ー完熟の章 7- 田植えは大変だ
「ちなみに彦助に言っとくッスけど、織田信友は1000も兵を出せないッスよ、この時期だと」
ん?守護代のくせに1000も出せないって、どういうこと?
「少し考えれば、僕にでもわかることなんだぶひい」
田中にさえわかって、俺にわからないって。それはさすがに馬鹿にしすぎだろ。
「ちょっと3分待ってくれ。今から考えるから」
この4月に入ろうという時期に兵が出せない理由。それはなんだ。俺は足りない頭を必死に回転させる。
「はっ!そうか、そういうことか」
「彦助殿には、わかったの、ですか?」
「宴会だ!やはり、桜が満開になっていくこの時期だ。花見の宴会はかかせないからな」
どうだ、俺の頭の良さ!って、あれ?みんながふうううとかやれやれとか言ってやがる。
「期待した弥助が馬鹿だったのデス。彦助さんが思いつくわけがなかったのデス」
「いい線行ってると思ったんだけどなあ」
「全然いい線行ってないッスよ。大体、戦をほっぽらかして、花見に行くって、どんな軍隊ッスか」
「守護大名を殺して、その祝いを含めてなんだ。そりゃあ、みんな浮かれて花見のひとつくらい行きたくなるだろ」
「利家殿。彦助殿はいつもこんな感じなので、あまり相手にしないほうがいい、ですよ?」
おっかしいなあ。桶狭間の戦いでは、今川義元が勝利を確信して、陣中で宴を開いて、それが原因で信長に奇襲されたんだし、織田信友ってやつも同じだと思ったが、そうでもないのかあ。
「答えを言うッスと、この時期は苗作りや、田植えだから、農民たちは忙しいんッスよ。だから、徴兵しようにもできないッスよ」
ああ、田舎のばあちゃんちで、田植えを手伝ったことがあったけど、棚田だったから田植え機が入れられなくて、全部、手作業だったんだよなあ。
あんときは、腰がばっきばっきになって、次の日が地獄だったぜ。相撲部で鍛えてたと言っても、慣れない仕事はきっつかったなあ。
「彦助は農村あがりだから、わかっていると思うッスけど、苗作りと田植えは家族総出でやるッス。部屋住みも駆り出されるほどに大変ッス。でも、そうでもしないと、生産力はがた落ちッスからね」
「ふうん。でも、信長はその部屋住みの3男坊、4男坊を兵士に雇ってるんだろ?信長のとこの生産力は大丈夫なのか?」
「そこは、農具の改良に力を入れているッスからね。耕しには牛さんを大量投入してるし、町民たちにも給金を払って、田植え時期には出稼ぎに出てもらってたりしてるんッスよ。だから、3男坊、4男坊を兵士に雇っても、人力は他とは変わりないんッスよ」
「へえ。色々、考えてるんだな、信長は。俺なんて、田植えを手伝ったところで、小遣いすらもらえなかったぜ。ばあちゃん、けちくさかったからなあ」
「普通は田植えにお金を出すひとなんていま、せんよ。信長さまのところが異常なん、です」
「しっかし、信長は金持ってるなあ。どんだけなんだよ」
「信長さまの父上、信秀さまが、昔、貴族の屋敷や、寺に金を出して、新築させたッス。それくらい、津島の町のあがりはすごいんッスよ。そこに信長さまがさらに経済政策を打ち出してるから、信秀さまのときより、金がうなっているんッス」
「中村近くの那古野の町ですら、津島のように発展などしていま、せんでしたから、信長さまの経済センスはすごいと思い、ます」
「楽市楽座って、やつだっけ。言葉だけでは聞いたことあるけど、めちゃくちゃ効果がすごいんだな」
「お、楽市楽座を知っているッスか。本当、彦助は物知りなのか、馬鹿なのか判断が難しいッスね。誰でも自由に出店していいって許可を出しているッスよ」
「でも、わざわざ許可をださなきゃいけないのか?商売をするくらいで。そりゃ、出す場所の許可くらいは、申し出なきゃいけない気もするけどさ」
「彦助。もし、お前が商人だっとするんだぶひい」
うん?頭の悪い俺が、商売人だと?
「まあ、聞けだぶひい。もし、彦助が自分の店の隣に、商売敵が出店するとしたら、お前はどうするつもりなんだぶひい」
俺の店の隣にライバル店が出店するだと?
「うーん。いやがらせに、愛犬・ココナッシュの糞をその店先にまいてやるかなあ?」
「なんかスケールがすごくしょぼい気がするんだぶひい。まあ、それは置いておいて、彦助みたいな馬鹿が商売敵の邪魔をするのはわかりきったことなんだぶひい」
俺はそこまで言われて気付く。
「ああ、そうか。自由に出店して良いってことは、信長が言っている以上、相手の店の営業妨害は禁じてやるってことなわけか」
「そうッス。出店の自由と商売人たちの保護を同時にやっているッス。だから、商売人たちは安心、安全に商売ができるッスよ」
「あと、寺社からの圧力を防ぐこともやっているんだぶひい。寺社は昔から、生産品の生産、及び、販売に対して、それらをすることに商売人たちの邪魔をしているんだぶひい」
ん?どういうこと?
「あいつらは、自分の土地をもっているから、兵力を保持しているんだぶひい。その兵力で、商売人たちや生産者を締め上げて、管理してきたんだぶひい」




