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潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
圧力と失脚
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動きだす歯車 1

 佐久間が、捜査からおりた。


 事件現場から戻ってきた山川たちや捜査二課、組織犯罪対策部をはじめ、警視庁内全ての部署に衝撃が走った。


 上層部からは直ちに、安藤が呼び出され、事の経緯と捜査状況、今後の対応についての説明を求められた。


 上層部からのヒアリングから解放され戻ってくると、今度は各課長たちから問い詰められる事態へと発展。


 多部署からの突き上げに、さすがの安藤もこの短時間で既にヘトヘトである。


 安藤の説明は誰が聞いても、素直に受け入れ難く、都議会議員の松田権造によって失脚させられたイメージを拭えない。


 当然、烈火のごとく怒りを露わにし安藤に噛み付いたのは山川だった。


「課長!いくら課長でも、間違ってます。佐久間警部を外すことは、警視庁として終わることに等しい。私をクビにしても良いから佐久間警部を戻してください。誰が佐久間警部の代わりを務められるんですか?・・・良いですか、この騒動は全国に伝わりますよ?それ程、あの人は影響力を持っている。それが分からん課長じゃないでしょう!」


「何度言えばわかる。お前の耳は腐ってるのか?佐久間警部は身内の不幸で、当面休暇を取るだけだ。・・・捜査から外れた訳じゃあない」


「そんな言い訳信じる奴がどこにいますか?あの人は、身内の不幸だろうと捜査に生命を賭ける人だ。絶対に信じません。あの野郎ですか?あの議員が来たせいで、警部は身を引いたんですか!課長は権力に屈するんですか!」


「良い加減にしろ!山川、お前誰に向かって口を利いている!本当にクビにするぞ!」


「だから、クビにすれば良いじゃないですか!警部を守ってクビになるなら本望だ、この馬鹿課長!」


 さすがに、捜査一課中の課員たち全員が二人の仲裁に入る。


「良い加減にしてください。他の課も見てますよ。山さんも課長にそんな暴言ダメですよ!組織なんですから」


「あんな正義の塊みたいな人を外す組織なんて俺は絶対に認めん。お前らも、あの人を失って捜査出来るのか?ウチの課全員足しても、あの人一人にはなれない。あの人は、将来、絶対にトップに立つ人だぞ。その逸材を腐り議員の一声で外す組織など無くなってしまえば良いんだ!」


 その様子を、廊下で他課の人間たちも業務そっちのけで見に来ている。


「おい、一課の奴らガチで喧嘩しているぞ」


 完全にブチ切れ、我を忘れて抵抗する山川に一言だけ、安藤は大声で言い放った。


「山川!お前は何年、佐久間と一緒にいる?何年一緒に同じ釜の飯を食った?語らずとも奴の心意気を察して耐えて待つのがお前の役目じゃないのか!・・・奴が離脱した今、奴の気概と捜査を何故引き継ごうとしないんだ!一言えば十汲み取れ、このバカモンが!」


「ーーーーーー!」


 この一言に、やっと山川は我に返り安藤が言わんとしたことが理解出来た。


 同時に、止めどなく涙が溢れ、人目をはばからず、山川は崩れ落ち子供のように泣いた。


「・・・・・・・・・」


 そんな山川の肩に安藤は、そっと手を置き一課の真ん中に立つと全員に喝を入れる。


「ボサッとしてないで、今日の捜査結果を取りまとめ報告せよ。三名も射殺されたんだ。このまま放置など出来ん。必ず証拠を集め、本ボシを確保するんだ!」


「はい!」


「これより、捜査指揮は儂が取る。全員、事件解決まで帰宅出来ると思うな。学生たちの様子は誰か把握していないか?」


「・・・・・・」


「お前たち、何年刑事をやっている?佐久間に言われんと動けないなら、刑事を辞めろ!・・・秋山孝子の身柄確保したら、学生たちを保護し、治療させ一日も早く更生させてやるんじゃなかったのか?今すぐ、班編成しろ。学生を保護し治療段取りをする者、親御さんたちの説得に尽力するものに分かれて行動開始!これ以上、佐久間に心配かけるんじゃない!」


 この様子を廊下で黙って見ていた二課長片寄や組織犯罪対策第四課長安波は、互いに顔を見合わせ、部下たちに黙って退くよう促した。


(なるほど。そういうことか。・・・安藤もよく佐久間の申し出を許したな。それ程、佐久間に信をおいたうえでの対処ということだな。佐久間が裏でどう動くかお手並み拝見しよう。奴が本当に将来、トップに立つ器か見させて貰うぞ、安藤)


 安藤の喝で、捜査一課内はピリッとし、一気に日常の空気に戻る。


 山川たちは、頭を切り替え学生を守るべく班編成を直ちに行い、役割を調整した。


 そして、あっと言う間に各自動き始める。


 その様子を確認し、安藤も小さく安堵のため息をついた。


(佐久間よ。お前さんは、本当に大した奴だよ。俺よりお前さんの方がよっぽど課長らしいかもな。・・・とりあえず、戻るまで何とか凌いでやる。早くケリをつけて帰って来い)



 〜 一方、その頃 〜


「ただいまーー」


 予期せぬ佐久間の帰宅に、千春は驚きつつも、いつもと変わらぬ様子で接する。


「おかえりなさい。お風呂入ってきたら?ご飯用意しておきますから」


「・・・ありがとう。そうするよ」


 風呂から上がり、晩酌をしながら千春に話掛ける。


「・・・何も聴かないんだな。助かるよ」


 千春は、そっと手を握り微笑み返す。


「夫婦を長くやっていると、わかるの。だから何も聴かないわ」


「・・・そうか。やっぱり何年経ってもいい女だ。・・・愛してるよ」


「ふふふ、私もよ。いっぱい眠って明日からまた頑張ろ」


「・・・うん。頑張るよ。・・・でも三日後からだ」


「三日後?じゃあ、それまで休むの?」


「ああ。短い休みだが、京都でも行こうか?紅葉シーズンではないがね」


「行く!行きます!・・・じゃあ久しぶりに途中で、愛知の大樹寺に寄って、川上真澄さんの子供見て行きましょうよ。和尚さまにも、お会いしたいわ」


「良いね。九条大河先生に久しぶりに力を分けて貰いパワーを付けて、旅行で英気を養って、それから・・・」


「それから?」


「・・・一気に事件解決する」


 千春は大笑いする。


「それでこそ、天下の佐久間警部。もう旅行キャンセルなしだからね。真澄さんにラインだってしちゃいますから」


「ああ、よろしく伝えてくれ」


 床に入り、静かに目を閉じ今日の一日を振り返る。


(今日は、朝から色々あったな。山さん、何も事情知らないで課長に噛み付いていなきゃ良いが。・・・みんな、しばらく迷惑を掛けるが、よろしく頼むぞ。学生たちのケアも誰か気づいてくれていれば良いが・・・。組織なかまを信じよう)


 いつの間にか、深い眠りにつく佐久間であった。



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