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潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
古き記憶
7/31

合同捜査本部

 七月十三日。


 いつもより、早く帰宅した佐久間はすぐに風呂に入り、さっぱりしてから千春と晩酌をしていた。


「やっぱり自分の誕生日には早く帰ってくるのね?」


 千春が珍しく嫌味を言うと佐久間は苦笑いしながら、ビールを注いだ。


「美味しいご馳走を用意してくれているとわかってしまっているからね。毎年、私の好みばかりありがとう。来年の三月二十七日は私が作ることにするよ」


「あら、本当?期待しちゃいます」


 千春は上機嫌だ。


 箸がすすむ中、千春はポテトサラダを取り分けながらニュースの事を口にする。


「ねっ、あなた。例の亡くなった方どうなりました?ニュースで見たから気になっちゃって」


「捜査のことかい?・・・珍しいな?」


「ニュースで結構取り上げられてますよ。エリート商社マンに何があったのか!ってワイドショーの解説までついていたわ」


「まだ、正直わからないんだ。仕事のトラブルなのか、縁故によるものか、事故なのか。別件で気になることがあってね。その結果を見て、推理しようと思うんだ」


「そうなんですか。最近、山川さんの話題しませんが一緒ではないんですか?」


「山さんには、同じ捜査をしていても後輩のお守りをお願いしてるんだ。本来は一緒なんだが、将来を考えると後輩たちを独り立ちさせないといけないからね」


「そんな歳になったんですね、私たち」


「ああ。いつまでも現役でいたいが、引き際はいつだろうね。もう少しだけ、我慢してくれ、千春」


「・・・はい、あなた」


 二人だけの静かな夜が過ぎていく。



 七月二十一日、捜査一課。


 科警研での鑑定結果で、白骨死体が藤堂政宗であることが判明し、DNA上でも親子関係が成立したことから、藤堂親子殺人合同捜査本部が改めて設置された。


「みんな、藤堂親子について仕切り直しで捜査を行うが、少し話を整理したい。この親子が殺害されたことを鑑みた時、親子共通の本ボシがいると疑うのが定石だが、七年のタイムラグがあると、何故これだけ期間が空いたのか疑問符がついてしまう。小川、お前が怪しいと思う人間はいるか?」


 小川は佐久間の質問に一瞬焦ったが、自分の考えを述べてみた。


「はい。今のところ、ガイシャたちに共通しているのは、藤堂千秋だけです。七年空いた理由はわかりませんが、藤堂千秋がお金に困っていないかや交遊関係について調べる価値はあると思います」


「わかった。では、藤堂千秋について捜査をやってみろ。但し、馬渕と一緒にな?馬渕、先輩らしく指導を頼む」


「はい、わかりました」


「次に藤堂千秋が本ボシでない場合について考える。藤堂千秋が藤堂要の遺体確認をした際に話していたことだ。藤堂政宗は藤堂要に危害を加える者に対して弁護士と相談していたらしい。また、弁護士も同時期に行方不明になったと聞いた。・・・この調査は山さんと日下にお願いしたい。警察に話して捜査をしたことを藤堂千秋は話していた以上、過去の未解決捜査資料に出てくるはずだ。七年前を重点的に洗ってくれ」


「わかりました」


「最後に、藤堂要が仕事上のトラブルもしくは藤堂政宗と関係なく殺された場合だ。顧客開拓の際に踏み込んでいけない領域に入り、口を塞がれたことが一つ。商社を隠れ蓑に全く違う副業を行い、トラブルになった。この線は貿易商や銀行員、為替相場に勤める者には当てはまることもあるため、捜査をする価値はあると思う。このケースは私が調査しようと思う」


「何か質問は?」


「はい、白骨死体について質問です」


「日下か、何だ?」


「白骨死体は本当に偶然あの場所で出てきたんでしょうか?あまりにもタイミングが良すぎるので、本ボシがあえて置いたのでは?」


「それは、私も考えた。確かにタイミングが良すぎる。だが、私が本ボシなら愉快犯でない限り死体は隠したいと思う。万が一、鑑定で親子とわかれば、捜査の網が本ボシに向かうのは目に見えているからな。ここは、偶然に出てきたと仮定してみたい」


「防犯カメラで録画されたものをあちこち確認していましたが、めぼしい人間の姿は今のところわかりません。どの定点カメラも、悪天候のためレンズが雨と湿気で曇って判別出来なかったためです」


「すると、足を使って聞き込みで情報を集めるしかないということか。残りの課員は事件当日と前日に絞り、不審者がいなかったかを聞き込みしてくれ。良いか、どんなに些細なことでも見逃すな。では解散!」


 合同捜査が開始された瞬間であった。


(白骨死体から、何か遺留品的なものがなかったかを再度検証してみるか?)



