信じたくない真実
「ふむ」
改めて城を見上げる護。
道中血まみれで半裸な不審者を見る目で見られたが気にしていない。
勇者とは図太くなければ生きていけないのだ。
「おい君、怪我をしているのか?服が破れて血まみれだが」
「おっ衛兵さん?いやぁ大魔王討伐果たした勇者護なんだけども、服と風呂と飯をくれって偉い人に伝えてくれ」
親切な衛兵にナチュラルに無礼な台詞を吐くクソ野郎。
残念だが勇者である。
「大魔王討伐に勇者?」
「そそ、あの野郎殺したんだけど死にかけてさぁ。何故か生きてるなら飯を食うのが人間だろ?」
怪訝な表情をする衛兵に自分流の常識を押し付ける。
「錯乱して絵本と現実を混同しているのか?『大魔王と勇者様は100年も前に相打ちになったじゃないか』大丈夫かい?君」
そして当然のように
常識を語るように
護の頭を疑うように
護にとっての絶望を叩きつける。
「……………あ?」
「服屋なら大通りにあるし、宿なら南口の」
「おい」
護の世話を焼くように必要な施設を挙げてくれる衛兵も、今の護にとっては自分を混乱させる苛立たしい存在でしかない。
胸ぐらを掴み上げて言葉を遮る。
「どういう事だ!?100年!?嘘じゃねぇだろうなぁ!?」
凄まじい剣幕で怒鳴る護。
その鬼も怯みそうな迫力に、首を縦に振る人形のようになるしかない衛兵。
「貴様!何を」
「なぁ!大魔王は100年前に死んだか!?本当か!?勇者は帰って来なかったのか!!!」
いきなり国に仕える衛兵に暴行紛いの事をすれば他の衛兵達も集まってくる。
またもや言葉を遮り、大多数の人間に真偽を問いただす。
それが先程の言葉を裏付ける結果になったのは言うまでもなく、護の顔色は蒼白になっていく。
ザワザワと市民まで集まってくる。
何を当たり前の事を、と責め立てるように呟く。
これだけ条件が揃ってしまっては否定する事はもう叶わない。
「約束……守れなかったのか」
隊長、名も知らない兵士達と交わした約束。
それを寝こけて破った等と信じたくないと頭を抱える。
「歴史を……歴史を教えろ!兵士達は姫達はどうなった!?魔物は、生き残り……あぁ!!図書館の場所を言え!!それだけでいい!!」
再起動を果たした護の迫力は筆舌に尽くしがたく、誰もが青ざめて震えてしまって話にならない。
言葉が駄目なら文字で調べるまで、と図書館の場所を方向だけでも聞き出す。
多少一般人より威圧感に耐えていた衛兵に方角だけ聞くと護は走り出す。
自分が100年前に死んだとされる歴史を、自分の後悔を罪を確認するために。