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潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
慕情
11/31

組織犯罪対策部の要請

 十月に入り、山あいでは少しずつ紅葉が始まり秋の訪れを告げようとしていたが、捜査は難航していた。


 佐久間の予想通り、国本明美が藤堂要とのパイプ役になっていただけに証拠隠滅されたことで、事実確認が出来るものが無くなってしまったためである。


 藤堂要の妻、藤堂千秋の挙動を把握するべく捜査を継続させてはいるが、今のところ交遊関係者に目立つ者はおらず、また、口座関係についても藤堂要死亡による生命保険金が振り込まれたが、おろした気配はなく、堅実に生きて行く姿勢が見える程である。


 多摩地方での藤堂要が開拓しようとしていた顧客についても特に不審な人物が確認出来ないため完全に八方ふさがりとなっている。


 佐久間は、課長の安藤と相談しながら一度捜査規模を縮小し、再度見落としがないかを一から整理する方針を固めていた。


 そんな折り、佐久間の元へ組織犯罪対策部組織犯罪対策第四課より捜査協力要請が舞い込んできたのである。


「佐久間警部、ちょっと良いかな?」


 別室に呼ばれ、四課長の安波から直々に内密で密命が佐久間に下った。


「・・・色々な特殊任務を遂行してきた佐久間警部にどうしても力を借りたいんだ。安藤課長にも了解は貰ったよ。捜査規模を縮小したそうじゃないか。タイミング的にもウチとしては好都合だよ」


「組織犯罪対策部が依頼してくるということは麻薬が絡んでいることはわかりますが、そんなに特異なヤマなんですか?私など出張らずとも、課内で捌けるのではないのですか?安波さんは優秀ですから」


 安波は、佐久間にコーヒーを差し出す。


「このヤマは君の推理力がどうしても必要なんだ。容疑者は学生だ。被害者かもしれん」


「学生?どういうことですか?詳しく伺いましょう」


 安波はコーヒーを飲みながら、ブランドを開け外を眺めながら経緯を語り始める。


「事の発端は、歯科医からのタレコミだ。当院に治療に来た大学生の様子が変だと。健全である歯のほとんどが虫歯状態でボロボロであり、覚せい剤によるものではないかと疑ったと」


「・・・確かに、特徴は覚せい剤ですね。第四課として、どのような内偵捜査を行なったんですか?」


「まず、タレコミがあった歯科医から詳しく事情を聞いたうえで学生を張り込みした。すると、つるんでいる学生二名も覚せい剤を使用している疑いが出て来た」


「なんて事だ。それが事実なら大学内で覚せい剤が横行していることになります。早く売人を抑え、学生たちを保護しなければなりません」


「そうなんだ。ウチの課としては、大学に潜入し、学生たちがどのルートで売人と接触しているか突き止めたいと思っている。・・・しかし、恥ずかしながらウチの課には君ほど優秀で空気が読める男はおらん。・・・学生たちは敏感だ。刑事の匂いを嗅ぎ付けるかもしれん。しかし、君ならリスク回避能力が警視庁一だから頼みたいんだ」


「・・・わかりました。大学内に潜入しましょう。但し、私のやり方で早期にケリを付けます。場合によっては学生の身柄確保を優先させ、薬断ちを強制的に行いますがよろしいですか?あくまでも学生たちの命を優先します。例え売人を取り逃がすことになってもです」


「・・・許可する。何としても若者を救ってやってくれ。大学の学長には君を大学の臨時講師として立ち位置を確保させておく。明日からでも大学内に潜入してくれたまえ」


「承知しました。安藤課長に話してみます」


「頼んだよ」


 安波はホッとした表情で、部屋を後にした。


(何としても若者を救ってみせる)


 こうして、一度捜査本部から離れ、四課に協力することにした佐久間であった。

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