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ー下剋上の章 1- 戦(いくさ)の始まり

 4月に入り、信長と守護代・織田信友との戦いが始まったわけだ。


 ひでよし、田中、弥助、そして俺こと飯村彦助いいむらひこすけは、信長の一兵士として戦場を渡り歩くことになったのだ。


 最初のうちは、清州きよすと津島の町の中間地点で、小競り合いを延々やっていた。


 しかし、小競り合いと言えども、まだまだ素人に毛が生えた程度の俺にとっては生死の境を行ったりきたりと大変だったもんだ。


 決して、誇張ではなく、実際に流れ矢が飛んできて、俺の胸の部分にぶち当たるということがあったのだが、さすがは信長が考案した新型の鎧だぜ。


 鎧を着ていなければ即死だったとは、まさにこのことだ。あれ?ヘルメットだったっけ?まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく、油断してれば、いつ矢が飛んできて、それで死んでしまうかわかったもんじゃあない。


 あと、合戦では、矢が飛んでくるだけではなく、石も飛んで来たりする。これが、まともに当たると中々に痛い。


 鎧を着てても痛いんだよな、石ってのは。衝撃が鎧を突き抜けてきやがる。あの投石を腹に2、3発も喰らえば、昼に喰ったものが逆流しそうになったもんだよ。


 田中と弥助やすけは相変わらず元気だ。俺から見たら、2人は俺のいくさにおける師匠と言っても過言じゃない。こう言ってはなんだが、この2人がいなかったら、俺は初戦で命を落としていたかも知れない。


 田中は口うるさいが、俺のことをしっかり見ていてくれていて、幾度となく、俺のピンチを救ってくれる。


「生水は飲んだら腹を壊すんだぶひい。井戸は水をろ過してくれるから、腹をこわさないんだぶひい。その辺、わかってるかぶひい?」


「へえええ。でも、水がどうしても欲しくなったら、どうするんだ?」


「そこは、雨が降ってくれるのを期待するしかありまセンネ。籠城は地獄なのデス。敵に内通したものが、井戸に毒を投げ込めば、そこでいくさは終了なのデス」


「本で読んだことがあるんだけどさ。血を飲めば、いいんじゃねえの?」


「お前、ひとの血を飲んだことがあるのかぶひい?はっきり言って、飲めたもんじゃないんだぶひい。生水を飲む方がまだましなくらいなんだぶひい」


「お腹を壊すならまだしも、下手すれば病気になってしまいマスネ、血液を大量に飲むと。彦助ひこすけさんは何の本から学んだかは知りませんが、その本は燃やしてしまったほうが良いかと思いマス」


 うーん。やっぱり、戦国漫画の知識は間違ってたかあ。言うだけ、俺の頭の悪さを印象付けるのみで、損なだけだった。



 さて、忘れることなかれ、ひでよしであるが、こいつがまた、はしっこいと言うか、頭がまわるし、気も回る。


「ひこすけさん。てぬぐいは持ち、ました?あと、三日分の食料も忘れずに。額当てがずれてます、よ。つけ直すので、こっちを向いてくだ、さい」


 お前は俺の嫁か母さんか何かかよ!


「田中さん。あちらの方に敵が2人いて、監視をしているみたい、ですね。こう言った場合は、殺してしまってかまいません、よね」


「そうぶひいねえ。偵察で来たとは言え、向こうの監視の穴を開けるのも手のひとつだぶひい。ちょっくら、仏になってもらうんだぶひい」


「じゃあ、彦助ひこすけ殿と、弥助やすけさんは、死体の処理をお願いします、ね。私たちと田中さんでやってしまい、ます。彦助ひこすけさん、この前、買った懐剣を貸してください」


「ついに俺の妖刀が血を吸う機会がやってきたのか。これで切れ味が増すぜ」


「何を言っているのかわかりま、せんが、付いた血糊はちゃんと拭いておきま、すね?血が付きっぱなしだと、錆びますから」


 田中とひでよしは、慣れた手つきで監視の兵2人を屠る。俺と弥助やすけは素早く、その死体を脇の林に持っていく。


「身ぐるみをはがしておきましょうか」


「死体漁りは感心しないけど、こういった場合はどうなの?」


「そういうことのためではありま、せん。相手の鎧を着て、潜入したりするのに使うの、です。あると色々、便利なん、ですよ」


 ふうん。そういうところは漫画とか小説とかと一緒なのか。


「まあ、いらなくなっても売れば、なかなかのお金になるの、です」


 結局、死体漁りと変わらねえよ!


「ひでよし、お前、小遣い稼ぎもいいけど、派手にはやるんじゃないんだぶひい」


 そうそう。死体漁りは気分よくないもんな。


「農家のひとたちが死体漁りで、生計を立てているものもいるんだぶひい。そのひとたちの取り分を奪ったら、いけないんだぶひい」


 こわっ!戦国時代、こわっ!


「しっ!皆さん、静かにしてください。ひとが来ます。身を低くしてください」


 ん?なんだ。俺にはわからないんだけど。


 きょろきょろしてる俺の頭を田中がつかみ、強引に地面にはいつくばせられる。


「いてぇ!何すんだよ」


「静かにするんだぶひい。ひでよしの言う通り、誰かやってくるんだぶひい」


 俺は慌てて、何か言いそうな口を両手で塞ぐ。


「あれえ?ここにいた監視役のやつらは、どこにいったんだあ?」


「どうせ、仕事が面倒で、どこかで油を売ってるんだろお?そのうち、戻ってくるだろ。あとで説教しないとな」


 2人組はそう言い、またどこかへと行ってしまうのであった。


 俺はホッと安堵の息をつくのである。残念ながら、お前らが居なくなったと思っているやつらは、もうこの世にはいないぜ。

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