人類最終防衛拠点
カンカンカン
鉄を叩く音が聞こえる。
「ただいま隊長」
「お帰りなさいませ勇者様」
歩みを止めずに人類最後の国の城。王の居ない城とは名ばかりの場所に進みつつ短い挨拶を交わす。
「ドワーフの兵士達は死んだ。最後の作戦行動に移る、姫様達の結論は?」
「………勇者様と共に死ぬと言われていました」
「そっか……だがシェルターは造っとけよ。俺が負けても人類が生き残る可能性は無いよりはいいだろ」
「了解しました」
兵士が死んだ事について言い争う事は無い。
事務的になる程に繰り返してきた事、言っても何も変わらない事だから。
勇者は召喚されて状況確認を済ませて直ぐにシェルター構築、土魔法での人類の逃げ道の確保を提案した。
それはただの穴倉で、魔王どもの侵略から逃れるには御粗末な代物なのだが。
ここに勇者、譲羽護の固有能力が合わされば話は別になる。
絶対防護結界
通常の結界ではなく、例の結界と同じく命を代償にした結界だ。
地上から地下まで直径数キロを数十年は守り抜く結界。
これを使えばとりあえず人類は生き延びられる。
恐らく結界が破れた直後に人類は絶滅するが、護も流石に死後の事まで責任は持てない。
シェルター内で数十年掛けて魔王達を打倒する兵器を造る等の提案もしたが、正直に言って可能性は低すぎる。
そしてもう一つの提案。
勇者 譲羽護が魔王達を打倒するまで防衛を続ける事。
護が魔王を殺し尽くすまで戦い続ける辛い選択だ。
何よりもシェルター作戦より確実性が薄い。
(俺を信じる、か……残り27の魔王、そして今現在26の魔王を束ねてる大魔王を俺が殺せる可能性に賭ける訳だ)
率直に言うなら驚いたというのが護の感想だ。
次に戻って来たら、私達の為に死んでくださいと言われるのを覚悟していた。
だが姫様達は逃避ではなく抗戦を望んだ。
「王族らしい誇り高い決断だな。だけど姫様達は良くても民はどうなんだ?」
「我々と関係のない世界から来た貴方が、誰より敵を倒し仲間を守る姿を見て穴倉で生きよう。などという馬鹿は、あまり居ませんでしたよ」
「居るには居たのな」
「望み通り穴倉に引き篭もって震えています」
「それが少数派ってんだから……馬鹿だよな、俺もお前達も」
「全くです」
護の1週間の奮闘は、共に戦った彼らの死闘は民達から逃避を意志を拭い去る程度には響いたようだ。
それが誇らしく、何より嬉しい。
死ぬまで戦った彼らに、戦う力を持たない彼ら彼女らは報いる選択をした。
「じゃあ作戦通り防衛する範囲を狭めて民を一カ所にまとめてくれ……正直に答えてほしいんだが、それをしたとして保つのはどのぐらいだ?」
「2週間が限界かと」
「……まぁ敵が四方八方から押し寄せるんだ、当然か」
幸いにも今は勇者護の魔物大量虐殺のおかげで魔王達は様子見に移ってくれている。
有り得ない速度で全方位の魔物を殺し回った成果だ。
それでも魔王達は直ぐに攻勢に出るだろう。
そもそも軍勢の質が違う上に、今では数すら魔物の方が上なのだから当たり前の事。
今は少し戸惑っているだけ、大魔王の一声で人類を鏖殺する軍勢は襲い来る。
「今の様子見含めて20日弱って所か……一日一体魔王ども倒しても足りねぇな」
「厳しいですか?」
「厳しいさ。まぁ絶対にやり遂げるから待ってろ」
「待ちますとも……貴方が命を賭けるのなら、我々が命を惜しむ訳にはいかない。 25日持たせて見せます。それで一日一体でも余裕があるでしょう?」
「………わかった。全兵に伝えとけ、俺が帰って来たとき滅んでたら許さねぇってな。勇者様の死因が後追い自殺になる」
「それは勘弁願いたいですな。確かに伝えます」
互いに覚悟を決め、言葉を交わす。
歩みを止めずに1番長い付き合いの男と進む。
この世界に護を呼び出した、姫様達に挨拶に行くのだ。
最期の挨拶にはならないと弱気を追い出しながら進む。
誰より恨んだ姫様達の元へと。