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潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
本ボシを追い詰めろ
30/31

松田権造の檜舞台と失墜

 三月七日。


 衆議院解散総選挙となるか争点となった三月も、内閣改造で騒動が静まり、裏で暗躍していた政治家たちの思惑が外れた。


 松田権造もその一人である。


 松田の思惑では、三月の解散総選挙で国政進出したうえで、カジノ法案に基づく舵取りをすることであったため、勝算が崩れた形だ。


 ~ 奥多摩、割烹料理店の個室 ~


議員せんせい、まあ一献」


「予定が大きく狂ったわ。馬鹿首相め」


「国政への進出はなくなりましたが、議員せんせいであることには変わりありません。まだチャンスはありますから、気を持ち直してください」


「うむ。実はな、選挙に回す金を一気に今回使ってカジノ誘致を進めようと思うんだが」


「誘致を?・・・では公式に公表を?」


「ああ。偽情報がぜも踏まえて勝負を賭けてやる。誰がこの国を将来治めていくか内外へアピールする一世一代の晴れ舞台だ」


「ぜひ、仕切りは風岡組に!」


「・・・わかっているな?」


「それはもう!誰が見ても政治結社でんがな。暴力団うちらの世界でしかわからん大物クビを用意したうえで出張りますよ」


「・・・よし、やるか。まずは、腹を突かれないように議員辞職をしたうえで、一投資家そして経済評論家として日本中の注目を浴びる。その上で、奥多摩再開発プランを公表し、シンガポールと提携しながら道筋を切り開いていく。完璧過ぎる。金はいくら懸けても構わん。日本中、いや世界中に発信出来る設備も投入し、アピールするぞ」


 こうして、松田権造は、風岡組の全面協力を得て準備を開始していく。


 二ヶ月後の五月五日。


 奥多摩に巨大な仮設特設ステージが設置され、日本初カジノ法案に伴う商用観光客誘致を目的とした企画発表が盛大に行われようとしていた。


 このイベントは東京オリンピックに匹敵するイベントとなり東京ドームと同規模の座席もたちまち満席だ。


 会場に入れない客を想定し、会場外には巨大モニターにてイベントの様子が視聴できる特設スペースが設けられ、立ち見が出来る程の盛況ぶりである。


 大型施設を運営するには維持費が莫大に掛かるため、カジノや劇場を併設し利益をあげて維持費をどう確保するかについて、国内外からも注目が集まり、マスコミが殺到。


 政府としても、舵取りをどう切るかの判断をする必要があり政務補佐官をはじめ、東京都副知事、国会野党も多数参加し、異例の生中継で行われる騒ぎの中、十八時三十分イベントが開始された。


 カウントダウンが終わり、暗闇にLED照明と煙幕が上がりステージ下からゆっくりと、満面に笑みで松田権造が登場。


 一躍、時の人となった男の一世一代の晴れ舞台である。


日本民民テレビの人気アナウンサーによる、舞台進行が始まり設置された巨大スクリーンには、将来完成するカジノ施設や体験型劇場など様々なビジョンが四十分間紹介されていく。


 放映される中、松田権造は滑舌に商業施設の利便性や将来日本が進む道を説き、会場も大いに沸いている時に突然、電源が落ちてしまった。


「おい、どうなっている!」


「原因がわかりません。サーバーが混線し、ダウンしたのかもしれません」


「これだけ、会場が沸いて注目が集まっている一番良いときになにをしているんだ。早く、復旧させろ」


「今、対応中です。少しお待ちを」


 三分後、会場に明かりが戻った。


 先程まで、大いに沸いていた観客たちは静まりかえる。


 現場スタッフたちも困惑している。


「みなさーん。お待たせして申し訳ない。いよいよ、次は・・」


 会場の様子がおかしい。


 松田権造は、振り返りバックスクリーンを見上げた瞬間身体が硬直してしまった。


 画面には、何と死んだはずの鳥羽秀一と青木哲男が並んで映っているからだある。


「何している。放映を中止しろ!」


「そ、それが電源も落ちません」


「そんなことはどうでもい・・・」


 松田権造のマイク音声が切れ、スクリーンの声が入り始める。


「我々は、松田権造に脅され、覚せい剤を学生たちや世間に売り捌いたり、偽ブランド品を扱ったりしました。妻は殺されとある親子も見殺しにしました。松田権造は今、皆さまがいるステージ奥に立っている指定暴力団風岡組と結託し、この地をリゾート施設と評し、偽情報がせも混ぜて、世間を混乱させようと画策しています。こうしてスクリーン越しに皆さまにお話するのは、両名とも、そこにいる松田権造が風岡組に指示し、我々を殺害せんと行動したため、我々は死んだふりをして警察に匿って頂きました。松田権造は、三月の衆議院解散を予想し、都議会議員から国会議員へと登り、やがては総理大臣を目指すと息巻いておりますが、本当にこんな悪党が政治を行って良いのでしょうか?」


「やめろ。皆さま、こいつら変なんです。デタラメなんです。おい!風岡!藤森!お前らも説明しろ」


 風岡一と藤森は、足早に会場から立ち去ろうとした。


「どこへ行く?お前たち!」


 眼前には、大勢の四課まるぼう、そして捜査一課たちが立ちはだかる。


「風岡一、お前たちを殺人容疑、死体遺棄容疑、殺人未遂容疑でそれぞれ逮捕状をとっている。署で洗いざらい話して貰うぞ」


「・・・ふん!弁護士を呼べ」


 佐久間は、一枚の紙切れを風岡に突きつけた。


「そうだ。これはお前たちの上部組織から我々宛に来たものだ。お前に渡すよう頼まれていたことを忘れていたよ」


 佐久間から手渡された紙を見て、風岡一は崩れ落ちる。


「破門状だな、それは?つまり、お前は組織にもう必要ないそうだ。今後は自分の身は自分で守るんだな。破門された奴は刑務所内でも生命を狙われるらしいからな」


刑事だんな、後生です。助けてください。全部話しますけぇ。全部、あの松田権造に指示されたんですよ!」


 ステージでうなだれている松田権造も、流石にぶち切れてしまった。


「おい、風岡!嘘をつくな!殺したのは全部お前たちだ。儂は何にも知らんし、皆さん。私もこのヤクザに騙されていた被害者だ。皆さんもそう思いますよね。一緒にヤクザを一掃しましょう!」


