくても理解できるはずだ。


 そしてムニジョウの動きには――隙が、ない!


 訓練のときとはまるで違う。


 いかに手を抜かれていたのかが実感として理解できる、そのような猛攻が回避機動からコントロールを取り戻したばかりの礼一少年にダース単位で襲いかかる。


「――ッ!」


 礼一少年は苦しい悲鳴を漏らす。


 自らに迫る死が受け入れられないのかもしれない。


 自らの死を与えるのが自らの師であることを理解したくないのかもしれない。


「どうしてそんなに、自分自身が受け入れられないんですか――チャアタイさんッ!」


 だがそれ以上に彼の思考回路では検算できなかったのは――ムニジョウ・エイロクという人間がこうまで「チャアタイ・サーマニ」という現象を受け入れないこと。


 戦いの前からくすぶっていたそのエラーが他のエラーと重なって、こうして言葉として飛び出したのだ。


「チャアタイでは、ないッ!」


 しかしムニジョウとしてはただそう答えるだけで礼一少年を否定できた。否定と同時に機体を踏み込ませ袈裟切りを繰り出す。「縦」と「横」を合わせた特性をもつそれを礼一少年は斬撃の外側へステップすることでかわすが反撃はできない。


「何故!? ――人は変わりゆくものです。僕だって、あなただって人でしょう!? 変わって、そうして生きるしかないのなら、そうするしかないのでしょう!?」


「だとしても変わるわけにはゆかぬのだと既に言った! だから貴様を殺す。さっさと死ね、我輩のために死ね。ナカジマ・レイイチッ!」


 続く何度かの連撃の後、先程と同じ袈裟切りがオスカーに迫る。礼一少年はこれを先程より余裕をもって回避――できた、それが不自然だったから、礼一少年は鋭く下から迫る「もう一撃」に反撃する直前に気づいた。急回避で姿勢が崩れる。


 ――「燕返し」!


「うわァッ」


「貴様の言葉は確かに道理かもしれん――だが、それは現実を見ていないだけだ。それでは我輩は倒せんッ!」


 やや後ろに重心が偏ったところをムニジョウは畳みかけるように更に一撃、そこに連撃、そして突撃。


 オスカーに体当たりせんばかりの気迫が礼一少年を物理的にすら押しのけた。


 下がり続ける負担が重なり、足まわりが徐々に重たくなっていく。


「現実を見てないのは――チャアタイさんでしょうに!」


「我輩という現実を誰よりもよく見れるのは我輩だ。貴様ではない!」


 連撃の速度が上がる。それに伴い礼一少年はコックピットの温度が上がっていくのを感じた。魔力の余波が吹き付けられることで装甲が少し融けているのだ。


「――おおおおッ!」


 このままではやられる! 老人の妄執に取り憑かれて、死ぬ! 礼一少年の本能的な恐怖がその瞬間のオスカーを突き動かした。


 オスカーが後ろに転げんとするその瞬間、自然と振り上がる足を勢いそのまま、振り下ろされる魔導刀をもつ「無銘」の手へ当てる。


「何ッ!?」


 普通の実戦なら繰り出されるはずもないトリッキーな一撃。それが設計上想定されてない衝撃として繰り出されることで、「無銘」のもつそれはあっさり柄が砕けた。


 すると今や「無銘」こそが姿勢を崩し――オスカーが、反動で上体を起こす。


 その手には、魔導刀!


「老人の感傷なんかに、押し潰されるものかよ――!」


 手加減はできない――原理的にも不可能だし、するつもりもない。またも大上段から、全力の一撃。これが最も慣れていて――故に最も速い一撃である!


 が、礼一少年は刀が鋭く唸り敵に接するまでの、その極僅かな時間にデジャヴを感じた。


 「この光景を、自分はいつだったか、経験している」。


 そんなシナプスの閃きが具体的指令として形を得るよりも速く、ムニジョウは動いていた。


 礼一少年に認識できたのはそこまでと、そこからの少しだった。


 振るわれた刀は何にも触れることはなく、「無銘」をその峰で睨むのみ。その敵意を知ってか知らずか、ムニジョウはそれを握るオスカーの手に上から「無銘」の手を被せた。


 そして、次の一瞬には――オスカーが、宙を舞っていた。


 その次には、暗転。


 何も見えない――何も。




 ムニジョウ流柔術奥義――「捻り込み」。


 それがムニジョウが使った技術である。名前の通り、手首を内側に「捻り込んで」いくことで、敵の使用した力全てをその一点に集中させる――「柔」に属する技である。


 ムニジョウは、魔導刀を失うという自らの失策を嘆くと同時に、既にそれへの対抗策を編んでいた。


 かつて、それこそこの草原で行った訓練の経験――それを彼は覚えていたのだ。


 レイイチには、敵が隙を見せた瞬間に大上段からの大振りをする癖がある――というそれを。


 そしてこちらは同じ手を使う愚は犯さずに、同じぐらい有効な技で対処したのだ。


「久々の勝利というのは、こうして達成してみると存外呆気ないものだな」


 ムニジョウはそう呟きながら、投げるときにオスカーから奪った魔導刀を「無銘」に振らせる。魔導規格が合うか少し不安であったが、それも問題ないようで、それは容易く紫のオーラを刀身から吐き出した。


