ー熟成の章10- 戦国時代は修羅の国
「ということは、この前の寺みたいに、武器を手に取って、反抗してくる寺社ってのは当たり前なのか?」
「そうッスよ。寺社なんか、特に金が集まるッスからね。その金で、兵を雇っているッスよ。無抵抗なわけがないッス」
「そういえば、熱田神宮は信長さまの父親の信秀さまの頃から懇意にさせてもらってるけど、もし、そうじゃなかったら、今頃、私たちと利家さんたちとは敵同士だったかも知れないんだね」
椿が言う。俺は背筋にぞくっと冷たい何かが流れるのを感じる。
「そう言われれば、そうッスね。今は、にこやかにメシ喰ったり、ふんどし買いに行ったりとか、かなり親しく付き合っているッスけど、時代が時代なら、ひょっとしてたかも知れないッスね」
「付き合っているっていのは語弊を生みそうな発言だけど、スルーしとくわ。もしかしたら、利家さんに一矢、放っていた可能性もあったわけね」
「そうッスね。そうならなくて良かったッス。美人を手にかけるのは、さすがに心が痛むからッスね」
「美人って。私はそんな言葉じゃ、揺らがないわよ」
「それは失敗したッス。可愛いと言っておけば良かったッスか?」
「椿を可愛いって言うのは、利家さんくらいだよー。なんで、椿は利家さんを彼氏にしないかなー」
菜々が言う。女ってのは、可愛いとか美人とか言われて、悪い気はしないもんじゃないのか?
「ん?彦助。言っておくけど、好きでもない相手に、美人だ、きれいだ、可愛いだなんて言われても、ちっとも心にくるものなんてないわよ。逆に、下心がありありで、気持ち悪いくらいだよ」
「たはあ、椿さんは言うこときついッス。下心なんてないッスよ」
利家がめずらしくダメージを喰らっている。いいぞ、もっとやれ、もっとだ。
「大体、私のどこが可愛いんだい?いつもぶっきらぼうで、怒ってるばっかじゃないか。利家さんは、もっと良い女を口説いたほうが時間の無駄にならなくて良いと思うんだけどねえ」
「ううん。おべっかは逆効果ッスか。これは作戦を変えないといけないッスね」
「そういや、利家は、もし、椿たちと戦うことになってたら、どうしてたんだ?」
「ん?そりゃあ、命のやりとりをするに決まっているッス。熱田神宮と言えば、ここいらで一番でかい社ッス。手を抜こうものなら、こっちの命がいくらあっても足りないッス」
「椿も、もし、戦うことになっていたら、俺たちとやりあうつもりなのか?」
「んー、そうだねえ。熱田神宮に喰わせてもらっている身分だし、やるだけはやるさ。まあ、ダメそうなら逃げるのも手かな。どうせ、金で雇われてる身だし、命を賭けるまではしないかな?」
「逃げてくれるなら、一安心だなあ。俺は椿や、菜々さん、それに風花さんと命のやりとりをするのは嫌だしな」
「彦助くんは優しいんだねー。菜々もみんなと戦うのはいやだなー」
「私もそう思いますね。せっかく皆さんと仲良くやっているのに、戦えと言われればちゅうちょしてしまうのですわ」
菜々さんと風花さんがそう言ってくれる。やっぱ、友達同士で殺しあうなんて、誰でも嫌だよな。
「利家」
「ん?彦助、なんッスか?」
「頼みがあるんだ。信長に、熱田神宮のお偉いさんとは仲良くしてほしいって伝えてほしいんだ」
「そんなことッスか。心配しなくても大丈夫ッスよ。熱田神宮の宮司さんは話がわかる人ッス。信長さまに色々、支援してくれてるッス。信長さまは恩には報いで応える人ッスから、大事にはならないッスよ」
「そうか、それなら安心した。俺、もし、信長が熱田神宮と敵対するって言うなら、熱田神宮のほうに寝返りそうだぜ」
「お前は本当にやりそうで怖いんだぶひい。僕だって、彦助と殺し合うのは御免なんだぶひい。僕からの分も信長さまによろしく伝えておいてほしいんだぶひい」
「私も、です。彦助殿が敵に回ると言うなら、容赦はしないと思い、ますが、なるべく、敵同士にはなりたくありま、せん」
「ひでよし、そこは容赦してくれよ。俺たち、マブダチだろお?」
「嫌ですよ。手加減なんかして、私が信長さまに叱責されたらどうするん、ですか。私の出世街道がお先真っ暗になるじゃない、ですか」
なんで、ひでよしって、たまにドライなところがあるんだろうな。本気で怖くなる時があるわ。
「そういえば、彦助は気をつけるッスよ。信長さまが治める領内はいいッスけど、その他の場所に行くときは、例え、農村といえども注意するッス。信長さまの領内から外は、全部、敵だと思っていた方がいいッス」
「そんなに危険なのか?武装しているって言っても、所詮、農村だろ?」
「あいつらを舐めたらダメッス。隣村と水をとったとらないで、命のやりとりをするようなやつらッス。牛さんが絡むと全面戦争をするやつらッス」
「牛こわいなあ。本当、牛って怖いなあ」
「彦助殿は、昔、牛を食べたって言ってましたから、そんなこと、村で言ったら、八つ裂きにされて、しまうのです」
ひでよし、それを言うんじゃねえ!
「彦助、お前は本当に馬鹿ッス!比類なき馬鹿ッス」
ほおら、利家に怒られたじゃねえか!




