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迷宮神獣Ⅰ~汚染獣襲来~  作者: J
迷宮王国カサンドラ
32/106

護衛の冒険者

 軍事要塞メイゼンターグの一室で屈強な男たちが顔を合わせていた。

 どの男も鍛え抜かれた肉体を持ち、戦士特有の空気を身に纏っている。鋭い目つきでお互いを観察し合う男たちに、将軍ダイアノスは声を掛ける。


「よく集まってくれた。ここにいるメンバーが今回カサンドラへの定期部隊に同行してもらう護衛の代表者になる。知っての通り、アンデッドの増加で出発が遅れている。アンデッドの討伐も終わり、今回は今までになく大所帯となる。その分、魔物に狙われやすいが……貴殿らなら問題ないだろう」


 ダイアノスは周りを見渡しニヤリと笑う。それに応えるように男たちも獰猛な笑みを浮かべた。



 リーンハルトより一個中隊120名。中隊長ガルーダ。

 リーンハルトより飛竜部隊5名。隊長ナギ。


 カサンドラより一個小隊40名。小隊長ザボン。


 Aランクパーティー“筋肉躍動”リーダー破槌(はつい)のドゥラン(他4名)

 Aランクパーティー“疾風迅雷”リーダー光速のレオン(他4名)

 Bランクパーティー“もふもふ尻尾”リーダー多彩のゼノガ(他4名)

 Bランクパーティー“至高の力”リーダー剛腕のパウロ(他4名)

 


「さらに今回“赤き翼”が加わることになる。ただし、彼らは護衛依頼の最中だ。護衛対象を最優先に行動するため編制には参加しない」


 ダイアノスの説明と同時にバーンが進み出る。


「“赤き翼”紅蓮のバーンだ。よろしく頼む」


 興味深げな視線が突き刺さるが、それを気にする素振りもなくバーンは不敵に笑う。


「英雄バーンか!光栄だな!」


 ドゥランは刺青が施された恐ろし気な顔に人懐っこい笑みを浮かべる。他の者も概ね好意的なようだ……1人を除いて。


「……チッ!護衛依頼ならここに呼ぶ必要ねぇだろうがっ!」


 ただ1人パウロだけが不快気に顔を歪めた。



 バーンを除きこの中で固有魔法を保持しているのはレオンとパウロだけとなる。ドゥランのパーティはAランクはおらず全員Bランクだ。その中の1人は固有魔法保持者であるが、まだ若く短絡的なところがあるためドゥランがリーダーを務めているのだ。


 パウロは経験も豊富なベテランなのだが……素行の悪さが災いして未だにパーティランク、個人ランク共にBに甘んじている。

 

 パウロはそれが気に入らない。


 自分も固有魔法保持者だというのにBランク止まりで、バーンは英雄と持て囃され、新たなSランクの最有力候補だとされている。その容姿の良さもパウロの気に触る要因の1つだ。


 何故バーンだけなのか、自分の方が優れているのに、と。

 彼は気付かない。彼を見る周囲の目に軽蔑の感情が含まれていることに。




「まだ話は終わっておらん」


 ダイアノスの言葉に再び注目が集まる。


「今回のアンデッドの一件だが、どうやら1人の光魔法士を狙っている節があることが分かった」

「おいおい!そんな話きいたことがないぞ!」


 一瞬、場が騒然となるも直ぐに鎮静化する。全員が真剣な表情でダイアノスを見つめている。この辺りの切り替えの早さはさすが高位の冒険者といったところか。

 ダイアノスが目配せし、バーンが代わって口を開く。


「オレ達はデルク要塞からそのまま西へ向かってメイゼンターグまで来た。アンデッドもオレ達を追うように数を増やし、最終的には皆も知っての通りメイゼンターグまで押し寄せてきた。狙われているのはオレ達の護衛対象であるルウだ。途中奴らに囲まれた時にルウが〈浄化〉を使ったことがあるんだが……使った瞬間に奴らの様子が一変した。明らかにルウを狙い襲ってきた」


 バーン達はこの事実を話すかどうかで悩んだのだが、黙っておくには余りにも危険が大きいために話すことに決めた。道中に襲われる可能性も高く、知らなければ全滅するということも考えられるためだ。バーンたちは護衛として万全を期す必要がある。


