表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮騒のうた 〜佐久間警部の抵抗〜  作者: 佐久間元三
疑惑の連鎖
10/31

証拠隠滅

 九月二十七日、早朝四時三十分。


 渋谷区猿楽町十二番地のアパート周辺には捜査二課延べ三十人が十名ずつ班編成され、予定通り配置についた。


 あと二時間もすれば通勤や通学のために人や車で賑わうであろう路地も、さすがに人通りも少なく、初秋の風を肌で感じることが出来きる。


 そんな中、二課リーダー水岩田の指揮で定刻五時ちょうどに国本明美の住居にガサ入れを行う手はずとは、近隣住民はじめ、国本明美も知るはずもない。


 捜査官たちの緊張がアパートを取り囲み、万が一、容疑者が応答しない場合の措置として、ドア破壊装置と大家による鍵開錠準備を整えて不測事態に備える。


 突入五分前、佐久間と山川は捜査二課の後方で黙って見守るべく顔を出していた。


「・・・警部、いよいよですね」


 遠巻きにアパートを見つめ、ポケットからアンパンを取り出し、一口頬張りながら山川は傍観する構えをしている。


「ああ。まず大丈夫だと思うがね。水岩田くんは優秀だ。リスク回避させるため私が考えた策も指示したようだ。問題ないと思うよ」


 山川は、水岩田を見ながら意地悪く笑う。


「相当、水岩田警部ハッパ掛けられてましたよ、片寄課長に。佐久間警部に負けるなとね」


「勝ち負けなど、どうでもいいさ。あっ、始まるようだよ」


 水岩田の合図で、一斉に捜査官たちが予定通りの動きを始めたようだ。


「ピンポーン。・・・ピンポーン」


 容疑者応答がないため、大家が依頼された通り開錠を行い、チェーンロックされていない玄関に捜査官たちが一斉に突入し、その様子を見ていた佐久間たちも予定確保を信じて疑わなかった。


 ところが、中の様子が変であり、すぐに二階ベランダの窓が開いたかと思うと、捜査官が近隣住民に気を配りながら、あえて大声は出さず鑑識官を呼ぶ仕草をした。


 事態の異常を察した佐久間たちも現場に立ち入る。


(これは、一体?)


 パソコン等の電気器具が一切なく、シンプルとなった部屋に無残な国本明美の遺体だけが転がっていたのである。


 鑑識官は、死体の状況をすぐさま確認すると水岩田に死亡推定時刻を伝えた。


「水岩田警部、死亡推定時刻は三時間くらい前かと。死因は頭蓋骨骨折によるものと思われます」


 水岩田は佐久間のもとに駆け寄ると

「佐久間警部。見ての通り、状況が一変しました。・・・悔しいですが、何者かにガサ入れの先を越され、証拠を断たれた。パソコンなどの証拠を全て持ち出されてしまったようだ。・・・捜査一課に引き継いでも?」


「ああ。後は一課で何とかしよう」


 山川は死体を確認しながら、ホトケとなってしまった国本明美に手を合わせると怒りをあらわにする。


「警部、やはり議員が裏で?」


「山さん。まだ確証がないうちは断定出来んよ。このタイミングで容疑者が死亡することは、疑われることを百も承知で我々の懐に潜り込んできたか、捜査状況を何らかの手法で把握した本ボシが先に手を打ってきたかのどちらかどろう。・・・遺体は念のため科捜研に送る手配をしてくれ」


「わかりました。鑑識官に伝えておきます」


「頼む。指紋と足下駄痕など可能な限り採取しておくように追加で依頼してくれ。敵さんは慌ててパソコンなどの証拠隠滅を図ったようだが、指紋や足跡などで証拠を残しているかもしれない。課長に報告するため、私は一味先に捜査一課に戻る」


「わかりました。後のことは、細かく指示して、やっておきます」


 現場から去る前、アパートを下から見上げると主人を失った部屋は何故か悲しんでいるように感じる。


 東急東横線代官山駅で電車に乗り込んだ佐久間は、通勤客を横目に見ながら一日の始まりを肌で感じていた。


(長い一日が始まったな。藤堂要の次は国本明美か。偽ブランドの証拠隠滅くらいで人二人が犠牲になるとは、とても思えないな。どんな秘密が二人にまだ残されているのか?)


 国本明美の死を正直、予期していなかった佐久間は、どこかに捜査過程で見落としがないかを再度見直す必要ありと感じながら、捜査一課に戻ることにしたのだった。



 一時間後、捜査一課。


 佐久間が、捜査一課に到着した頃、片寄が捜査二課から佐久間の帰りを待ち構えていた。


「君も見に行ったんだって?水岩田から連絡が入ったよ。ガサ入れがまさか殺人事件になるなんてな。まさかとは思うが都議会議員が絡んでいると君は考えているのかね?」


「・・・タイミングがよすぎるので、どう捉えて良いか正直迷います。もし、議員せんせいが裏で操るとしたら、それは誰なのか慎重に探らないと火傷で済まないかもしれないし、上層部うえに繋がるかもしれません。・・・証拠隠滅されたので、手がかりが一度途切れるかもしれません」


「・・・そうか。知能犯なのか強行犯なのか迷うところではあるな」


「はい。石橋を叩いて渡ることになりそうです。安藤課長に相談しながら、進めたいと思います。都議会議員のことを考慮し、片寄課長にはこっそりと適宜耳に入れるよう配慮します」


「わかった。よろしく頼む」


 片寄は二課に戻って行った。


(やはり、誰もが松田権造を疑うか。逆にそれが本ボシの狙いかもしれないな。身内に本ボシがいて、松田権造に目が行くよう仕向けているのか、単純に松田権造が怪しいのか見極めねばなるまい)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