目覚め
「ぁぁ?」
小さな声が広々とした神殿のような空間に響く。
「ん?え?あれ?生きてる?」
とりあえず色々と意味も状況も判らないが、護は生きてるという事実を実感する。
「目玉潰れて左腕もげて切腹ばりに内臓ポロリしたけど、大魔王のクソは斃した筈。何で五体満足で生き返ってんだよ」
時間が緩やかになっているのか止まっているのか、大魔王と戦った当時の年齢の生き返っている護。
辺りを見回すと聖剣は無いが、あれはビームの出る便利な剣というだけであり別に惜しくもない。
「ふむ」
ドゴォ!!
とりあえず石畳を殴ってみる護。
解決策は腕力に頼る、実に脳筋である。
「ちょっと砕ける程度か、随分頑丈な建物だなぁ」
スクッと立ち上がり歩き出す。
行き止まりまで行けば壁を壊して出て見ようという賢い馬鹿。それが勇者護なのだ。
ドゴォ!!!
「眩しっ……おぉ」
壁をぶち抜いた護は眩しさに目を伏せるも、改めて見た光景に感嘆の声を上げる。
「宮殿?城か?随分と立派だな」
見えたのは現在地の森から見上げる荘厳な城。
人類最終拠点の城と比べるのが失礼な程の立派な城だ。
(俺は少なくとも大陸全土を走り待った自信があるが、こんな立派なもんに覚えは無ぇ。大魔王の言ってた三大陸の一つって所か………なんか外に出たら腹減ったし、大魔王討伐したんだから飯ぐらい奢ってくれんだろ)
勇者護は頭が悪い訳では無い。
力業で解決できるなら真っ先に試す脳筋だが、きちんと考えて推測や戦術の構築もできる。
ただ面倒だからしないだけだ。
「さて、飯集りに行くか」
即決即断、居るであろう一国一城の主に大魔王討伐記念に飯を食わせろ。なんなら宴レベルで持て成してくれたらいいなぁと低俗な考えの基に城へと歩み出す。
(魔獣ってかモンスターが居ねぇな、大魔王の野郎この大陸だけ手ぇ抜いてたんじゃねぇだろうな)
時折見かける兎やリスに和みながらも疑問は湧き出る。
モンスター、魔獣が少ないどころか見当たらない。
護が勇者として戦わされていた時など前後左右に飛行型のモンスターぐらいは居たのだ。
これは差別ではなかろうかと憤慨するも、怒りをぶつける相手は大魔王であり死人だ。
(まぁ平和ならいいや、旨い飯にも期待出来そうだしな)
怒りを収め、平和である事と空腹から食事への期待感が高まっていく。もはや食べられないかもしれない可能性は彼方へと消えたようだ。
そうして順調に護は城へ向かって歩み続ける。
彼の絶望は近い。