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潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
圧力と失脚
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休暇願い

 佐久間と氏原が、捜査一課に戻ると課内が重たい空気で充満している。


(・・・やはり、来たな)


 ブラインド越しに、安藤がペコペコ頭を下げているのが見え、周りの捜査官が目で松田権造の訪問を伝える。


 佐久間は、氏原と呼ばれていないにも関わらず、わざと課長のところへ出向いた。


「ただいま戻りました。・・・これは議員せんせい。どうされたんですか?」


「やあ、佐久間警部。忙しく捜査に精が出るようだな。噂で明智大学の理事や職員が立て続けに事件に巻き込まれたと聞いてな?」


「どこでそれを?まだ、マスコミも嗅ぎつけてないんですがね」


「それは、言えん。儂の情報収集力はお前さんたちより優秀だという事だ。何人死んだ?」


「・・・三名です」


「そうか・・・三名か。犯人の目星はついているのか?」


「まだであります。現場検証結果を見てから犯人の足取りを追うことになるでしょう」


「マスコミには、いつ?」


「捜査会議で話し合い、社会的影響力を鑑みて結論を出すでしょう。安易に公表すると大学の知名度や学生の就職活動にも影響が出るため、簡単には発表出来ません。学生たちの日常を守るためにも、何が最善か考えたいと思います」


「そうか・・・。まあ、頑張り給え。安藤くん、あとはよろしく」


「はっ、承知いたしました」


 珍しく、大した会話もなく松田権造は捜査一課を後にする。


 その様子から、すでに安藤への裏工作はたらきかけは終わったようだ。


「・・・課長、どのような圧力を?」


 安藤は、ブラインドを指でこじ開け、松田権造が庁舎から出ることを確認すると椅子に腰掛けた。


「やはり、読んでいたな。・・・お前さんの推察通りだよ。自分にくだらん事で火の粉が飛んで来ないように、お前さんを捜査から外すか辞めさせろだと」


「その手で来ましたか」


「ああ。捜査権限は、課長である君が持ち陣頭指揮を取れとな。何故、警部如きが全体指揮を執るのか、警視庁は組織体制が歪んでいるから、議員権限で組織改革に着手するとも言っていたな。まあ、警視庁われわれには、警視庁われわれの考えがあるから、議員せんせいのお気持ちだけ頂きますと切り返しておいたがね」


「随分な力技で来ましたね」


「率直な意見を聴きたい。やはり、ホシは松田権造か?」


「・・・おそらく。タイミングが良過ぎる点と圧力をかけてくるところで、判断出来ます。何人死んだ?などと普通はあり得ない質問です。限りなく黒に近いが、決定的な証拠は向こうの手にあります。・・・なんとか、今回入手した物的証拠から手繰っていくしかないのですが・・・」


「そうか。なら、早く決着つけないと上層部うえからもストップがかかるかもしれんな」


「議員は得てして、国家公務員われわれは議員の部下と思っていますから、飼い犬が騒ぐことを認めないのでしょう。・・・今回の事件で、なり振り構わず行動し、パソコンなどの有力な情報源の回収をしたことで、かなりのリスクを背負い込んだため、これからも高確率で茶々を入れてきたり、捜査介入してくると思われます」


「・・・捜査介入か。政治家は役人を使える立場だし、我々はそれを拒否は出来まい」


 安藤は、頭を抱えてしまった。


「課長、早期解決する案が一つだけあります」


「何だと!どんなことかね?」


「まず、私を捜査から外し、陣頭指揮を課長が行う必要があります。そして、私は今から長期休暇を取得し、当面の間捜査一課から姿を隠します」


「馬鹿な真似はよせ!お前さんがいなくなれば、捜査が本当に止まってしまうぞ」


「それが向こうの狙いなら、そう思わせましょう。その方が都合が良いかと」


 黙って聴いていた氏原が口を挟む。


「佐久間。その顔は何か思いついたな?どうしようってんだ?」


「課長、氏原。少しお耳を・・・」


「ボソボソボソボソ」


 佐久間の提案を聴いた二人は同時に驚愕する。


「佐久間、それは危険な賭けだぞ?」


「このタイミングだからこそだ。こちらから罠を仕掛けないと、証拠隠滅で新たな被害者が出る。そうなる前に手を打つ。・・・課長、どうか許可を」


「・・・休暇中の職員がどこで何をしようと止める権限は儂にはない。しかし、これ以上は庇いきれんぞ?それでもやるのか?」


「ハイリスク、ハイリターンです。他の捜査官には身内の不幸で当面休暇を取ることにしておいてください。知るのは、課長と氏原のみでお願いします。木を隠すなら森ですよ、課長」


「好きにしろ。・・・気をつけろよ」


「はい、ありがとうございます。では、只今より休暇を取って消え去せて頂きます。氏原あとは頼むぞ」


「ああ。連絡は個人用のラインでな?」


「・・・わかった」


 こうして、松田権造の圧力に屈した形で佐久間は捜査指揮を課長に戻し、捜査一課を当面の間、退くこととなった。


(ここからが、正念場だ。勘付かれる前に動いて接触する。二、三日は私への尾行や監視がつくことを想定して様子を見ることにしよう。・・・動くのはそれからだ)


 脳裏に、国本明美と秋山孝子の顔がよぎる。


(松田権造に関わる人間は、今まで何人死んだ?・・・藤堂要、藤堂政宗、秋山孝子、国本明美、片山理事、押田学校長。もしかすると藤堂政宗の弁護士もだ。政治の裏では何をしても赦されるのか?・・・必ず引導を渡してやる。みんなのために)


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