表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
古き記憶
3/31

要救助者の死因

 七月六日、十五時。


 仮眠から覚めた佐久間は、夜勤明けで帰宅出来たのだが、台風三号の被害状況が気になり、捜査一課に立ち寄ると日下が佐久間の元に駆け寄ってきた。


「佐久間警部、お疲れ様です」


「お疲れ様。どうだ、被害の状況は?」


 日下は、被害状況をメモした資料を読み上げる。


「家屋の損壊は、十二件。床下浸水四十一件。床上浸水二十六件。土砂崩れ箇所は多摩地方八件。府中市二件。護岸など損壊は東京港湾管内や大井ふ頭、荒川、利根川で二十箇所」


「想定していた以上に損壊や土砂崩れが多いな。ケガ人や死者はどうだ?」


「はい。用水や河川にて溺死した方十六名。屋根から転落死者七名、飛散物によるケガ人は四十八名です」


 佐久間は被害の多さに愕然とする。


「・・・ここまで被害が大きいとは。何十年に一度しか発令されない特別警報か。もう少し時間があれば被害を防ぐことが出来たかもしれないな」


 日下は、被害状況メモで一名ほど気になることを報告。


「あの、警部。実は一名気になる被災者がおります」


「気になる?」


「はい。昨夜、江戸川区小松川の大島・小松川公園付近の河川で一名救助されましたが、溺死による心肺停止状態で病院に搬送され、そのまま死亡が確認されました」


「小松川?・・・小松川というと城東警察署管内か」


「はい。一度は溺死とのことでしたが医師が詳しく死体の損傷を確認してみると鈍器による脳損傷が死因の可能性も否めないとのことで、司法解剖を強く希望されたとのことです」


「・・・河川転落し護岸などに頭部を強く打ちつけた割には、不自然な点があるということだろう。ホトケさんは?」


「科捜研です」


「わかった。科捜研には私が寄ろう。ちょうど今朝の件で聴きたいこともあるしな。日下、引き続き頼むぞ。何かあれば遠慮なく連絡を頼むよ」


「はい。お願いします」



 〜 科捜研 〜


 氏原を訪ね、科学捜査研究所第二化学科化学第三係を探したが見当たらない。


(タバコ部屋か?)


 いつもは第三係で薬物鑑定かタバコ部屋にいる氏原だが、今日に限って中々見つからない。

 

 色々聴いてまわり、第二法医科法医第二係でようやく本人に会えたのである。


「よお、佐久間。迷っただろう?」


「いつ来ても、科捜研はわからんよ。氏原、今朝はありがとう」


「良いってことさ。白骨死体のことなら、まだわからんよ。今、この部屋でDNA鑑定出来るかを正に検証中だ。さすがに自分の科ではないから、口を強く挟めんよ」


「氏原、タバコでもどうだ?」


 二人は、廊下を歩いて階段を上った突き当りのタバコ部屋で、缶コーヒーを飲みながらタバコに火を付ける。


「この場所だけは馴染むよ」


「お前ってやつは?少しは仮眠取れたのか?」


「おかげさまでね。やはり年かな?数時間だが熟睡していたよ」


「まぁ、昨夜の暴風雨、外で一晩中警備していたら体力使い果たすさ。俺たちも何だかんだいって若くないからな」


 佐久間は窓ガラスにうつる自分の姿を見ながら確かに疲れた顔をしていると感じる。


「なあ、佐久間。お前の事だ。今朝の白骨死体のことではなくて、あれを聴きに来たんじゃないか?」


 氏原はニヤニヤし、コーヒーを飲む。


「長年、親友やっていると説明不要で助かるよ。・・・やはり他殺か?」


 氏原はタバコを根元まで吸い切ると、

「ああ。しかし、ただの鈍器による殺害じゃあない。インスリン量も過剰投与され意識を断たれたうえで殺害され、あの場所か、もっと上流で遺棄されたんだろう。・・・全く手が込んでやがる」


 佐久間は右手をアゴにつけながら意識を深く推理してみた。


「・・・厄介だな。本ボシはこの大雨特別警報を利用し、溺死に見せかけた。鈍器による陥没も、あわよくば河川に転落した時、岩や護岸に打ちつけたことが原因でと言い逃れするためだろう。・・・司法解剖されるところまでは読んでなかったようだがな」


「今回は、我々にはツキがあるようだ。医師のチカラが不足していたら、ただの溺死で闇に屠られるところだったよ」


「どうだ、もう一本?」


 氏原は佐久間に差し出されたタバコに火を付けた。


「身元は何か分かるものが?」


「いや。遺留品など何もないね。・・・悔しいが捜索願が早く出て来てくれないと困るな」


 佐久間は、氏原の困り果てた表情を察するとタバコの火を消した。


「・・・わかった。捜査一課に戻り早急に調査しよう。都庁やあの川の河川管理者、確か国交省だったかな?片っ端から当たってみるよ。所轄署にも捜索願出ているかもしれない」


「・・・すまんな」


「お互いさまさ。じゃあ、悪い頼むよ」


 ポンと肩に手を置くと、佐久間は科捜研を後にし、捜査一課に戻っていった。



 〜 再び、捜査一課 〜


 捜査一課で、残っている課員に、昨夜溺死した人物が他殺であったこと、鈍器による殺害とインスリン過剰投与もあった点を説明し、早急に身元を特定するべく指示を出した。


 課長の安藤は対策会議で不在であったが、官携帯にメールを入れ、代わりに捜査指揮を執る了承を得ていたのである。


「みんな、疲れているところ申し訳ない。手分けしてガイシャの身元特定を急いでくれ。都庁や区役所、所轄署、国交省など問い合わせや捜索願が出ていないか片っ端から当たるんだ。それと、城東警察署に連絡して大島・小松川公園から上流約二キロ圏内に遺留品がないかも捜査する旨、捜査協力を要請してくれ」


「わかりました」


「それと、日下と小川は大島・小松川公園の最寄り駅を調べ、防犯カメラ解析を依頼してくれ。・・・待てよ。・・・山さん、最寄り駅はわかるかい?」


 山川は待ってましたと言わんばかりに快答する。


「大島・小松川公園最寄り駅は、都営地下鉄東大島駅です」


 課員たちは、感嘆のため息をはいた。


「さすが鉄道マニア。・・・さすがです」


 山川は日下と小川の頭を鷲掴みすると豪快に笑いながら、おどけて見せた。


「刑事たる者、いかに現場へ辿りつけるか?その一秒が事件を左右することもあるんだ。ワシは趣味と実益を兼ねている」


 佐久間は日下と小川に一言付け加えた。


「日下、小川。山さんの言う通りだよ。みんな個人能力が違うのは当然だが、何でも良い。他人に真似出来ない特殊能力を身につけると捜査にも幅が出るんだ。山さんの鉄道知識、私の推理などな。焦らなくて良いから何か秀でるものを見つけてみなさい。お前たちが我々の後継者にならなきゃダメだぞ!」


「わかりました!頑張ります!」


(まずは身元を割り出してからだ。本ボシはまだ遥か遠くか。防犯カメラに何か残っていれば良いがな)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