出会いと死別と死別
ベチャベチャ
血と肉と骨の上を歩く。
「互いに名乗ってもなかったなぁ」
見覚えのある斧、それを拾い上げつつ呟く。
(もう涙も出ねぇよ……この世界は厳しすぎる)
別れは初めてではない、むしろ仲良くなった奴らから死んでいるのではと疑心暗鬼を生じる事もあった。
戦場で前線に立てば大抵の奴らは死ぬ、勇者であり異常な強さを誇る護だけが例外なのだ。
「また戦う理由が増えたな」
ドスッと斧を地面に突き立てて自分を慰める為に手を合わせ祷る。
きっと死に物狂いで間抜けにも寝こける護を守り抜いたのだろう。
結界を張った残響の魔力もあった。
あれは命を使って生み出す結界、死を前提条件として生み出し数時間だけ近づく生き物を確実に殺す結界。
魔術師が息子や娘に張ったものを護は見た事がある、自己犠牲の極地にして愛の究極。
離れて結界が無くなるのを待てば意味の無い、守る為だけの魔法。
「……ありがとうな、俺はアンタを忘れない」
そして護は走り出す。
もう何度も経験したことだ、哀しいし悔しいし情けない。
だけど悲嘆に暮れている間に更に仲間を失った経験もある。
もう止まれないのだ、報いる手段は戦いを終わらせる事。
(中央に戻るか……アイツらの命を代償にした睡眠だ、4時間で1週間戦えたなら、今なら一ヶ月ぶっ通しで戦ってやる)
聖剣を手に人類最後の防衛拠点に急ぐ。
もう涙は流れない、死別と死別と死別。
戦争の残酷さに嫌気がさしながらも全力で走る。
勝利を約束した人が多すぎる、約束の数は死別の数と同じなのだ。
反故には出来ない約束を背負い続ける。
勇者は強い。だから必ず生き残る、他の全員が命を賭して生かす。
それが護にとって辛い事でも、世界が人類が彼の生存を望んでいる。
(死ねない。死んで逃げる事は許されない)
或いは彼の心はもう壊れているのかもしれない。
だが壊れようが潰れようが消えようが、戦う事から逃げ出す事は許されない。
そう死んでいった彼らに誓ったのだから。