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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第九章 「一つの戦争が終わり、その子孫が悲劇へと育つまで」
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第118話 Ausbruch von Krieg

 降り始めた雪が全てのものを白く染め上げてゆく中、四機の機装巨人からなる皇帝軍所属の一個小隊は、鬱蒼とした森を抜け、目標である村へと向かっていた。


 雪が降っているということは視界が悪化するということで、よりゲリラに有利な天候であるということでもあったが、より有利な地形である森で仕掛けてこなかったということを彼らはゲリラの不在証明として受け取っていた。


 それは彼らの目的にとって喜ばしいことだった。というのも、その頃皇帝軍は食料調達に機装巨人部隊を用いるようになっていたからである。


 当時、ガランドルの狙い通りにかはともかく、皇帝の軍勢は兵站的危機に陥っていた。


 まずもって、勢力的にはいくつかの都市による連合に過ぎない彼らの持っている輸送力は、一個軍団規模を軍勢を動かすには到底足りなかった。


 その不足は、攻略した帝都の残党狩りと完全掌握のために軍勢を半分に分け、より消費の多いことが予想される東部侵攻軍にリソースを多く振り分けても、その補給路の劣悪さもあって、進撃すればするほど深刻になっていった。


 更に、当然のことながら、前進するということはそれだけ補給路を延長するということに繋がり、ただでさえ少ない戦力が更に希薄になるということでもあった。


 すると、機動力に勝る敵機装巨人部隊による奇襲は度々功を奏したわけで、皇帝軍に軍事的被害のみならず物資的被害をも強いていた。


 だからそこで、皇帝は戦略を大きく変えねばならなかったのである――というよりも、先祖帰りせざるを得なかったのである。


 つまり、「農村での現地調達」という選択である。


 これは、軍事に明るい読者なら当然お分かりのように、近現代においては蛇蝎のごとく忌避される戦略(時には戦略という言葉で表すべきでないとすらされる)であった。


 だが軍勢の多寡こそあれ、兵器の損耗の少なかった古代や中世においては、「我々の世界」でも「この世界」でもむしろポピュラーな戦略であった。


 逆に言えば、兵器の損耗に関して条件が緩和されれば、あるいは無視できれば、下策でこそあれ、現代でも使用に耐えないわけではない、ということでもある。


 何より、食料輸送をカットできるのなら、輸送力問題も幾分か緩和される。そして皇帝は、そのマシになった輸送力にあらゆる軍需品を詰め込み、それを部隊に貼り付けることにより自らの戦略を完成させた。


 補給路のいらない軍隊――理想上のそれを、彼は機械力により強引に作り上げたのである。


 すると目下問題となるのは如何にして徴集するか、であった。


 冬季――つまり収穫後という厳しい情勢を鑑みれば、村の食料庫からの略奪という手段が最も効率的なように将軍たちには思えたが、それは中長期的な視点や戦後を考えた皇帝により止められた。


 東部の荒廃によるルメンシスからの食料輸入はそれだけ依存を生み、これから続く「千年帝国」戦役に悪影響を及ぼすと彼は考えていたのである


 その結果計画された村への将校派遣による交渉という計画は、しかし早々に頓挫した――具体的にはいくつか目の村にて、現地住民により将校が射殺され、激烈な武力抵抗に発展したのである。


 当然のことながら自国領土だったとはいえ既にそこは敵地である。ならば東に行けば行くほど皇帝に対する反感は強まり、「敵」に組しているというわけだ。


 その結果、当時の軍事常識上、対歩兵戦闘であればまず負けないとされていた機装巨人部隊による徴発行動が行われるようになったのである。


 これは輸送の観点からも非常に効率的だった。


 例えば、もし常に警戒態勢で徴発するのならば、皇帝軍は食料を運ぶ魔導車と護衛の歩兵を運ぶ魔導車の二種類を用意しなければならないだろう。


 すると兵士の分だけ輸送量が減るし、そのような魔導車の余裕はない。既に機械輸送と歩兵輸送と魔力燃料輸送で手一杯なのだ。


 しかし、機装巨人は違う。ペイロードに余裕があるので、工兵の作った即席ソリを牽引すれば車両数を圧迫せずに輸送でき、より少数の兵士だけで調達できる――要するに後者は、つまみ食いを警戒してのことだ。


 何より、巨大な軍事力の象徴である機装巨人というのは、非ゲリラである村民の抵抗感情を抑圧する傾向にあった。輸送だけでなく、村民に「自主的に」供出させるという点において、ただ歩兵が大挙してくるよりも遥かに効果的だったのである。


 この措置により、軍全体の補給状況は大いに改善され、進撃速度も向上し、敵対している反乱軍を幾分か慌てさせることとなった。


 だが、その成功により彼ら皇帝軍は忘れていた――その方策は貴重な機甲戦力を不用意に分散させてしまうということと、機装巨人とて、見通しの利かない中で孤立すれば容易に撃破されうるということを。




(誰もいないのか?)


 まず小隊長の勘をくすぐったのはその不可思議な認識であった。


 森を抜けた瞬間から、こんなに寒いのに煙突から一つも煙が上がっていないことから少々不自然ではあったのだが、村境にある柵を超えたことによりその異常さは際立った。


 とはいえ、奇妙なのが煙突だけならば如何様にも解釈できようというもの。例えば家の中で火を使っていなければ当然煙もでないし、東部ではこの程度の寒さは日常なので、来る寒波に備えて薪を節約しているのかもしれない。


 だがコックピットハッチから身を乗り出した彼が聞いたのは無音――何も聞こえなかったのである。


 昼時だ、田舎らしく簡素な建物からは食事などの生活音はそれなりに漏れてくるはずなのであり、そして、それすらもない。


 とすれば、考えられるのは――廃村。何らかの事情、例えば疎開などによって村丸ごとどこかへ消えてしまった、という線。


 あるいは疎開、というところを食料難に変えてもいい。革命軍の機装巨人部隊も現地調達による食料供給をしていると仮定すれば、既にこの村を彼らが通過し、その結果住人は残った食料をもって別の村へ四散する羽目になった、というのも考えられよう。


 しかし、だとすれば生活感がありすぎた。上に目をやり屋根を見ても、下に目をやり道を見てもそこに雪は少なく、その代わりに脇には不自然に盛り上がったところがあった。


 帝国南西部出身であるこの小隊長がどれほど東部の降雪量に慣れていないとしても、それとは関係なく降った雪は絶対に積もるのである。


 その自然なあり方から変化しているとすれば、当然それは人がごく最近までここにいた証明なのである。


 ここには、何かがいる。


 彼の勘がその危険信号を探知したころ、彼の隊列で最後尾を占めていた四番機はより致命的な証拠を見つけていた。


 風が寒いからと籠もっていたコックピットのモニターから彼が見つけたのは、雪の上の足跡であった。


 それは前を行く三番機からふと目を離した先にあった細い道とも言えぬ家と家の間に随分真新しく、そして不用意な形で残されていた。


 彼は何となく足を止めた。彼は他の小隊員に比べれば新兵の部類であったのは間違いないが、数えるほどとはいえ少なからず戦闘を潜り抜けた戦士としての本能が彼に警戒を促したのだった。


 前を行く三番機はそれにすぐ気づいた。彼は小隊長がしているようにハッチから身を乗り出していたので、雪に吸われ損なったすぐ後ろの足音が止まったのが分かったのだ。


 そして彼は不審に思い振り返る――それが開戦のファンファーレだった。


 何故なら彼は見てしまったのだ、四番機の右後方、建物の影となる死角から何か白い人間サイズのものが突撃してくるのを。

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