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迷宮神獣Ⅰ~汚染獣襲来~  作者: じゃっすん
終わりの始まり
97/106

フォルテカの戦い・上

祝☆100話

つ、ついに100話まで辿り着きました!

ここまで読んでくださった皆様に感謝を!!

そしてこれからもよろしくお願いします('◇')ゞ


フォルテカ公国王城・蒼天城。


 それは山の中腹に佇む蒼き城。

 周囲を豊かな自然に囲まれた美麗なる城は、観光名所としても有名である。


 季節に応じ色とりどりの花が咲き乱れ、冬の最中でさえ花が絶えることはない。蒼天城を挟むように滝が中空から流れ落ち、水しぶきが七色の虹を創り出す。真冬のいと寒き時期には滝がその身を凍らせ、美しくも神秘的な姿を見ることが出来るだろう。


 蒼天城の麓に広がるのは公都フォーンの街並み。


 白で統一された優美な街並みもまた、フォルテカを語る上で欠かすことが出来ない要素だ。エルシオン森林王国(エルフのくに)森都フォレスと並び立つ世界で最も美しい都市、それが公都フォーンである。



 優雅で洗練された蒼天城の廊下を忙しなく走る影があった。


 目を血走らせ猛然と走るその姿は優雅とは程遠い。四角く刈り込んだ頭髪に、顔を縦に走る傷が特徴の男だ。名をアルブレヒト・ウェイルソン。フォルテカ近衛騎士軍団長である。


 貴族であるにも拘らず、顔に傷が残っているのは非常に珍しいことだと言える。


 アルブレヒトにとってこの傷は、大公キアラを守るためについた名誉の傷であり、彼女を危険にさらした己の不甲斐なさを象徴する戒めの傷でもあるのだ。この傷を残したのは、2度とキアラを危険にさらさぬという彼の決意の表れ。



 アルブレヒトは扉を守る部下を一瞥もすることなく、体当たりするように扉を押し開く。ノックなく扉を開いた彼は、驚きの声を上げる部下を無視して乱暴に扉を閉めた。


「何かあったのですか?」


 アルブレヒトの無礼な行動に眉を(ひそ)めることなく、キアラは冷静に尋ねる。


「アズールから汚染獣発見の報せが届きました!その数5体!真っ直ぐアズールへ向かっているとのことです!」


 

 現在、瘴気の影響で対汚染獣軍事要塞のあるアズールとサワイに直接連絡を取ることは出来ない。汚染獣発見の報せは魔道具での狼煙となる。これで街から街へと伝えていくのだ。瘴気の影響範囲を抜けたところで通信の魔道具で連絡が入る手筈になっている。


 そこまで時差があるとは思いたくないが……天候の影響で狼煙が届かない場合は伝令を飛ばす必要があり、それが致命的な遅れにならないことを祈るばかりだ。


 報告を受けたキアラは迷うことなく決断した。


「出陣します。近衛騎士団の半数はわたくしと共に。シリカとリーンハルトにも連絡をなさい」


 近衛騎士は公族の護衛。それを動かすにはキアラか……娘のティアラが動くしかないのだ。たった1人の愛娘を戦場に送り出すなどキアラの選択肢にはない。娘は自分の後継でもあるのだから。


 万が一救援が間に合わずフォルテカが落ちれば、次はシリカかリーンハルト。対策は早いに越したことはない。アンセルムも隣国ではあるのだが……あそこは人族至上主義を掲げる国だ。フォルテカとは敵対している。


 

 部屋を飛び出すアルブレヒト見送り、キアラもまた立ち上がった。



 愛する娘、愛する民のため。






 ◇◇◇◇◇◇






 アズール要塞


 防壁の上に多くの兵が並んでいた。

 その手に持つは魔銃。数多の銃口が汚染獣へと向けられ、開始の合図をただ静かに待っている。





 この魔銃の開発に成功したのはごく最近のこと。


 以前からフォルテカ・リーンハルト共同で研究をしていた対汚染獣専用の武器だ。〈火球〉の刻印魔法と治癒石を使用し、火に聖なる力を宿すことで汚染獣に吸収されない攻撃を可能としている。


 本来であれば、付与魔法を使用して作られる治癒石は一回限りの使い切り。それを徐々に力を引き出すことにより、1つの治癒石で3連射できる仕組みだ。3発撃った後は治癒石を交換することで、再び使用可能となる。

 威力も〈火球〉と合わせることでダメージを増やすことに成功してはいるものの、手数で汚染獣に打撃を与えることを基本とした武器である。


 実際は下級魔法である〈火球〉ではなく中級の〈火柱〉、上級の〈爆炎〉の方が効果が高いのだが、〈火球〉を採用しているのには訳がある。それは魔力総量の問題だ。

 一般兵の魔力総量は平均して300~500。最も魔力消費量が少ない〈火球〉を使用したとしても魔銃1発につき50の魔力を要するのだ。これが〈火柱〉であればその5倍は必要だろう。 