「ちょっと待てよ!あの大量のアンデッドの襲撃はお前らのせいってことじゃないか?それを退治して英雄気取りかよ!!ただ尻拭いしただけだろーがっ!!」


「それは否定しない」


 醜悪な笑みを浮かべて言い放つパウロに、バカにしたような笑みを浮かべ応じるバーン。顔を怒りで赤く染めたパウロが殺気をバーンに放つ。

 

「やめんかっ!!」


 止めに入ったのはダイアノスだ。不快そうに顔を顰めた彼の眼は真っ直ぐパウロを捉えている。


「だがよっ!あいつのせいじゃねーか!まさかとは思うが定期部隊に参加させるんじゃねーだろうなぁ」


「当然だ。そのために呼んでいる。これは決定事項だ。もし不満があれば今からでも断ればよい。今回の護衛依頼の料金を高く設定しているのは襲われる危険が高いからだ。何か文句でもあるのか?」


 ダイアノスの説明にバーンは意地悪くニヤニヤと笑いパウロを眺めている。怒りで身を震わすパウロが最後の足掻きとばかりにバーンを睨みつける。



「カサンドラはそのことを知っているのか?」


 カサンドラの兵がいる時点で知っているだろうとは思いつつレオンが質問する。


「ガウディ陛下は快く受け入れを承諾して下さった。なんせ……Sランク天空のフェン殿の連れで、特級まで使える光魔法士殿だ」


 ダイアロスは周囲を見渡し、驚愕に目を見開く冒険者たちに満足したのか、いたずらが成功した子供のように笑う。


「フェン殿とはカサンドラで落ち合うそうだ。運が良ければ会えるかもしれんぞ?」


 世界に3名しかいないSランク冒険者である。冒険者たるもの全員がその名を知っている。





 最も有名なのが“死神”セイ。


 神出鬼没で謎に包まれた人物で、その素顔を知る者はいない。200年近く前からSランクとして活躍しており、長命種であると思われる。敵に容赦はなく、今まで彼の前に立って生き残った者はいないとされる。




 次いで“天空”フェン。


 ご存じ叡智ある魔物・魔天狼(フェンリル)のフェンだ。だが、叡智ある魔物ということは知られておらず、天空を自由に翔け、暴風を操るその姿から“天空”の名を戴く。奇しくもその名はフェンの持つ種族固有魔法と同じである。




 最後に“不動”オストロ


 数千を超える魔物の群れにたった1人で立ち向かい、援軍が来るまで戦い続けた。街を背に一歩も引かぬその姿はまさに山の如し。故に“不動”。

 



 冒険者にとってSランクとは憧れであると同時に雲の上の存在である。会おうと思っても会えるものではない。

 驚きはやがて興奮へと変わり、各自意味不明な雄たけびをあげている。ドゥランに至っては涙を流して喜んでいる。

 そんな暑苦しい地獄絵図の中、ダイアノスは答えを知りながらも最後にもう1度問う。


「それで……全員参加でいいのだな?」

 

 



 打ち合わせが終わり、バーンはパウロをチラリと興味無さげに一瞥し、そのままナギの方へと歩いて行く。実際は要注意人物としてパウロをブラックリストに放り込んでいるのだが、その素振りは見せない。


「……何でお前がここにいる」

「やはりデルクでは少し遠いと思いまして異動届を出しました。最近アンデッドがメイゼンターグに集まっていることもあって、風竜(カレン)のお陰であっさりと通りましたよ」 


 呆れた眼差しを向けるバーンに対し、ナギは満面の笑みだ。


(まさかこいつはルーファを追っかけてここまで来たのかよ)


 信者というより最早ストーカーである。バーンの内心を他所にナギは続ける。


「そうそうマッチと他の皆も一緒ですよ」

「……マッチは確か竜騎士を返上し一から鍛え直すと言ってなかったか?」


「竜操技術を持つ者をそう簡単に竜騎士から外すわけないじゃないですか。マッチも()()()の護衛に任命されたことで非常に張り切っていましたよ」


 実際にはルーファの護衛ではなくて定期部隊の護衛なのだが……突っ込む気力も失せたバーンは曖昧に頷いた。いつの間にかルーファの信者二号が誕生していた模様である。

 




