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潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
古き記憶
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白骨死体

 大雨特別警報が発令されてから、既に十一時間が経過していた。


 雨足の速い台風三号は、日付が変わる頃、関東を通過し、午前三時には太平洋沖合いへと移動したが、吹き返しが強くまだ警報解除まで至っていない。


 昨夜から延べ五百件もの110番通報に警察、消防、自衛隊などの官公庁は対応に追われ、他県からも応援派遣が来て何とかしのいでいる。


 七月六日、七時、東京都大田区。


「通信指令室より、東京港湾警察署並びに東京港湾警察署弁天橋交番へ緊急指令。応答願いたい」


「こちら東京港湾警察署どうぞ」


「大田区羽田空港一丁目、京急電鉄天空橋駅近くの護岸が崩壊し、人のようなものがいるとの情報。直ちに救護に向かわれたい。繰り返す。大田区羽田空港・・・」


「東京港湾警察署了承した。警察署並びに弁天橋交番からも要員派遣。直ちに現地に急行する」


 各部隊が編成され、現地に急行しパトカー三台が六分後に現着。


 夜が明け、風も雨も弱まりつつあり、視界は良好である。


 深夜の暗闇では目立たなかったが、台風三号の爪痕は凄まじく、埋め立てられた護岸は大きく損傷し、パックリと二メートルは開いてしまっている。


「平賀さん、あれですか?確かに人のようです」


 平賀は無線で通信指令室に返答。


「こちら、東京港湾警察署一号車。要救護者発見。直ちに救護に入る」


 計六名が同時に護岸に近づいた時、誰もがそれを見て身体が硬直した。


「ひ、平賀さん。は、白骨死体です。本部に連絡を!」


 全員ひとまず丘に戻り、通信指令室へ連絡。


「東京港湾警察署一号車より、本部応答願いたい」


「通信指令室。どうした?」


「要救護者、白骨死体であります」


「・・・間違いないか?」


「間違いありません」


「直ちに、第一機動捜査隊と捜査一課に出動を要請する。現場保全に切り替え対応されたい」


「了解です」


「通信指令室より、現場対応している捜査一課へ。応答願いたい」


 山川はパトカー無線を確認して応答。


「こちら、捜査一課どうぞ」


「大田区羽田空港一丁目、京急電鉄天空橋駅近くの護岸で白骨死体発見。何名か至急応援に向かわれたい」


「了解です。佐久間警部以外二名と鑑識官複数名手配し、急行します」


「了解。東京港湾警察署にて現在保全作業にあたっている」


「了解です」


 こうして、夜を徹して警備に当たっていた佐久間たちに通信指令室からの大田区への出動要請が入り、現場に急行することとなった。


 佐久間たちが、パトカーに乗り込み移動する頃には、大雨特別警報は解除され、都内のサラリーマンたちも疲れを押して、日常を取り戻すべくオフィスに向かう姿が視界に入る。


「警部、さすがに都会のサラリーマンは疲れていても働きますね。・・・我々もですが」


 山川は大きな欠伸をする。


「そうだね。正直、このタイミングで白骨死体を拝むことになるとは夢にも思わなんだけれどね」


「こちら第一機動隊。捜査一課応答願いたい」


「捜査一課、山川。どうぞ」


「我々、第一機動隊は現着したので、これより初動捜査を開始する」


「了解。我々も二十分以内に現着予定」


「了解」


「警部、第一機動隊はもう現着したらしいです」


「そうか。この台風後の状況で現場条件も悪く、かつ白骨死体なら鑑識課だけでは手に負えまい。・・・科捜研にも連絡しておいてくれ」


「わかりました。こちら捜査一課三号車。本部応答願いたい」


「通信指令室。どうぞ」


「通信指令室経由で、科捜研にも要請願いたい」


「了解した。連絡し向かわせる」


 佐久間たちが現着した時には、非常線が張られ、第一機動隊が遺体の回収作業を行っていた。


 慎重に白骨死体はシート付きの担架に乗せられ法面から丘へと上げられる。


 佐久間の予想通り、白骨死体以外の証拠保全に繋がるものは一切見当たらず、海水が全てを洗い流してしまっていた。


 佐久間の元に鑑識官が駆け寄る。


「佐久間警部、この状況ではさすがに鑑識課として役に立てません。指紋も下足痕照合も困難ですね」


 佐久間も現着した瞬間、状況を悟り困難であることはわかっていた。


「まぁ、無理だろうな。仕方ないさ。それよりも白骨化している仏さんは死後どれくらい経年しているか判別出来そうか?」


 鑑識官は、腕を組み思案しているところへ背後から聞き覚えのある声がする。


「五年以上は経過してるだろうな」


「ーーーーーー!」


 声色の方を振り返ると科捜研の氏原が立っている。


「よお、氏原。来てくれたか?」


「ああ。お前が捜査に出張ると聞いてな」


 氏原は陸上げされた仏の白骨化している部分を念入りに目視確認するとクビを横に振った。


「ーーーーーー?」


「佐久間、一応仏さんは科捜研が預かるが、ウチじゃわからないかもしれん。・・・もしかすると科警研に送るかもしれないぞ」


「科警研に?それほどか?」


「ああ。個人識別するとなったら、生物第二研究室でないと無理だろうな。科捜研の試験キットでは厳しいかもしれない」


「・・・わかり次第、中間報告を頼むよ。みんな、ある程度物的証拠を探して、なければ一旦引き上げだ」


「はい。わかりました」


(台風で護岸が裂けなければ、この仏さんは見つからなかった。何か運命的なものを感じるのは私だけだろうか?)


 佐久間たちは、一通り捜査を終えると仮眠を取るため捜査一課に戻った。


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