 会場から一斉に罵声とブーイングが起こる。


「誰がそんなことを信じると思うんだ!」


「最低な政治家だよ、お前は!」


「おい、都副知事!何であんな奴が都議会議員やっていたんだよ!」


「都議会もみんな殺人集団なのか!」


「思い切り、ヤクザと癒着してるじゃないか!」


 巻き起こるブーイングに観客たちが一斉に壇上へ押しかける勢いだ。


「皆さん、落ち着いて。警視庁です」


 佐久間は、暴動を予期して、大音響のオーケストラを用意し、会場内の罵声を清涼な音楽でかき消す。


 突然流れる音楽に、観客は一瞬ではあるが静かになった。


「皆さん、真実はこれから警視庁われわれが責任をもって解明していきます。皆さんの本心は私をはじめ、ここにいる政治家たち、そして生中継で見ている国民みなが共有しました。今、ここに疑いを懸けられた一人の容疑者がおります。もし、この男が起こした事件が事実であれば、それは皆さんが裁くものではありません。警察でもない。法なんです。それを皆さんが忘れてはただの暴挙となります。日本人は法治による国家である以上、皆が平等に従うべきでしょう」


 マスコミの一人が壇上で質問をする。


「警察は、この事件をどこまで把握を?」


「七年前の七夕に、ある親子の父親が失踪しました。そして昨年の台風三号の影響で息子が遺体で発見されました。同じ七夕の違う場所で失踪した父親の白骨死体が見つかりました。そこから、この事件は始まったのです。捜査情報なので、詳細は伏せますが、ある親子の悲しい事件から本日の逮捕に至るまで、これから多くの余罪が明らかになることでしょう。もし、元とはいえ、政治家が利権に目が眩み、人の道を外したとなれば、政治家や公務員、そして社会全体で教訓を戒め、国民の質を再び高めていかなければなりません。ここにいるお客さん全員対一人の容疑者ではあまりに不平等だ。ここは、皆さん我慢して収拾してくださ

い」


 佐久間の真っ直ぐ、かつ、ぶれない言葉と真摯な雰囲気に会場から拍手が起きた。


 マスコミも、一斉にフラッシュをたき撮影することを自粛した。


 佐久間は最後に、テレビ中継を通じて、全国へメッセージを送る。


「テレビをご覧の皆さま。今、一人の元政治家が国民たちによって晒し者になっています。彼の行動が真実ならば、法が間違いなく彼を今後裁くことになるでしょう。そして、余罪で被害に遭われた方たちも判明し荼毘に伏すことが出来ることでしょう。どうか、罪を憎んで人を憎まないでいただけませんか?人は魔が差すことがあります。私や視聴者の皆さまも、魔が差せば法に裁かれます。それが嫌だから皆、理性をもって生きている。今回はそんな悲しい事件だと思います。しかしながら、悪を放置するわけにもいきません。本日の事件を境に指定暴力団へも捜査のメスが入るでしょう。肝心なのは、皆で皆を守る気質をしっかり持って頂きたいと思います。それだけで、この国はまだ大丈夫。子孫たちのためにも我々の生活を死守していきましょう。なお、この事件は関心度が非常に高くなることから、今後マスコミを通じて、極力最大限、情報開示されることでしょう。カジノ法案は可決され、今回将来の舵取りをすべく開かれた催しは中途半端な形となること、深く謝罪いたします。しかし、この先はきっと素晴らしい案が出てくるはずです。我々は日本人なのだから」


 こうして、松田権造と企画会社、風岡組、キャストたち関係者は全員が警視庁にその場で拘束され、連行された。


 一触即発の事態も佐久間の説明で何とか収束し、会場の客たちも暴徒化することなく、帰宅の途についたのである。


 壇上から、観客が撤収する様を黙って眺めていた佐久間へ氏原が声をかける。


「・・・終わったな」


「ああ、終わった」


「何とか収拾がついたから良かったもんだが、今頃、上層部は大騒ぎだろう。きっとすぐに呼び出しだ」


 佐久間はフッと笑う。


「被害者たちが大事とすれば、今回のことなど小事だよ。これで少なくとも、もう松田権造の餌食になる者はいなくなり、関係暴力団も壊滅できる。秋山孝子や国本明美、そして藤堂親子もあの世へ渡ることが出来る。それだけで十分だ」


「しかし、ここまで大きなヤマになるとはね」


「ああ。七年前の七夕に起きた事件が、七年後の七夕に再び火種となり強引に決着するとはね。まさに潮騒のうただよ」


「潮騒のうた?」


「ああ。潮が満ちる時に波が発する音なんだが、藤堂政宗の悲しい声がうたとなり、潮騒に乗せて我々に知らせた。息子を想い死んでいった魂が意地で証拠を残してくれたから、今日の結果となったんだ。まだまだ、親父どのには我々は勝てないってことだな」


「本当だ。きっと藤堂政宗も満足だろう。息子の仇を討ったんだから」


 佐久間と氏原は、鳴り響くサイレンと会場から去る観客をいつまでも見送った。



 


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