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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第四章 「一人の戦士が狼狽し、戦士と戦うまで」
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第四十五話 復讐するは俺にあり

「ご名答」


 ニッキーは大きな傷のある顔をニヤリと歪ませた。


 しかしその傷は、初めてあったときにはなかったもののはずだ。少なくとも礼一少年の記憶にはない。それに礼一少年が注目しすぎたのだろうか、ニッキーは顔を歪めて斜めに走っているそこの傷を撫でた。


「ああこれか? へへ、似合うだろう? テメェをぶちのめした後に通り魔に襲われたんだよ。そうさ、例のあの通り魔だ――最近は、どういうわけか聞かねぇがな」


 どうしてだろうなぁ、とニッキーは笑う。しかしその目は笑ってなどいないことに礼一少年は気がついた。


 それはあくまでも狩人の目であった。


 いや、そこにはそれ以上の煌めき、ギラつきがあったのだが。


 人はそれを、憎しみと呼ぶ。


「いやいや、俺だって気をつけてたんだぜ? いや、俺たちだって、だな。夜道でなくたって、あの辺りは荒くれ者の巣窟だ。普通はそうするさ。


 だが、アレは普通じゃあなかったってことだぜ。俺は傭兵だ。今は元だが……東方でゲリラと撃ち合ったりもしたんだぜ? もちろん機装巨人でだ。


 その俺がただの人殺し風情に、ここまでやられちまった――あの二人も守れなかった。ただ闇夜に隠れて、街路の陰で乞食みたいに震えることしかできなかった」


 へへへ、とニッキーはまたも笑う。そうでもないと隠しきれない感情が彼の中で赤く黒く燃えさかっているのだ。


 それは正に血の色。


 奇しくもそれは、彼の機装巨人のそれと合致する……!


「なあ、レイイチ君よお――アレは、お前のせいなんだろう?」


 礼一少年は、困惑と抗議を以てその言葉を迎える。


 確かに、堀末という男は礼一少年を付け狙う上で何人もの男を殺した。女も殺した。立ちはだかるならば、全てだ。


 だがそのことを知っているのは礼一少年と後はミヤシタ商会の人間、あるいはひょっとすると、賄賂を受け取ってそのことを隠蔽した警邏と役人だけのはずだ。


 ならば……彼はどのようにそれを知ったのか?


「賄賂ってのはよくねぇよなぁ……だがもっとよくねぇのは、賄賂を受け取るような人間を信用することだがよ。調べて訪ねて、ちょっと金を払えばすぐ教えてくれたぜ?


 あいつら以外にも沢山殺してたこと。

 機装「大」巨人でもっと殺したこと。

 そして、お前を付け狙ってたこと。


 最後のは奴の根城の遺留品から分かったことだそうだ。


 ……分かるだろォ? 分かるよなァ?


 お前がいなけりゃァ、アイツらは死ななかったんだよォッ!」


 最後にはスピーカーに勝る大音量で、ニッキーはそう言った。


 しかし、言う、という表現はこの場合正しくない。これは言葉ではなくただ理性的なだけの獣の咆哮!


「逆恨みだと思うかァ!? だがこれは事実だぜ、テメェさえいなけりゃァ死ななかったのは確かだろうがよォ! 仮にそうでなかったなら、俺のせいだ、テメェを殺せなかった俺自身のだ! でもそれにしてもお前が勝っちまったせいだと言えるよなぁッ!?


 ……ああ、俺は連中の死を悼んでいる。そうとも、これは救済だ。レクイエムだ。

 神は何もしない。

 だから俺がやる。

 俺だけがやる権利をもつ……んだぜ?」


 礼一少年はスウッと、未来が透けて見えるように感じた。目の前に摩天楼の如くそびえ立つ剣が、ただの脅しでないように感じられたということだ。


「や、……めろ」


 まだ、死ねない。

 ヨハナは家で待っている。ヨハナは、自分が死んだなら、どうなるのだろうか……言うまでもない。


 それは、恐るべき想像であった。最悪の結末とも思えた。


 あの瞳が悲しみに暮れるだけなら、まだよい。


 二度と輝くことがなくなるのだとすれば――それが自分の死後だとしても、礼一少年はそれが許せないのだった。


「『やめろ』ォ? ……今、お前、止めろって言ったのかァ? おいおいおいおいおい、こいつは傑作だぜ、それも物凄いレベルのだ」

「まだ死ねないんだ、頼む」


 しかし、礼一少年にできることは、ただの懇願しかなかった。取引的要素もない、一方的要求以下である。


 だからだろうか、ニッキーはそれを拒絶した。


「死ねない? 知るかよ、そんなのは誰だってそうだろうが、なぁ?」

「頼む、本当に……お願いしますッ」

「へへへ、面白ぇな、お前。本当に面白ぇけど、同じネタを何度も繰り返すってのはつまんねぇって覚えなかったのか? ……勘違いボーイ君よォ」

「勘……違い?」


 しかし、事実はそうではない。ニッキーにはニッキーで、一つの考えがあった。


「というのもだな――俺はお前をここでは殺さないんだ。


 何故ならこれは俺自身の復讐でもあるからな。


 俺はお前に恥をかかされたんだぜ? 公衆の面前でだ。なら『お前を殺すのも公衆の面前でなくちゃあならない』だろうが。あァ? しかも正々堂々と……!」


 その言葉で、礼一少年はもう気がついてしまった。


 この世界で、公衆の面前で、合法的に殺すことのできる場所など、そこしかありえない。


 何よりこの機装巨人という物体がその推測に更なるリアリティを与えていた。


 礼一少年は息を呑む。ニッキーは口を開く。


「コロシアムだ――お前はコロシアムで、そしてこの『ウォーホーク』でなぶり殺しにすると宣言しよう」

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