 兵に限らず戦闘に身を置く者は自分の魔力を込めた魔石を保持し、魔力をストックしている。だがストックして尚、1発の必要魔力量が多すぎるため、一般兵では連続使用が出来なかったのだ。魔力量が多い将校の魔銃は〈火柱〉ないし〈爆炎〉の魔術式が刻まれている。


 ただこの魔銃、開発したはいいが治癒石が不足しているため量産出来なかった代物である。そこで協力を申し出たのがドラグニルだ。

 ガッシュからの連絡で汚染獣が多発していることを知ったセルギオスが、無償に近い価格で大量の治癒石を融通したのである。これにより、急ピッチで魔銃が各要塞に配備さることとなった。






 数多の兵がいるとは思えぬ程静まり返った防壁で、彼らはただ待ち続ける――汚染獣が射程距離に入るその時を。


「ってえええええええええ!!!」


 将軍ベルガモットの合図で一斉に魔銃が火を噴く。〈火球〉が汚染獣へ着弾した瞬間、金色の炎が広がった。〈火球〉と〈回復〉の複合魔法〈聖炎〉だ。


「交代!急げ!!」


 3発を打った兵が即座に後ろへ下がり、新たな兵が魔銃を構える。


「ってえええええええええ!!!」

 

 次々と炎が着弾し、美しい金の炎が踊る。

 


(……やったか?)


 自らも魔銃で〈爆炎〉を打ち込んでいたベルガモットは待機の合図を出し、炎が晴れるのを待つ。



 轟っ!!



 炎を切り裂き赤黒い風が奔る。汚染獣、未だ健在。

 再び浴びせられる〈聖炎〉に、苛立ったように猛り狂う汚染獣2体を積層型魔法陣が捉えた。



 ――特級魔法〈滅殺炎獄〉



 これを為すのは魔導部隊。

 2門の凶悪な砲門が汚染獣を睥睨していた。これこそが魔導砲。世界で最も威力の高き戦略兵器。それは汚染獣すらも焼き尽くす致死の一撃を可能とする。

   


 ――汚染獣残り3体


 

 優勢に見えるフォルテカが狙うは短期決戦。既に多くの治癒石を消耗し、特級魔法も撃ててあと4発といったところか。長引けば一気に雛勢(すうぜい)が逆転するだろう。



 突如、一体の汚染獣が震え始める。



「不味い!2重展開!打てぇ!!」


 魔導部隊副長モルダンの命令で魔導砲が再び火を噴いた。2重の積層型魔法陣が震える汚染獣を閉じ込め、彼らの見つめるその先で汚染獣が2つに裂ける――増殖だ。


 一瞬、魔法陣が歪む……が、2重に展開されたそれを破ること叶わず、吹き荒れる炎が2体の汚染獣を焼き尽くした。


 これは以前バーンとアイザックが使用した特級魔法の重ね掛けを参考にして編み出された、複数体の汚染獣を相手取るための戦法である。とは言っても、特級魔法とは基本的に単体の汚染獣にこそ効果が高い魔法。


 何故か、その答えは……目の前にある。



 特級魔法の残滓を喰らい、残った2体の汚染獣が急激に成長する!



 モルダンは迷う。魔力残量を考えれば、撃てる特級魔法は残り2発。3発目を撃つには時間を要するだろう。


 2重展開した場合1体は屠れても、もう1体は確実に残ることになる。かと言って、各個撃破した場合は増殖間近の汚染獣に破られる可能性が高い。もし破られたなら……特級魔法を喰らい5体以上の汚染獣が顕現することとなるだろう。


 そうなれば……終わりだ。 





「くっ!右だ!右側に2重展開!」


 モルダンは危険を冒さず、堅実な方法を選択した。否、彼は信じたのだ――仲間の力を。

 右側の汚染獣が2重積層型魔法陣に捕らえられ、それに呼応するように左側の汚染獣に銃撃が炸裂する。〈滅殺炎獄〉に囚われた汚染獣が断末魔の叫びをあげ、〈聖炎〉に焼かれる汚染獣が2……つに分裂した。



 ――汚染獣残り2体。この2体が……遠い。



「門を開けよ!!」


 ベルガモットが叫び、同時に門が開かれる。そこに並ぶは歴戦の冒険者(もののふ)たち。その手に握るは金色に光輝く剣。聖剣……否、疑似聖剣だ。


 “神獣のきまぐれ”と治癒石を混ぜ合わせて作った液体を武器に塗り、付与魔法で固定したものだ。効果時間に制限こそあるものの、聖剣と同等の効果を持つ。神剣ほどではないが汚染獣に対し有効打を与えることが可能となるだ。


「一撃離脱だ!一撃離脱を徹底しろ!決して喰われるな!!」

「「「応っ!!」」」


 叫ぶと同時にアイリスが走り出し、それに遅れじと冒険者が続く。

 重力魔法〈増減・己〉を駆使し、全員が飛ぶように地を駆ける。ここにいる者全てが重力魔法を習得しているのだ。


 重力魔法は属性魔法の中でも扱いの難しい魔法に入る。この魔法を使用できるか否かが一人前かどうかの目安となっているほどだ。〈増減・己〉1つ取ってみても、軽くしすぎればどこまでも飛んで行き、重すぎれば自重で潰れることもあるのだ。


