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迷宮神獣Ⅰ~汚染獣襲来~  作者: J
迷宮王国カサンドラ
39/106

救援部隊

 乾いた土煙をあげ先を急ぐ一団があった。

 全員ブラウンの軍服に身を包み、同じ騎獣に跨っている。鳥型の魔獣――大魔鳥(ビッグバード)――だ。大魔鳥(ビッグバード)の速度は時速80キロに達し、その色合いは軍服に合わせたかのようなブラウン。僅か30名程度の集団だが一寸の乱れもなく走行する姿は、彼らが精鋭であることを物語っている。



 ピ――――――――ッ!!!



 笛が響き大魔鳥(ビッグバード)が一斉に羽を広げ飛び立つ。地上5メートルの距離を密集し滑空していくその様は、まるで空中に広がる絨毯のよう。しばらくそのまま羽ばたいていたが、次に笛の音が聞こえると再び地上に降り走り始める。


 大魔鳥(ビッグバード)は走行と滑空を繰り返し、長時間に渡る移動を可能としている。さらに飲食を殆ど必要とせず、正に荒野に相応しい魔鳥と言えよう。だが荒野の固有種という訳ではなく、カサンドラ大迷宮に生息している種を捕らえたものである。



 ブラウンの集団の中に一名だけ色彩が異なるものがいる。漆黒の大魔鳥(ビッグバード)。その騎乗者は新緑の色を纏った男。彼こそ迷宮王国カサンドラが国王ガウディ・ベラ・カサンドラその人である。そして彼を守りしこの集団こそ迷宮王国最強と謳われる近衛騎士団。






 時は12日前に遡る。

 

 〈浄化〉が使える光魔法士の到来。この報告は定期部隊ではなく緊急を要する連絡用の小さな魔鳥――弾丸鳥――によりカサンドラへと運ばれた。


 僅か20センチ程の魔鳥でありながら、その速度は弾丸の如く速い。さらに空を飛ぶ魔物のすら飛行不可能な超高高度を飛行し、例え荒野であろうとも高確率で単独踏破できる魔鳥だ。ただしその速さから捕まえるのは至難の業で、カサンドラとメイゼンターグを合わせて3羽しか使役されていない。


 余程の火急の用件でない限り飛ぶことのない魔鳥の到来に、迷宮城は俄かに騒然となった。


 何事かと手紙の封を開けてみれば、光魔法士2名が今回の定期部隊で荒野を渡るという驚愕すべきものであった。光魔法士出生率0%、さらに荒野という危険地帯の中に存在するカサンドラは、建国以来一度たりとも光魔法士が来訪したことがない地だ。


 治癒石は迷宮からの産出もしくはリーンハルトからの輸入頼みである。迷宮ポーションも出るには出るが、治癒石よりも遥かに産出量が少ない。というより年に数回出るかどうかといった有様で、カサンドラは慢性的な治癒石不足に悩まされているのだ。



 ガウディはこの報告に狂喜乱舞した……が、読み進めるにつれ難しい顔になっていく。


 1人は問題ない。Aランクパーティー“赤き翼”のメンバーで、個人戦闘能力もCと上級冒険者だ。彼に何かあれば他のメンバーが黙ってはいないだろう。


 問題はもう1人の方である。どこのパーティーにも所属していない最低ランクFの冒険者……前代未聞である。Sランク天空のフェンの連れであるらしいが、合流するまでは1人であるという。更には〈浄化〉が使用でき、その力の強さからアンデッドが執拗に狙っているという規格外さ。


 これはいかん、とガウディは即座に命令を下す。先ずは護衛の選出にカサンドラ周辺のアンデッドの討伐。そして、アグィネス教徒の取り締まりの強化。

 本人が光魔法士であるということを秘匿したい、と希望していることから、関係各所に誓約書の手配もせねばなるまい。冒険者ギルドの長にも連絡を取り――彼はガウディの友人でもある――協力を取り付けた。


 ガウディは今か今かと定期部隊の到着をソワソワしながら待ち続け、妻に挙動不審すぎると蹴られもした。

 そんな彼のもとに新たな報せがもたらされたのは1日前のことである。

 