 〜 捜査会議後、都内路上〜


 馬渕たちは、藤堂千秋身辺を洗い始めようとしていた。


「小川、藤堂千秋の行動は谷後さんが七夕の日に佐久間警部から指令を受けて当たっていたはずだ。情報を引き継ごう。佐久間警部の話では、遺体確認の際に、あまりにも亭主に対して悲しみ感情が無いように感じたため違和感を覚えたそうだぞ。佐久間警部の勘の良さと推理力は随一だからな」


「はい。あまり外れたことないっすね。何故あそこまで先の先まで読み解けるのでしょうか?訓練でもしてるんですかね?・・・話、逸れちゃいましたが、普通に考えると亭主以外に男がいますかね?」


「・・・いるだろうな。亭主の死に動揺しないんだ。しかも亭主の保険金と義理の父親保険金両方が藤堂千秋の懐に入るし、裏で男が繋がっていても不思議じゃないぜ」


「さすがマブトモ先輩。賢者なみに賢い」


「アホか。佐久間警部なら、そう考えるのかなって思っただけだ。まずは、どこの金融機関を利用しているのかと生活環境から詳しく洗おう」


「では、谷後さんに話を聞きに行きましょう。まだ、佐久間警部の指令で藤堂千秋に張り付いているでしょうから。捜査方針も伝えなきゃならんです」



 〜 特命捜査対策室、特命捜査第二係 〜


 山川は、日下と七年前の捜査資料を手分けしてチェックしていた。


「川野、お前さん七年前このヤマ担当していたな。詳しく聴きたいんだが?」


 驚いた川野は、山川の元へやって来る。


「捜査一課のヤマとかち合うんですか?」


「ああ。先日の台風三号で、大田区羽田空港一丁目の護岸が崩れてな。そこからホトケさんが白骨死体で発見されて科警研で鑑定した結果、藤堂政宗であると判明したんだ。そして偶然にもホトケさんが見つかる数時間前には息子の藤堂要が溺死の状態で上がった。場所は違うがな」


「何だって!」


 山川の話を聴いていた周りの捜査官たちが一斉に集まってきた。


「や、山川さん。何か凄いことになってませんか?」


「そりゃそうだろ。七年間止まっていた空気が一気に動いた瞬間だ。藤堂親子合同捜査は捜査一課とここ、特命捜査対策室とも合同捜査の対象となる。誰か藤堂親子について教えてくれ。捜査一課情報は全て提供させて貰うよ」


「藤堂親子なら、このファイルに書いてあります。当時、藤堂政宗から警視庁宛に息子への取引妨害があるということで何とかしてくれと相談あり。しかし、具体的な証拠がない為、我々としても動くに動けませんでした」


 捜査官はファイルを山川に渡し、山川はサラッと目を通す。


「なるほどね。実際、一課でも同じく動けんだろうな。このファイル内容なら実害が出ておらんからな」


「山川刑事、ホトケは藤堂政宗だけですか?当時、失踪したのは藤堂政宗と弁護士の青木哲男です」


「残念ながら、見つかったのは藤堂政宗だけだ。この弁護士も同じくホトケになってしまった可能性が高いな」


「もう一度、ホトケが上がった場所を教えてください。特命捜査対策室でも、その付近の護岸を場合によっては壊してでも捜索したいと思います。埋め立てられた所から出てきたということは、一度に当時隠した可能性が高い。・・・しかし、よく見つかったな」


「本当に偶然さ。・・・しかし、悪いことは出来ないもんだ。人は騙せても、お天道さまはちゃんと見ていて、こうして何年経っても自然災害などで出て来ることがあるからな」


 日下がメモを読み上げる。


「えーと、場所は先ほど話した通り、大田区羽田空港一丁目です。最寄り駅は京急電鉄の天空橋近くです。地図ありますか?」


 捜査官が地図を広げる。


「えーと、あっ、ここです。ここの護岸が一メートル以上開いているはずです」


「ほおぉぉ。まさに神の仕業だな。こんなピンポイントで見つかるとはな。道理で七年も見つからんわけだ。感謝しますよ、一課さん」


「なぁに、良いってことよ。捜査一課も特命捜査対策室にはよくお世話になっているからな。ちなみに、青木哲男弁護士はどこかの弁護士事務所に所属を?」


「いや、個人で細々とやっていたようだ。七年前の失踪と同時に事務所も消失さ。今では建物も残っていない。コインパーキングに変わっているよ」


「では、弁護士から藤堂政宗の相談事項を詳しく調べることは厳しいな。藤堂要に妨害していた奴は特命捜査対策室では把握を?」


 室員たちは互いに顔を見合わせ、一度室長の顔色を確認したうえで山川が室長に見えないよう背中で隠しながら、声のトーンを下げて説明する。


「それが、東京都議会議員の松田権造だ。この議員、中々チカラを持っていて、警視庁上層部にも顔が効くんだ。大きな声で言えんが、当時も少し捜査協力依頼をしただけで室長のクビが飛んでしまったよ。もちろん、議員側から室長の難癖つけられてね」


「・・・そんなにか?」


「・・・そんなにだ。だから、捜査一課も取扱いには十分気をつけてな。佐久間警部は聡明だから上手く切り返すかもしれんが、敵対したら佐久間警部のクビも飛ぶかもしれない。我々は国家公務員だからな。センセイたちには敵わんよ」


「・・・情報ありがとう。佐久間警部のクビは絶対に飛ばす訳にはいかない。あの人を失うことは警視庁にとって致命的となるよ」


「それは、我々も同感だ。佐久間警部には逐一捜査協力を惜しまないと伝えてくれ」


「ありがとうございます」


 山川たちは、特命捜査対策室を後にすると足早に捜査一課に戻る。


(警部、このヤマはヤバすぎます。早くお伝えしなければ)

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