姫君達との会話
「また絶望感漂ってんなぁ」
姫達の居る部屋の扉を開いての第一声がこれである。
「勇者様。お疲れ様でございます」
「あぁそっちも武器やら食料やらの準備で忙しかったろ?お互い様だ」
8人の国を失い逃がされた姫君、勇者に縋る事を決めた姫君達。
彼女らも城内で怠惰に過ごしていた訳ではない。
元国民をそれぞれ纏めあげ、武器と食料を用意させ兵士へ送らせる。
友好国同士なら良いが敵国、魔王連合侵略まで戦争をしていた国とも協力しなければならない。
こんな状況で仲間内での殺し合いなど笑い話にもならない、だから彼女らが間に立って何とか共同体として成り立っているのだ。その仕事量は半端ではなかった。
そう半端ではなかった、過去形だ。
勇者護の発言もただの嫌味だ。
奇しくも人口自体が減少して仕事量は減っている。
民達も馬鹿ではない、このままでは人類は滅亡すると危機感を抱いているので旧国家同士の確執も忘れて仕事に励んでいる。
なので今の彼女らは有り体に言ってしまえば暇なのだ、そして思考する時間があればある程に現在の絶望的状況が彼女らを蝕む。
「勇者様……勝てますか?」
「勝つしかねぇだろ。俺が勝てば人類の勝利、負ければ人類は滅亡だ。俺の勝ちに賭けたんなら勝負が決まるまでにアンタ達ができるのは神頼みと後方支援だ」
護は突き放すように冷たく言い放つ。
この姫達が護を戦場という地獄に突き落としたのだ。
この態度も順当だといえる。
「負けたら死ぬんだ、死んだら後は土に還るだけだろうが。アンタ達は生き延びた後の事を考えてくれ、国家を復興させるのは新しく造るよりキツいらしいから覚悟しとけよ」
「はい……御武運を」
「おう、んじゃ次会うときは笑顔でな。なにせ俺は人類救済の英雄になってる筈だからよ」
護は彼女らを恨んでいるが憎んではいない、護に縋るというみっともない形でだが人類救済の方法を彼女らなりに考えて出したのだ。
もっと早く呼べ、と言いたいが人類滅亡の瀬戸際になるまで国家が手を結べないのも理解できる。
実際に護の世界で同じ事が起こったら、もしかしたら犬猿の仲の国は滅亡しても手を結べないかもしれない。
だが理解できるだけだ。
理不尽に呼び出し、戦場に叩き込んだ事は恨んでいる。
それでも民の為に一生懸命だった彼女らを憎めないのだから護はお人好しなのだろう。
バタンとドアが閉まる。
もうこの拠点に護が居る理由は無い。
彼に出来るのは戦う事だけ、これから先は守る必要すらない。
魔王達を皆殺しにする。
出来なければ異世界の人類と心中だ。
拠点は信頼できる隊長に任せた、後顧の憂いは無い。
勝てば希望、負ければ絶望。
勝負の時だ。