 カサンドラに3頭の飛竜が到来した。傷だらけのその飛竜達の様子は激しい戦闘があったことを示している。

 丸1日休憩すら取らずに翔け抜けた飛竜部隊だ。騎乗者の衰弱も激しく、門兵に事情を説明後昏倒。すぐさまこの報は王宮へともたらされることとなった。


 ガウディはその報を受け激怒した。


 高位冒険者の凶行……そして魔獣車から突き落とされた光魔法士がアンデッドに攫われたというものに。このまま援軍を編成していては時間がかかる、と思った彼は将軍と皇太子である長男に後を任せ、5日分の食料を引っ提げ即座に王宮を飛び出した……単身で。


 これに慌てたのは近衛騎士だ。彼らも即座に王を追って飛び出すこととなった。さらに、騎乗者がいないはずの飛竜3体が後に続く。


 援軍部隊本体は王に送れること半日、カサンドラを出立する。アンデッドが道中1体たりとも出現しないこともあり、前代未聞の速さで救援部隊は突き進ん行くこととなった。

 

 





 定期部隊の中で最も早くソレに気付いたのは先頭を走っていた隊長のガルーダ。彼は翼人族、その目は遠くまで見通すことができる。とは言っても、瘴気(きり)が立ち込めるこの場所ではその視認距離は限られているが。


 ガルーダが感じたのは瘴気(きり)の揺らめき。即座に部隊を止め戦闘態勢に移行する。

 

 瘴気(きり)を割るように現れたのは待ち望んだ救援。まさかそれが国王率いる近衛騎士団だとは思いもしなかったが。


 定期部隊の歓声とガルーダの感謝の言葉を遮り、ガウディは状況報告を急がせる。

 報告が進むにつれガウディの握りしめられた拳が震え始め、報告を聞き終えたガウディはカサンドラ軍小隊長ザボンを呼びだし怒鳴りつけた。


「ザボン!貴様何をしていた!!何故、我がカサンドラ軍から捜索に一兵も出していない!?」


 ガウディの詰問にザボンはしどろもどろに返答する。ザボンはルーファがいなくなったと知り、安堵した者の1人だ。


「そ、それは私たちの任務は定期部隊の護衛でして……それに、魔獣車から落ちた上に後続の魔獣車に轢かれたのです。どの道もう生きては「この愚か者がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」


 ザボンの声にガウディのそれが重なり、次いでその拳が炸裂する。


「捕らえておけ!!」


 ガウディは憤懣やる方ないといった様子で吐き捨て、ピクリとも動かないザボンに目を向けることなくガルーダに向き直る。


「ガルーダ殿がこの後捜索に加わるということだったな。その役目、私が代わりに果たそう。貴殿はこのまま進み援軍に合流しろ」


「し、しかし陛下にもしものことがあっては……」


 止めようとするガルーダを呵々と笑い飛ばし、ガウディはその肩を叩く。


「私の後継はしっかりしている、何の心配もいらん。それに上空から探した方が早いだろう」


 止める無駄を悟ったガルーダは一言だけにとどめる。


「ご武運を」


 それに1つ頷き、魔鳥に跨るガウディの元へ遅れて出立した飛竜が追い付く。何かを訴えるように鳴く彼らをガウディは困った表情で見つめる。


「……協力してくれるのは嬉しいが、少し休んだ方がいいのではないのか?」


 通じるのだろうか、と疑問に思いつつもボロボロな飛竜に話しかけるガウディ。そんな彼に息を切らして走って来る商人らしき小太りの男が目に映る。近衛が警戒して前に出ようとするのを押しとどめ、その男に声を掛ける。


「何の用だ?」

「はぁ、はぁ……。そ、その飛竜達はルウ様と仲が良かったのです。も、もしかしたらルウ様の居場所が分かるのかもしれません。どうか、どうかルウ様のことをお願い申し上げます!!」


 男の言葉に飛竜を振り向くと懸命に首を縦に振っている。その様子に僅かに目を見開くが、時間が惜しいと出立の合図を出す。飛び立つ魔鳥の羽音に紛れガウディの声が響く。


「名を聞こう」

「アイゼン・ラプリツィアと申します。あの時……私がルウ様の最も側にいたのです。申し訳ありません。申し訳ありません……」


「必ず連れて帰ろう。任せておけ!」


 懺悔するように苦悶を滲ませるアイゼンにガウディは堂々と答える。アイゼンの感謝の言葉を聞きながら、彼もまた空へと飛び立つ。先導するように飛竜が前へと進みでて、ガウディ率いる近衛騎士団がその後を追っていく。