 武器を振り被った瞬間に重力を最大限にし、離脱の際は極力軽くする……正に己の技量が試される魔法だと言えるだろう。



 アイリスの剣が汚染獣の足を切りつけ、そのままの勢いで後方へと抜ける。それに続き飛燕の勢いで近づいた冒険者が縦横無尽に剣を振るう。決して足を止めず、全員が己の役割を全うしている。


 アイリスが5撃目を入れた瞬間、汚染獣が膝をついた。


「焦るな!今まで通りだ!」


 畳みかけようと動く冒険者をアイリスは牽制した。聖剣では汚染獣に()()()()()()()()()()()()()()のだから。


 内包された強大な力で汚染獣の存在そのものを滅する神剣と異なり、聖剣は線の攻撃。汚染獣の回復力を阻害し、切り刻むことは可能でも消滅させることは出来ないのだ。

 いずれ残った肉片が回復し、再び汚染獣へと返り咲くこととなる。聖剣での攻撃とは即ち時間稼ぎに他ならない。



 1体を消滅させる時間をアイリスたち冒険者が作り出しているのだ。



 アイリスはチラリ、と〈聖炎〉を撃ち込まれている汚染獣へ目を向ける。


 順調に削られてはいるものの、果たして間に合うのか。残り1体にまで減れば、魔導砲で完全消滅させることも可能なのだが……攻撃頻度が目に見えて落ちてきている。治癒石が尽きかけているのだ。


(くそっ!せめてもっと治癒石があれば!)


 3メートルまで縮まっている汚染獣を見てアイリスは思う。あと少し、あと少しなのだ。

 彼女の願いは届かず、疎らになった銃撃が止む。そして……汚染獣が解き放たれる!


 


 オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

    オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 汚染獣の咆哮が響き渡る。


 叩き付けられた拳が大地を揺らし、冒険者の動きを一瞬止める。

 その一瞬で勝敗は決した。


 勇気が!覚悟が!信念が!まるで紙のように破られる。

 血が!腕が!足が!まるでゴミのように宙を舞う。

  


 ――蹂躙。








「魔導砲はまだ起動できんのか!!」


 モルダンの指示で魔導兵だけでなく一般兵まで借り出しての魔力供給が行われているが、順調とは言い難い。



 魔導砲の必要魔力量は最低ラインで50,000。



 刻印魔法は通常の魔法と比べ威力が落ちる上に、必要魔力量が上がるのだ。とは言うものの、実際に特級魔法を刻印化して発動するのに必要な魔力は15,000ほどである。


 では何故50,000もの魔力が必要なのか。それは相手が汚染獣だから、それに尽きる。汚染獣を倒す威力を捻出するのに必要な魔力量が最低50,000とされているのだ。


「残り10,000です!」

「どけ!!吾輩がやる!!」


 魔導兵の言葉を聞き、モルダンは自身の魔力を注いでいく。魔導部隊副長であるモルダンは固有魔法保持者だ。魔力総量は約11万……が、彼は既に魔導砲を2回単独で使用しており、残りの魔力は少ない。


「危険です!副長!!」

 

 どんどん顔色が悪くなるモルダンを止めようと魔導兵が動くが、彼はそれを振り払った。ここで倒せなければどの道全員が死ぬのだ。躊躇(ためら)う意味などありはしないのだから。


「私の魔力を使え!!」


 先程まで魔銃で〈爆炎〉を撃っていたベルガモットが走り寄る。彼もまた固有魔法士。上級魔法を撃っていたとはいえ、まだ魔力には余裕がある。


「ベ、ベルガ、モット将軍は、あちら、の魔導砲をっ!!」


 モルダンはもう片方の魔導砲を指さす。魔力の余裕がなく、1門しか起動できなかったのだ。

 魔銃で汚染獣が倒しきれなかった現在、確実に汚染獣の息の根を止めるためには2射が必要となる。


 ベルガモットの魔導砲が魔力を吸収し瞬く間に魔法陣が光を帯びる。それに対し、モルダンの魔導砲はじわりじわりと遅い。



 残り7,000……6,000……5,500……5,000……


 


「まだか!?」

「あと4,000です!」


 ベルガモットの問いに魔導兵が答える。モルダンは既に虫の息だといってもよい。まだ魔力が残っている兵が魔導砲へ走り寄り、決死の表情で魔力を注いでいく。魔力が枯渇し倒れ伏す兵たちがその屍を晒していく。



(……最早猶予はない!)


 外壁へと真っ直ぐに走って来る汚染獣を見て、ベルガモットは命じる。外壁に取りつかれたが最後……終わりなのだから!


「途中でも構わん!ってえええええええええ!」



 多くの兵の命を供物に、荒れ狂う炎が汚染獣の姿を覆いつくした。

 


 それは希望の炎か、それとも……  





 

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