ハードモードな異世界に召喚された不憫な勇者の物語
「勇者だと? そんな小僧に何が出来る! 死にたくなければ帰ってママの「はい撤収!お疲れ様でした次行くぞオラァ!!」」
いやらしい笑みを浮かべた男の嫌味な言葉を遮るように若い男の声が響き渡りる。
「地図出せ地図! 次はどっちだ!」
「はっ! 次は南のイゾヤル砦にて奮戦しておりますナーバ侯爵」
「細けぇ事はいいんだよ!仲間と敵の数言え!」
「はっ! 仲間1000敵2万です!」
「伝令出せ!今すぐ撤退しつつ遠方からの足止め以外を禁ずる!それが駄目なら俺が行くまで攻勢に出させんな、ひたすら守って時間稼げ!以上!」
「了解!伝令!聞いたな、伝達内容復唱後すぐ行け!」
「はっ! 決して攻勢に出るな、守りに徹しろ!勇者は必ず来る!伝令行きます!」
伝令を復唱した兵士が直ぐさま馬に乗り込み走り出す。
勇者と呼ばれた青年から隊長らしき兵士へ、隊長らしき兵士から伝令を受けた兵士へと電光石火の早さで意思疎通がなされ戦場へメッセンジャーが走る。
「き、貴様!私を無視して何をしている!私は西方司令」
「うるせぇ馬鹿が!お前の部隊には俺の力は必要無い、じゃあ次の戦場に行こうって事だろうが!」
「貴様ぁ!誰に向かって」
「お前と御行儀良く喋ってる時間で何人味方が死ぬと思ってんだクソが!今の状況理解してんのかテメェ! はい隊長さん、今人類の生き残りは?」
偉そうな西方何たらの言葉を三度遮り隊長と呼ばれる兵士に問いかける勇者。
目が若干死んでいるのが印象的だ。
今も干し肉を齧り水を飲み、座り込みながらの問いかけだ。
「はっ! 10万を切った頃合いと思われます!」
「敵の総数は?」
「はっ! 確認されているものだけで80万はくだらないかと!」
「敵の大将、魔王の数は?」
「はっ! 魔王連合の魔王は28体であります!」
「なぁオッサン……俺が召喚されてから1週間で何時間寝たか教えてやろうか?」
「…………」
「4時間弱だ……戦闘時間は十倍、それ以外は移動時間だ……これでも俺とゆっくりお喋りしたいと?」
もはや過労で死にそうに見える勇者。
彼は召喚されてから1週間、ろくに眠ることなく移動と戦いを繰り返してきた。
勇者は強い、強すぎる程に強い。
それでも状況が休息を許さない。
人類は栄華を極め1億数千万の民が暮らす大陸。
そこに現れた脅威の名は魔王連合。
28の魔王がそれぞれ数百万の軍勢を引き連れ、大陸を包囲殲滅し始めた。
人類も抵抗したが魔王の軍勢はゴブリンにオークを初めとしてオーガにトロール、果てはドラゴンまで使役している。
人類の総数が10分の1になるまで2カ月かからなかった。
ここで大陸の国々の王達は勇者召喚を実行、もう異世界の勇者に縋るしかなかったのだ。
そして呼び出されたのが彼である。
(世界の為とか国の為とかじゃなくて人類の為だもんなぁ……そりゃあ多国の姫君達も初手土下座で懇願するわ)
とんだハードモードで呼び出され、ブラック企業も真っ青なハードワークを遂行する勇者の名は“譲羽護”
これまで必死に戦場を駆け回り、これからも異世界の人類の為に駆けずり回る勇者である。