 ◇◇◇◇◇◇ 




 メイゼンターグの城門外の広場で、カサンドラ定期部隊が出発の準備をしている。

 商人を中心とした商隊、カサンドラで一旗揚げようといった冒険者、はたまた仕事の都合でやって来る者など様々だ。中には危険地帯のただ中にあるにも拘らず、移住を希望する剛の者もいる。まあ滅多にいないが。


 そんな中、最も目を引くのが両国の護衛兵。300人に及ぶ定期部隊の中で、実に半数以上を占めているのだ。それ程危険な道程だということだ。

 護衛兵は揃いの軍服を身に纏い、商隊を中心にして守るように展開している。


 魔法が主流のこの世界に金属鎧を付けているものはまずいない。魔法の格好の的となるだけだからである。各自服に防御系の刻印魔法を刻み、急所のみプロテクターを付けるのが主流となる。


 そんな護衛兵に隠れるように、冒険者たちが顔合わせをしているのが見て取れる。




 “筋肉躍動”はドゥラン率いる5名。


 ビッド、ダルカス、マイク、トビアス。


 この内固有魔法保持者はダルカスのみ。肉体を鍛えること至上の命とする全員男のマッチョ集団だ。





 “疾風迅雷”はレオン率いる5名。


 フレア、シンリィ、メイリーン、マーシャ。


 レオン以外は女性となる大変珍しいパーティーとなる。ハーレムパーティーだと思われがちだが……実際は全員レオンの実姉だという話しだ。彼女達はスレンダーで背が低く童顔であるため、全員が少女のような風貌である。そのため、レオンはロリコンだと思われており、イケメンの割りに未だかつて彼女ができたためしがない不幸体質の男である。





 “もふもふ尻尾”はゼノガ率いる5名。


 マッシム、ポトフ、チェスター、ズールノーン。


 尻尾とついていながら全員人族の男で構成されている。彼らは無類の尻尾好き――尻尾愛好家――なのだ。





 “至高の力”はパウロ率いる5名。


 リッキー、アームス、ワストン、ダダルカ。


 実力は確かでありながら、彼らはギルドの要注意人物に名を連ねる札付きの悪だ。しかし依頼は真面目にこなしており、証拠なく処罰することもできず現在にいたる。







 バーンがルーファを紹介した時、“もふもふ尻尾”のメンバーの視線が突き刺さるようにルーファの尻尾へと注がれる。アイザックがルーファを隠すように前に出ると、今度はその視線が彼の尻尾へと移動した。情けない声と共にミーナの後ろに隠れるアイザック。


「ちょっとアイザックさん~」

「無理っす。狙われてやす」


 彼らの目は威嚇の魔力をあげるミーナにも怯まず、ルーファの尻尾を見つめ続けている。ルーファは揶揄うように尻尾を左右に振って遊んでいるので、それほど悪い奴らではなさそうだ。


 ちなみにゼクロスはというと、ロリコンと名高いのレオンの前に立ちはだかっている。


「彼女たちは僕の姉だよ!お願いだ信じてくれっ!」 


 レオンの悲痛な声が木霊する中、バーンはカオスな状況に頭を抱えていた。

 ポージングの練習をしている“筋肉躍動”には、決して目を向けてはいけない。




(このメンバーで大丈夫なのかよ)


 一抹の不安を胸にバーンは青空を仰ぎ見た。



 バーンの心配を他所に出立の合図が出され、離れていくパウロに鋭い視線を向けながら、ルーファ達も魔獣車へと向かう。魔獣車は以前と違い、天井がないタイプへと変更している。防御ではなく魔法での戦闘を重視したものだ。ただし、テントの様に組み立てることが可能で風雨を凌げる仕様となっている。


 魔獣車を牽くのはルーファによって、メーと名付けられた羊の魔物。カサンドラで手放す予定であったために今まで名付けることなく来たのだが……共に死闘を潜り抜けてきたこともあり、ルーファが飼うと言って聞かなかったのだ。バーンとしてはフェンに丸投げするつもりなので全く問題ない。


「ルウちゃん、シートベルトを締めましょうね~」


 護衛であるミーナは締めるわけにはいかないがルーファは別だ。むしろ、していなければ転がり落ちそうである。


 緩やかに部隊が進みだし、手綱を握るアイザックもそれに倣う。




 迷宮王国カサンドラに向けて最後の旅が幕を開けた。





 

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