ー完熟の章 8- 利家に学ぶ戦国経済学
「信長さまの領地以外では、普通は自由に商売ができないんッス。商人同士のいざかいよりも、寺社が商売自体を管理しているからッスね」
「寺社ってそんなに権力を持ってんの?葬式とか初詣くらいにしか、存在感がなさそうな気がしてたけど」
「それくらいで済むなら、こんなに世の中は悪くなってないんだぶひい。関所を置いて、関賎をとるだけに飽き足らずに、商売の邪魔までしてくるんだぶひい」
「あと、信徒からも金をむしり取っています、からね。下手をすると、大名よりお金をもっているような宗派もあるんではない、かと」
まじかよ、ひでよし。ああ、でも本願寺とか金もってそうだもんな。天下に号令をかけるクラスに育った、信長がついには滅ぼすことができなかったって言われてるくらいだから、よっぽどの金持ちだったんだろうな。
「本願寺こわいな。信長は本願寺とやりあってんだろ?大丈夫なのか?」
「ん?本願寺?ああ、一向宗のことッスか。ここから、南の長島のほうでは信仰が厚いっすけど、割と仲は良好なほうッスよ。あそこは信徒の数が多いから、それのあがりだけで喰っていけるッスから、信長さまの関所撤廃には、それほど反対はしてきてないッスね」
あれ?今はまだ、本願寺と信長は仲がいいのか。じゃあ、なんで、長島の焼き討ちなんかしたんだ?いくら、将来、敵対するんだろうけど、長島の信徒を皆殺しにするまでの理由はなんだったんだ?
信長の長島一向一揆の焼き討ちなんて、歴史をあまり知らない俺ですら知っているんだ。だが、普段の信長は気さくで、焼き討ちからは縁が遠い人間に見える。
俺がこの目で見た、あの気さくな信長を狂気に駆り立てたのは何だ?一体、何が長島で起きたんだろうか?
うーん、わからん。これも、結果しか記載してない現代日本史の教科書の影響なのか。俺はもしかして、教科書に騙されているんではないかと、疑いを持ち始めている。
だって、この戦国時代に飛ばされてきてから、役に立ったことなんて、ほっとんどないからな。あの教科書。
「で、寺社が商売人たちを締め上げているのはわかったけど、そんなに生産権と商売権はおいしいのか?」
「そりゃあ、寺社が締め上げるだけあって、おいしいッスよ。彦助は、商売をやるのに、生産と商売をするのに課税をされたら、どう思うッスか?」
「そんなのやってられないな。寺社に喧嘩を売りにいきそうだって、ああ!」
「そういうことッス。寺社が課税してくることに対して、喧嘩を売ろうにも、1商売人なんかじゃ、あいつらの兵力には太刀打ちできないッス。しかも大商人になると、寺社と手を組んでいるから、両方合わせて、やっかいなんッス」
「なるほどねえ。だから、同じく、兵を持つ、信長とか大名が寺社を締め上げなきゃいけないわけか」
「まあ、寺社に喧嘩売るような大名なんかいないんッスけどね。一緒に手を組んで、民からむさぼったほうがよっぽど手間暇かけずに金が儲かるッスから。寝てても転がってくる銭は誰でも欲しいッス」
「信長のやつ、大丈夫なのかよ。それって、要は、寺社だけじゃなくて、大名にも喧嘩を売るってことと同じだよな。信長の軍は2000しかいないんだ。大名が攻めてきたら、もう終わりじゃねえか」
「そうならないように、こっちから、殴るッス。しかも、あっちが田植えに精を出しているときに攻め入るッス。まあ、だからと言って、こっちもいつでも殴れるわけではないし、大名や寺社も、自由にこっちを殴れるわけじゃないッスけど」
「えーと、なんだっけ?大義名分がないと、戦ができないんだっけ?」
「彦助にしては、賢いッスね。そのとおりッス」
彦助にしては、は余計だ。
「俺らには、民の暮らしを良くするという大義名分があるッス。だから、寺社をぶん殴っても、民から支持は常にあるんッスよ。でも、寺社側は民を絞り上げるだけッスから、大義名分なんかないッス。こっちからは殴り放題ってわけッスよ」
「あれ?じゃあ、熱田神宮はどうなるわけ?椿のとこだって、信長と1戦交えててもおかしくなかったんじゃねえの?」
「熱田神宮は信長さまの父親、信秀さまの代から、懇意にさせてもらっていたからねえ。信長さまの関所撤廃をすんなり受けたから、関係は良好なのよ。別に、土地の押収が厳しかったわけでもないし、布教自体も禁止されているわけでもないしで、熱田神宮側からはそれほど不平不満はでなかったわ」
椿が、そう俺に説明する。
「あと、友好的な寺社に対しては、信長さまは圧力を強めるよりも、逆に保護してくださるからね。そこんとこは勘違いしたらダメよ?」
へえ。意外。信長のことだから、圧政でも敷いてるかと思ってたんだけど。逆らうものは、容赦なく斬り捨てるって感じで。
「そんなことはしないッスよ。大商人に対しても、同じッス。同業者たちを締め上げるような真似をしない限りは、大商人といえども、保護をするッス。あくまでも、武力を持って、民をいじめる寺社や商人を許さないだけッス」
まさに善政というのは、こういうことを言うんだろうな。てっきり、楽市楽座は大商人を解体したりして、そこから金をふんだくっているんだとばかり思ってたぜ。
「課税をちょっと小売やってるやつよりは重くするけど、大商人自体の解体はやってないッスよ。そんなことしたら、経済が悪化するじゃないッスか」
それもそうか。現代でも大企業がつぶれりゃ、その下請けは連座で相当数つぶれるんだ。結局、大企業の保護も大切ってことだわな。




