ー熟成の章 8- 八百万の神々
何を隠そう、飯村彦助こと俺は、特殊能力を所有している。
それは。
着物の上から女性の胸のサイズを当てれることだ。
ん?誰でもできるだと?いやいや、世の中には偽物があるんだ。俺の右眼はそれには騙されない。
まあ、役に立たないんだけどな。
「さて、胸彦。そろそろ、銭湯に行かないッスか?変な世迷言はやめるッス。お前の独り言は声がでかいッス」
「え?まじ?今の俺の心の声が聞こえていた、だと?」
「心の声なら、口から出さないほうがいいッス。胸彦、今に本当に斬られるッスよ」
「本当なんだぶひい。聞いてるのが僕らだからいいけど、彼氏つきの女性の前で、胸のサイズなんか言い当ててたら、命がいくらあっても足りないんだぶひい」
「なに!田中、お前も俺の心を読んだのか?」
「いえ、彦助殿。こう言ってはなんですが、あなたの独り言はいつも聞こえてます、よ?」
「おいおい、ちょっと待ってくれ。俺があーんなことや、こーんなことを言っているのが全部、聞こえてたってこと?」
「ハイ、そうデスヨ。彦助さんは考えていることが顔に出やすいどころか、ほぼ全部、口から漏れ出してマスヨ」
「おい、まじかよ!なんで今まで言ってくれなかったんだよ」
「いや、だって、そういうこと本人に言うと、いくら彦助でも傷つくことは明白なんだぶひい」
やべえ。俺が女性に今までモテなかった本当の理由は、この癖だったのかよ。そりゃ、この娘はBカップ。あの娘はDカップとか言ってたら、まじでキモイもんな。
「なあ、こんなやばい癖、どうにか出来ないのか?これは死活問題だろ!」
「そうは言われましても。赤子の魂、100までって言わてますし、ね。今更、どうにもならないと思うの、です」
ひでよし、つめてえ、お前はそんなに冷たいやつだったのかよ。
くっ、なんだか、悔し涙が出てきそうだ。俺は、この厄介な癖と共に一生を暮らさなければならないのか。
「彦助さん。人間の可能性を捨ててはいけマセン」
「ああ、弥助。お前は、お前だけは俺を信じてくれるのか?俺はお前のことを今まで散々、馬鹿にしてきたというのに、そんな俺にも救いの手を差し伸べてくれるのか?」
「ハイ。弥助が彦助さんを見捨てるわけがないのデス。安心してクダサイ。弥助といっしょに天の国へ行きまショウ」
ん?なんか、こいつ、怪しいことを言い始めたぞ。
「さあ、彦助さん。この書類にサインを書くのデス。そうすれば、アナタは天の国へ行く約束手形を手に入れたのと同然なのデス」
どっかで、こういうの見たことあるなあ。あなたを幸せにしますとかなんとか言う、あっち系のひとの匂いがぷんぷんするぞ。
「さあ、彦助さん。サインを。印鑑が無くても大丈夫なのデス。住所と名前を書いてくれるだけでいいのデス!」
「おい、やめろ。俺にその書類を渡してくるな」
「ホワイ?なぜなのデスカ。彦助さんは天の国へ行きたくないのデスカ?」
「ちなみに聞くけど、お前の神は何だ?言ってみろ」
「全能の神、デウスなのデス。デウスは偉大なのデス。デウスは言われました。左右のオッパイは均等ではないですが、私はどちらも平等に愛します、なのデス」
「平等主義万歳だな。だが、悪いが俺は不平等主義なんだ。ひとは産まれてから、不平等なものなんだ。それを平等に愛するとは笑止千万!」
「オウ、シット!彦助さん、あなたはデウスを信じないと言うのですか」
「存在を疑うっていうことじゃない。よく聞け、弥助。俺は、ひのもとの国に住んでいる、八百万の神々を信仰しているんだ。つまり、俺から見たら、デウスも八百万の神々のひとりにすぎんのだ!」
弥助はビクッビクッと身体を振るわせている。ん?なんだ?
「オウ。彦助さん。私が間違っていたのデス。この国では唯一神であるデウスもまた、八百万の神々のひとりに過ぎないのデスネ。弥助はデウスこそが正しい神で、それ以外は、悪魔だと思っていたのデス」
弥助が両の眼から涙をハラハラと流している。やべえ、俺の言ったことが適当だと知ったら、こいつ、どうする気だ。
「彦助、あんたもたまには良いことを言うじゃないの」
あれ、椿さん?あなたまで、俺の適当に言ったことに感心してらっしゃる?
「そうですね。ひのもとの国は、外来の仏さまを神々の一部に取り込んでしまう国ですからね。八百万の神々とはよく言ったものです」
風花さん?常識枠のあなたまで、何、僕の言ってることを間に受けてるんですか?
「彦助くん、よくぞ言ってくれたよー。私もデウス信仰の一方的なもの言いにはうんざりしていたんだよねー。彦助くんは、えらいえらいー」
まあ、菜々さんはいつも通りか。このひと、悪い男に騙されそうだよな。
「皆さん、弥助は改心したのデス。ひのもとの国は素晴らしいのデス。相手を否定せず、すべてを受け止めてくれるのデスネ。弥助はデウスの御言葉ひとつひとつを疑いもせずに信仰してイマシタ。これでは真の信徒とは言えないのデス」
「ま、まあ。わかってくれれば良いんだよ?でも、デウスは偉大だと思うぜ。弥助は弥助が信じる道を進むといいと思うぜ?」
弥助は俺の言葉に号泣している。
ああ、やばい。絶対に、適当に言ったことは秘密にしておかないとな。




