表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
慕情
13/31

明智大学への捜査依頼

 十月二十五日、警視庁内の某応接室。


 組織犯罪対策部組織犯罪対策第四課より、明智大学学長が非公式に呼ばれ、一連の捜査状況に関して協議がされていた。


「・・・以上が、本日までの捜査状況で判明している事実であります」


「まさか、ウチの学生に限ってそんなこと!・・・信じ難いですよ」


 課長の安波は、学長の表情を伺いながら慎重に言葉を選び、話を始める。


「ウチとしては、極力表立って公にしないほうが良いと思いますがね。・・・マスコミにとって、これ程おいしいネタはないと思いますよ。大学の面子もあるでしょうし」


 明智大学長の押田は、苦虫を噛んだような表情で安波に詰め寄った。


「警視庁としては、どう処理を考えているのかを教てくれませんか?話し方から当学の学生一名だけではなさそうな雰囲気だ」


 安波は、内線で電話を入れると間も無く捜査一課から佐久間が入室する。


「捜査一課、佐久間です。失礼します」


 安波は佐久間を脇に座らせると

「押田さん、ウチとしてはさっきも話した通り、マスコミに情報を流すつもりはないですよ。最も覚せい剤に溺れた学生さんは助けられませんがね」


「では、一体?」


 安波は佐久間をチラッと見ると

「ウチの佐久間を潜入捜査員として、おたくの大学に当面置いて頂けますか?肩書きは・・・組織犯罪対策研究員特別講師で結構です」


「組織犯罪対策研究員特別講師?・・・本気でそんなことを言われるのですか?ウチは文系も理系もあるが仏教系の大学ですよ?」


 安波は微笑する。


「それは、我々には関係ないですよ。良いじゃないですか?最近、世の中物騒だから犯罪から身を身を守るべく抑止効果を高めるため、特別講師を招いて未然に防ぐ。これなら、正当な理由が立つと思いますけどね。なあ、佐久間警部?」


「・・・学生はすでに薬の脅威に苦しんでいるでしょう。待ったなしで防犯対策が必要な事態です。ぜひ捜査にご協力ください」


(こいつらめ。裏ですっかり話を合わせているな)


 ここで異を唱えることは大学の知名度低下に繋がることを悟った押田には、この要請に従うしかなかった。


「・・・仕方ない。来年は学長選挙も控えているし警視庁の方々を立てましょう。その代わり、どうかマスコミや外部に漏れることだけはお願いしますよ。念を押して」


(結局、どいつも私利私欲か。学生が可哀想だな)


 その場を仕切った感が強い安波はほくそ笑みながら佐久間に捜査日時を相談する。


「佐久間警部。いつから捜査に当たれるかね?」


「はい。今日は木曜日ですので来週月曜日から早速現地入りをしたいと思います」


「・・・わかりました。では、月曜日八時三十分に当学の総務課に来てください。本学の職員たちに紹介しますよ。・・・くれぐれも身分は明かさないようにしてください。私も個人のつてで探偵事務所さんに依頼し、学生たちの身を守るべく予算を組む旨を説明するに留めますから。授業カリキュラムはその後、総務課か教務課で調整し、時間枠調整をお願いします。お任せしても?」


「わかりました。・・・探偵ですね。探偵らしく振る舞いましょう。では、しばらくお世話になります」


 押田は、警視庁を去っていった。


「佐久間警部。賽は投げられたぞ。本来、ウチの課で潜入するのが筋なんだが。・・・安藤くんにも後でキチッと詫びを入れておく」


「課長。気にされなくて結構です。同じ組織ですから。安藤課長も十分に理解しています。このヤマがいかに重要な防止線となるかをです」


「・・・すまない。一課に借りておく」


「では、私は明日一課のメンバーに既存の捜査を引継ぎするために、この辺で失礼します」


 捜査一課。


「・・・以上だ。私が不在の間、藤堂要や藤堂正宗の進展があれば遠慮なく、携帯メールに情報を頼む。それと、松田権造について背後組織を調べておいてくれ。ただの議員とは思えない。裏で暴力団組織がいないかを重点的にだ」


「わかりました」


 引継ぎとは別に佐久間は山川を別室に呼んだ。


「山さん。山さんには私が不在中の捜査指揮を依頼する以外に科捜研の氏原との調整や藤堂千秋の動向を監視して欲しい。今は動いていないが、藤堂要の同僚橋爪や松田権造との接触がないかをね」


 山川は、驚いた表情で尋ね返す。


「やはり、警部も藤堂千秋が怪しいと?」


「まだ、五パーセントくらいだよ。松田権造は私のなかでは三十パーセントだがね」


 佐久間は山川の肩に手を置くと、微笑しながら帰宅についた。


(新たな証拠は出ない以上、捜査は進展しない。どこかに接点があるはずだが。本ボシも中々ボロをまだ出さんだろうな)



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