 それより時は僅かに遡る。荒野に有るまじき和気あいあいとした声がその場に響いていた。


「姐さん、これも切りましょうか~?」

「姐さん、ジャガイモ剥き終わりやした!!」

「あ、姐さん、皿用意できただよ」

「姐さん、運び終わったっすよ!」


 ごつい男たちが笑顔でミーナに声を掛けている。“筋肉躍動”のメンバーだ。昨夜のミーナによる惨劇――バーンの折檻――を目撃した彼らは現在、忠実なるミーナの舎弟に成り下がっている。その中にはリーダーであるドゥランの姿もあった。

 ちなみに、この4名とは対照的にミーナに怯えたナギとマッチは現在、執拗なまでに騎竜の世話に勤しんでいる。


「ご苦労様です~。朝食の用意ができたので皆さんを呼んできて来てくださ~い」


「「「「は~い!」」」」


 4人が先を争うように走り出し、ミーナが笑顔で手を振っている。





 そこには手頃な岩に腰かけ、哀愁を漂わせながら1人の男と子狐が黄昏(たそが)れていた。まん丸顔のバーンとルーファだ。


 昨晩、あれからバーンはミーナにお仕置され、ルーファはゼクロスに長時間に渡り説教を食らったのだ。2人は同時にため息を吐き、チラリとお互いを見やる。


 やがて沈黙に耐えかねたようにルーファが口を開く。


『バーン君、昨日はごめんなさい。オレがちゃんと話を聞いていなかったのが悪かったんだぞ』


「もががが、もがーもがー。(いや、オレも大人げなかった。悪かったな)」


 ルーファがスッと前足を上げる。その意味を理解したバーンも直ぐに拳を握り、ルーファの小さな前足にちょんっとそれを打ち付ける。仲直りの印だ。そこへ何故かアイザックも現れ、2人(匹)と拳を打ち付けている。


『バーン君、お顔治そうか?』

「もが、もがもがもががー。(いや、それがバレたらミーナが怒るから止めとくぜ)」


『分かったんだぞ。でも、治したかったらいつでも言ってくれ』


 じゃれ合っている3人(匹)に、向こうからドゥランとトビアスが手を振りながら近寄って来る。


「お~い!飯だぞ!」


 3人(匹)は同時に腰を上げ仲良く朝食を食べに向かうのだった。


 



 朝食を食べ終えたルーファは人化し、髪をミーナに染めてもらう。カツラは不死王(ノーライフキング)が触れた際にボロボロになり、使えなくなったためだ。


 各々が出立の準備に取り掛かる中、ルーファはカレンとマッチの騎竜ヒューに近づく。今から〈祝福〉を授ける予定なのだ。騒ぎになってはいけないので、こっそり付ける所存である。

 カレンとヒューに祝福(キス)を贈り、することが無くなったルーファはメーに凭れ掛かり周りを見渡す。自分がここから去れば徐々に緑が減り、遠からず元の赤茶けた大地へと戻るのだろう。



(もっとオレが力を使いこなせたら、この死の大地を癒すことができるのだろうか。苦しみに囚われたアンデッドを救うことが叶うのだろうか)


 ルーファが目を閉じれば、そこには救いを求めるアンデッド達の姿が映った。


(いや、やるのだ!)


 ルーファは豊穣を司る神獣。そこに存在(ある)だけで大地を癒し育む。Sランクになるのが目標だが、このままこの地を放っておくことはできない。カサンドラに暫らく住み着き、そこから徐々に緑を増やしていけばいい。どの位の月日がかかるのか分からないけれど……。


 どうやら英雄王ガッシュに会うのは当分の間お預けになりそうだ、とルーファはそっとため息を吐いた。




 ルーファが物思いに(ふけ)っている間に準備が整い、ミーナに呼ばれ立ち上がる。ルーファはカレンにミーナはヒューへ同乗させてもらっている。心なしかマッチの顔色が青いような気がするのは気のせいだろうか。対照的にミーナからお許しが出たバーンの血色はすこぶる良い。


 急ぐ必要もないので今回は徒歩に合わせて竜たちも隣を歩いている。

 道中、アンデッドが時折現れ、ルーファが〈豊穣ノ化身〉を使用する以外は特に何事もなく進み、彼らは順調にカサンドラへと近づいている。方向は竜任せだ。


 


 ルーファの救援部隊はもうすぐそこまで来ていた。

 

 



 

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