ー完熟の章 6- 忍者は見ないが、暗殺はある
俺たちは銭湯へ向かう途中、談笑を続けていた。
3月も終わりを迎え、梅の花が咲き誇っている。桜はもう少し後になるのかな?その時は、みんなで花見としゃれこみたいぜ。
「なあ、桜が咲いたら、花見にいかねえか?酒とか料理を持ち込んでよ」
「花見と言えば、ひのもとの国の風物詩ッスね。毎年、信長さまと兵隊の皆で行くッスけど、今年はどうなることッスかねえ」
「ん?なんだ、何か他に大事な用があったっけ」
利家はやれやれと言った表情をする。あれ、何か忘れてたっけ。
「4月に入れば、清州攻めが始まるッスよ。信長さまの下剋上が始まるッス。忘れたんッスか?」
そう言われれば、そうだった。この前の寺攻略も、俺たち新兵のための前哨戦だったもんな。次の戦では俺は無事に命を繋ぐことができるのだろうか。
「僕は恐ろしいんだぶひい。次の戦は、悠長に罵声を飛ばし合うようなものにはならない気がするんだぶひい」
あの、お前のかあちゃん、でーべそ!って叫びあったあれか。あれを次にやらないとしたら、最初から全力全開の殴り合いになるってことか。
「確か、斯波義銀とか、守護代・織田信友とかの話だったっけ。あんまり、よく覚えてないんだけど」
「名前を覚えてるだけマシと言ったところッスね。忘れていると思うから言うッスけど、守護大名の嫡男の斯波義銀さまの仇討ちに、清州城に居る、守護代・織田信友を討つッスよ」
俺はそう言えばそうだったとばかりに、思い出す。
清州城と言えば、信長が本拠地の場所だったような。ゲームとかだと、清州城スタートだから、信長が大名じゃないことに驚きを最初、感じたものだったぜ。
ほんと、勝幡城スタートなんて知ってるやつ、現代の時代に知ってるやつのほうが少ないんじゃねえの?
「なあ、信長って那古野城とは関係ないの?」
「信長さまの生い立ちッスか?那古野城で養育されていたとは聞いたことはあるッスけど、信長さまのお父上の信秀さまが死んでから、親族に奪われたッス。でも、信秀さまが育て上げた津島の町を支配地にする、勝幡城のほうが、よっぽど、信長さまにとっては都合がよかったッス」
ふーん。俺の生まれ故郷、津島は信長のお父さんの時代から発展を遂げてたってか。地元のことながら、というより、地元のことだから誰かに言われないと、すごさってものは実感できないよな。
「で、清州城って、信長の軍事力で落とせるものなの?城攻めってのは、相手の3倍の戦力がないと落とせないってよく聞くしさ」
もちろん、この知識は漫画からだ。日本の漫画は歴史の勉強もできる、世界に誇っていい文化だよな。
「うーん。信長さまの軍は2000ッスから、普通なら、そう簡単に落とせないんッスよね。でも、そこは策が生きてくるんッスよ」
策。策か!やっぱり、策謀飛び交うのが、戦国時代の醍醐味だよな!
「忍者?やっぱり、忍者?忍者が織田信友を暗殺するんだろ?」
利家がじと目で俺を見てくる。あれ、また、俺は馬鹿なことを言った?
「利家殿。彦助の馬鹿には目をつむってやるんだぶひい。そうしないと、話が進まなくなるんだぶひい」
「そうッスね。彦助が馬鹿なのを忘れるとこだったッス。まあ、忍者が存在しているかどうかの話は脇に置いておいて、とりあえず、暗殺をするわけじゃないッス。さすがに、向こうも暗殺されるほど馬鹿じゃないッスからね」
「暗殺自体はあるのかよ。さすが戦国時代だな」
「まあ、医者を使って、薬だと言いつつ、毒薬を混ぜるってのがひとつの手ッスね。でも、それは病気で寝込んでるやつくらいにしか有効な手じゃないッスけど」
「ああ、そりゃそうか。医者なんて、寝込んでるときにくらいしか呼ばないもんなあ。でも、人間、風邪くらい誰でも引くだろ」
「医者を使うってのは、いろいろと策を仕込むのに便利ッスから、重宝はするんッスけど、逆に言えば、よく策謀に使われるからこそ、自分で信用できるもの以外は、担当医として採用することがないんッスよ」
「ふうん。そう言われればそうだよな。俺も医者にかかる時は用心しないとなあ。医者と聞くとつい、心を許してしまうもんだし」
「彦助殿は、そんなことに気を使うほど、偉くはないと思い、ますが。無駄なことに頭を回すよりも、日頃の訓練に力を入れたほうがいい、ですよ?」
「ひでよし。まるで、俺が普段の訓練をさぼっているように言うのは止めてくれないか?これでも、日々、頑張っているんだぜ」
「頑張っているのはわかっているの、ですが、彦助殿はよく、訓練中に話を始めて、それが原因で私たちが解説を始めて、さらには話が脱線するのがいつものこと、ですし。それに、弓の稽古では、椿さんのおっぱいを凝視してます、からね」
「ちょっと待て。俺がみんなの訓練の邪魔をしているような言い方はよしてくれ。あと、凝視はしてない。横目でチラ見してるだけだ」
「と、言われてますけど、椿さん、どうなん、ですか?」
そう、ひでよしに話を振られた椿が、ううんと唸る。
「チラ見か凝視かと言われれば、チラ見なんだけど。私の胸を見ているときの彦助の目力は凝視に値するのよね。瞬間、瞬間に全力を注いでいると言うか」
チラ見しつつ凝視か。なるほどなるほど。
「って、あれ?結局にしても、俺が椿のおっぱいを見ている事実は変わらないな?」
「その通りよね。おかげでケツ罰刀の力を上げなきゃいけないから、無駄に腕の筋肉が張るのよねえ。誰かさんのせいで」




