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潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
慕情
12/31

明智大学

「一平、三限目フケようぜ」


 二限目の物理学講義中、三谷公平は教授の目を盗み、雑誌を読んでいる大友一平に午後から抜け出して遊びに行く提案をするが、三谷公平は黙って雑誌を読み続ける。


「おい、一平。聴いているのか?」


「・・・香織は?喧嘩でもしたのか?」


「ああ。昨夜、ちょっと喧嘩をね」


「どうせ、無理なプレイを頼んだんだろう?」


「お前、本当に鋭いな。盗撮でもしてるのか?」


 大友一平は思わず、雑誌を落としそうになってしまった。


「はあ、呆れた。・・・まあ良いさ。今日はフケないよ。四限目終わったら、秋山先生に用があるし」


「お前、最近何かと秋山先生なんだな」


 三谷公平は、大友一平の様子を眺めながら、スマホを取り出し、津田香織からのラインをチェックするが、今朝入れた謝りのコメントが既読されていない。


(香織の奴、まだ怒っているのか?今日はあいつの好物買って機嫌を取ろう)


 三谷公平は、そんなことを考える間に講義終了のベルがなり、苦痛な時間から解放され、大友一平に昼ごはんを誘おうとしたが、少し大友一平の様子がおかしい。


「おい、大丈夫か?どうした、そんなに汗かいて?」


「なんでもないよ。少しだけ腹が痛くてな」


 大友一平は、周りが気になるのか、やたらとキョロキョロし、タオルで汗を拭いて三谷公平に尋ねる。


「公平、変なこと聴くけど俺汗臭い?」


「いや、ほとばしる青春の香りしかしないが?」


「真面目に臭くないか?」


「ああ。別に臭くないよ」


「そうか。サンキュー。・・・やっぱり三限目はフケるよ」


「そうか!じゃあさ・・・」


 三谷公平は、ニコッと笑うとどこに遊びに行くか話そうとすると、大友一平は顔を横に振る。


「あのさ、三限目フケて一度アパートでシャワー浴びてくるわ。汗臭くてさ。とりあえず今から帰るよ」


「おいおい、昼メシどうすんのさ?俺、学食行きたいんだけど?」


「・・・悪い。一人で食ってくれ。また後でな」


 大友一平は、そう一方的に言い放ち、制止する三谷公平をおいて一人アパートに戻っていった。


(なんだよ?香織も一平も、最近、付き合い悪いな。同じゼミでも卒論テーマ違うし、就活始めたからか?)


「トーン」


 ため息をつきながら学食へ向かおうと学舎の廊下を歩き始めると、背後からポンと背中を軽く小突かれた。


「元気ないね、三谷くん?彼女は一緒じゃないの?」


 振り返ると、長い黒髪に知的な眼鏡、少しキツネ目だが吸い込まれそうな瞳をした秋山が立っている。


(いつ見ても、いいオンナだな)


「・・・秋山先生。大友を昼メシに誘ったんですけどフラレました。香織とは喧嘩しちゃって」


「あらまあ、そうなんだ。じゃあ、研究室にいらっしゃい。昼ごはん一緒に食べましょう。私も一人じゃ、つまんないし作り過ぎちゃって、食べてくれる人さがしていたの」


 三谷は、一瞬、津田香織の顔が頭に浮かんだが、先生からの誘いを断ることは失礼に当たるかもと提案を受け入れた。


「じゃあ、ご馳走になります」


「良かったわ!じゃあ、行こ!」


 秋山は、ニコッと微笑すると三谷公平の手を取り研究室に連れて行った。


(この人はいつもこうなんだよな?先生の自覚がないというか)


 〜 秋山研究室 〜


「いただきまーす」


「沢山あるから、遠慮しなくて良いからね」


 まるで、大人数でピクニックにでも行くのであろうか?と思わんばかりの量である。


「先生、いくらなんでも作り過ぎじゃ。限度があると思いますが」


「私は料理作るとき、ギリギリは嫌なの。料理が少なくなると箸のスピードが落ちるというか、他の人が食べるかもしれないと遠慮し始めるでしょう。それが嫌だから、余らすつもりで作るのが私のやり方よ。では、ここで問題。この考えは心理学的に例えると、どんなことを言うでしょうか?」


 サンドイッチとおにぎりを両手に持ち、三谷は答えを探すが検討もつかない。


「・・・わかりません。心理学的に何て言うんですか?」


 秋山は、三谷のほっぺについたごはん粒を取り、口に入れると妖しく食べると微笑する。


「単なる自己満足。無償の愛よ」


「はあ、そうなんですか」


(何なのかなー?この空気)


 二人は他愛もない会話をしながら昼食を摂っていると、秋山は津田香織とのことを興味津々で尋ねる。


「彼女、自己顕示欲強いでしょ?」


「わかりますか?」


「勿論、分かるわよ。三谷くんはどSそうだから相性は良いと思うわ」


「な、どSって。・・・当たってるかも」


「ふふ。でも、主導権は持っていたい顔をしているわね。・・・私の実験成果をコッソリ教えてあげましょうか?」


「実験成果?心理学で実験なんかありましたっけ?」


 秋山は、一度研究室のドアを開け廊下に誰もいないことを確認すると、施錠。


「良い?これは学会に発表すれば間違いなく日の目を浴びて大変なことになるくらい効果があるわ。口外しない?」


「ごくっ。それは一体」


 秋山は一本の注射器を取り出すと、説明を始める。


「この薬はね、わかりやすく言うと安全なバイアグラみたいなもの。頭の脳細胞が飛躍的に活発化して回転が上昇し、精力も向上。何日かは不休不眠でもスーパーマンみたいに何でも出来るわ。副作用はないし、私も愛用しているの。あなたは、私の好みだから昼食に付き合ってくれたお礼に教えたの。・・・試してみる?」


 無性にムラムラと身体の奥底から、どうしようもない感情が湧き出し、若い三谷の身体は反応し、心も大きく揺れた。


(バイアグラ?好意?この状況は何というかおいしい状況?・・・一平には悪いけど)


「秘密にするわよ?・・・彼女にもね。試した後は、・・・あなたの好きにしていいわ」


 秋山のこの発言が決めてだった。


 三谷は、勢い良く右腕をまくる。


「喜んで、先生の実験成果を試したいです」


「先生も嬉しいわ。スグに済むから」


 秋山は、優しく微笑むと調合した薬を三谷に注射し、二分もしないうちに秋山の顔が興味本位から至福に満ちた表情へと変わっていく。


「こ、これは凄い。この高揚感は一体!何でも出来る気がします。・・・本当に好きにしても」


 妖しく秋山は微笑み、三谷の手を取り自分の胸に押し当てた。


「・・・いいわ、いらっしゃい」


(このオトコも落ちた)


 心理学専攻、秋山ゼミは少しずつ確実にこの後、覚せい剤の勢力を構築していく。


 大友一平、三谷公平、そして津田香織も同じゼミでありながら、互いに秋山を通じ覚せい剤の虜となっていくが自分だけが秋山と通じていると錯覚し、真実には辿りつかない。


 秋山ゼミに所属する前は、いつも一緒にいた三人も、互いに嘘をつき秋山との時間を優先させていくこととなる。


 秋山は、この三人を巧みに利用し覚せい剤を学生社会に浸透させるべく、ネズミ講的計画を大学講師の地位を隠れ蓑とし、この後も大胆かつしたたかに実行していく。


 佐久間は、学生たちを救うことが出来るのか?





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