ー下剋上の章 3- 首謀者
「なんだ、お前ら。清州の城に何しにやってきた」
「オウ。ワタシたちは大道芸人なのデス。世にもめずらしい猿にそっくりな人間と、豚と牛にそっくりな人間を連れてきたのデス」
「うきぃ、うきぃ」
「ぶ、ぶひい」
「も、もぉ?」
「馬鹿、言ってんじゃねえ!お前ら、俺らをコケにしてるのか」
清州の城を守る門番たちに叱責を受ける、俺らである。
ものは試しと、大道芸人に扮し、清州城の門まで来たわけなのだが
「織田信友さまの家臣の皆さま方に、是非、我が【弥助サーカス団】を見てほしいと思い、やってきたのデス」
「うーん。そうは言っても俺たちはただの門番だ。そういう許可は、俺たちでは出せん。少し待っていてくれ」
門番のひとりが、門の横にある戸を開け、中に入っていく。しっかし、でかい城だな。信長の居城の勝幡城がただの砦くらいに感じるくらいだわ。
こんなところに攻め入るなんて、結構、無茶な話なんじゃねえのか?
そう、俺が城壁を眺めていると、先ほどの門番が帰ってくる。
「おい、家老の坂井大膳さまからお許しが出たぞ。お前たち、運がいいな。さあ、入れ」
え?まじで、潜入成功しちゃうわけ?どんだけ、警戒が緩いんだよ、この城。
「ハハハッ、ありがとうございマス。さあ、皆さん、中にはいりまショウカ」
弥助は門の横戸にしゃがみ込むように、身を低くし入っていく。俺たち3人も続くように入っていく。
「いてっ!この戸、低すぎるんだよ、頭があたったじゃねえか」
「彦助さん。あなたは牛人間ですよ。人間の言葉をしゃべってはいけないのデス」
おっと、しまった。つい、痛みで素に戻っちまった。気をつけないと、正体がばれちまう。
俺たちは、横戸をくぐったあと、小間使いのようなやつに、城の庭に案内される。そこには、兵100名と、えらそうなデブが屋敷の縁側で座布団に座り、その両脇には、半裸の女性がそのデブに酌をしていた。
俺たちは、庭に入り、そのデブの前で正座をする。そして、おもむろにそのデブが、俺たちに声をかけてくる。
「世にも珍しい、猿人間と、豚人間と、牛人間を連れて歩く、肌が黒い南蛮人がなにやらおもしろいものを見せてくれると聞いたんだぶう」
「ハイ。お殿さま。尾張を統一している、信友さまのお祝いに、【弥助サーカス団】の芸を見てもらおうと思ったのデス」
「ぶぶぶぶう。わしは殿ではないだぶう。信友さまの家老、坂井大膳なんだぶう。まあ、行く行くは信友さまが守護大名になれば、わしが守護代になるから、実質、殿になるのも、あながち間違いではないんだぶう」
あれ?信長も、守護代・織田信友の家老なんだろ?信友が守護大名に格上げになれば、信長が守護代になるんじゃねえの?
「ん?お前、何か言いたげだぶうね」
「も、もぉ~。牛人間の彦助だもぉ~。家老って言うのは、信長ってやつも家老じゃないのかもぉ~?それなら、信長が守護代になるんじゃないかもぉ~?」
「牛人間のわりには、考えがめぐるやつだぶう。浅学な牛人間に言っておくが、家老と言うのはひとりではないんだぶう」
ふむふむ。てっきり、家老になれるのは、一人だけだと思っていたぜ。
「そもそも、ここ尾張は守護大名・斯波義統の下に、尾張下4郡を治める織田・大和守家と尾張上4郡を治める織田・伊勢守家があるんだぶう。それぞれが守護大名の家老であり、守護代となるわけだぶう」
「なんかややこしい話だもぉ~」
「牛人間には理解しきれないかもしれないぶうね。で、わしが織田・大和守家の織田信友さまの家老がひとり、坂井大膳なんだぶう。信長のやつも、信友さまの家老のひとりなんだぶう」
ええと、まとめるとだ。尾張の守護大名に守護代の家がふたつあって、さらにその守護代に家老が2人いて、それが坂井大膳と信長になるわけだな。
「彦助さん。信長さまにもまた、家老がいるのデス」
うん。よくわからん。家老が多すぎだろ。誰が誰の家老か、名札でもつけてやがれ!
「そんな話より、早く芸を見せてくれだぶう。わしが守護大名を乗っ取る前祝いには調度良いんだぶう」
なんだと、こいつ。織田信友を追い出して、自分が守護大名に名乗りを上げるつもりなのか!
「織田信友になんか、力はないんだぶう。まあ、斯波義統を殺してくれたことには感謝するんだぶう。主君・弑逆の汚名を被ってくれたんだぶう」
俺たちが本当に倒さなきゃいけない敵は、こいつだ。目の前にいる坂井大膳だ!
握りこぶしを作る俺の両手を優しく包むものがある。それは、ひでよしと田中の手であった。
「もうひとりの家老、信長を屠り、守護代の信友を追い出せば、わしが尾張を治める守護大名になれるんだぶう。楽しみでたまらないんだぶう」
げらげらと、上機嫌に笑う、坂井大膳である。
ちっ、笑っていられるのは、今の内だけだからな。信長が、俺たちが、てめえに天誅を喰らわせてやるぜ。