 これから斬るものが、本来の自分の主とも知らずに。


 モノはいい――と、ムニジョウはつい感傷に浸ってしまう。こうして過去に囚われずに「ただ、ある」ことができる。人に、それはできないらしい。


 人は変わる。変わってしまう。


 そこにおいてムニジョウは礼一少年と意見を分かつつもりはない。


 だが、人には過去がある――と、ムニジョウは考える。


 先の表現を使えば、「ただ、ある」のではなく、「このようにして、ある」のである。


 たとえ、いかに他人を騙し世界を欺いて隠したとしても、自分が覚えている。体も心も、「このようにして」きたと自らに告げてくる。


 だから、変わってしまった今と未来を受け入れることはできなかったのだ。彼が平和に暮らせば暮らすほど、過去からの呼び声は悲惨さと必死さを増し、強く彼を糾弾する。


 「このように『された』」私たちを思い出せ――と。


 ――大丈夫さ、これでもう終わりだよ。


 既に「無銘」は仰向けのオスカーの正面に位置していて、魔導刀を振りかぶっている。


 ――これで、「そっち」に戻れる。そうしたら、三人で暮らそう、「アイラ」。


 ムニジョウは操縦桿を握る手に柔らかな女性の手が沿っている幻覚を見ながら、それを――。


 前に押せなかった。


 押し進めるものがあったように、引き止めるものもあったからだ。


 ただし、それはもっと物理的な質量をもって。


 それも、一つの手の形をしていた――否、それは二つだった。


 両手――機械のそれ!


 そこでムニジョウは現実に引き戻される。視界はオスカーの茶一色に染まり、それが両手で「無銘」の振り上がった片腕を制止していた。その片方の潰れた不完全なツイン・アイが狂戦士のそれのようにギラリと光る。


 既に、オスカーは、回復している!


「うっ……!?」


 何故、だ。


 と、ムニジョウは呟く。


 しかし、ムニジョウのその言葉は、礼一少年にではなく自分自身に向けられていた。


 何故、トドメを刺さなかった?


 何故、こうして反撃を受けるまで放置してしまった?


 いや、そもそも――何故遠距離向きでない砲と機体で遠距離戦などをしてしまった? 何故初めに振り返ったときに不意打たなかった?


 ――答えは、一つの人名に集約されて、その犯人自身の口から怨恨として零れ落ちる。


「――『チャアタイ・サーマニ』めッ!」


 その瞬間、「無銘」の腕が振り下ろされる。


 しかし、刀身がオスカーに触れることはない。


 礼一少年は「無銘」のそれに対してしたように、それを破壊したのだ――ただし、今度は足ではなく、頭上に柄頭を振り下ろすことで。


 「無銘」の力によって勢いのついた魔導刀は、小さくまとまっている分衝撃に対しては一般に頑丈である機装巨人の頭部にぶつかり、砕け、その力を失った。


 そして、機械が唸った! 少なくともそのようにムニジョウは感じた。しかし実際にそれが何だったかと言えば、「無銘」の側頭部がオスカーの拳によって打ち鳴らされた音だった。


 お互い八方手を尽くし――残すは拳のみ!


「オオオオオッ!」


 またもオスカー! またも拳! またも頭部! 二撃目には流石に強度が足らず、オスカーの指が捻れ飛んだようだったが、されが何になるだろう?


 故に、倒れかけたところを掴み上げられた先に来るのは、更なる一撃! 強烈なモーメントと同時に「無銘」のコックピットの左が暗くなった。左のアイ・レンズが砕けたのだ。


 無抵抗な「無銘」へ、無慈悲な一撃。しかし今度は頭ではない。礼一少年は、頭部では効かぬと見て狙いを切り替えてきたのだ――ボディに。


 コックピットのあるそこに!


 そして先ほどまでの恨みを晴らすかのような連打! フレームが軋み、強度限界を超えた留め具が弾け飛んで機体の中を縦横無尽に飛び回る。


 それだけではない。「無銘」の装甲は、実のところ、初期のオスカー以上に――薄い。


 つまり、板としての強度は低いということ!


「うっ、……おおおおおッ!?」


 左脚が圧迫されていく恐怖から、ムニジョウは叫んだ。脛が、膝が、内側に凹んだ装甲に巻き込まれていくのだ。見ずとも分かる!


 ムニジョウはその叫びのもつ衝動のままに操縦桿を叩くように前へ押した。ようやく体が動き、反撃となったのだ。「無銘」はその意志を汲み取ってオスカーの「横顔に」一撃を加える。


 そう、「何の意味もない顔に」――だ。


 しかしムニジョウは祈った。それでも祈ってしまったのだ。


 衝撃を受け、優勢とはいえ流石に仰け反ったオスカーに、そのまま事切れてくれ、と。


 中枢魔導回路が潰れてくれ、と。


 せめて、右のアイ・レンズだけは砕けてくれ、と。


 しかし、そのどれも、叶えられることはなかった。


 オスカーは姿勢を戻し、むしろ傾いた反動を利用して――そうして起こった、今までの何倍も大きい、湿った音がムニジョウの聞いた最後の音となった。


 「無銘」の装甲は果たしてオスカーの拳――というより最早「手首」だったが――に負け、その我慢比べの勝者はムニジョウの脚から腹にかけてを押し潰した。


 ムニジョウが聞いたのは、自分の臓器がごっそりガラクタになる音だったのだ。


 ずうるり、と既に動かない機体から血塗れのオスカーの拳が引き抜かれたとき、ムニジョウは最期の意識で、空を見上げようとした。しかし、左側を上にして機体が倒れたので見えず――その目が乾く。


 ムニジョウ・エイロク、そして、チャアタイ・サーマニ――死亡。


 全てが終わり、礼一少年は天を仰いだ。コックピットの中のその顔は誰からも見えない。だから誰も知らない。声だって、誰にも聞こえはしないだろう。


 いつの間にか空を覆っていた雲からはポツリポツリと雨が降り出した。雨足は次第に強まり、やがて、辺りは何も見えず、何も聞こえなくなった。

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