ー熟成の章 3- 夢を預ける者 夢を守る者
俺は自分の産まれてから今までの価値観を粉々に砕かれる音を聞いた気がする。
「ひでよし、利家。お前たちはなんで、そこまで自分の命や他人の命を軽く、捨てることができるんだよ!」
「彦助。それは違うッス。俺は自分の命と皆の命が軽いなんて思ったことはないッスよ。でも、男は、死んでも守らなけばならないものと、それとは別に死んではいけない時があるッス」
「そうです。彦助殿。私もそうです。私には叶えたい夢があります」
「ひでよし、お前は、腹いっぱい白い米のメシを毎日、家族といっしょにたべるんだろ!」
「でも、その夢を叶えるには、信長さまに死んでもらっては、叶えることはできま、せん。私は信長さまを守るためなら、命は惜しくはありません」
「なんだよ、それ。矛盾してるじゃねえか。生きたいなら生きれよ。信長なんか関係ねえ!ひでよし、お前が生きたいと思えば、逃げてでも生きれ」
「それはできま、せん。彦助殿には、夢があるんですよね?」
「ああ、一国一城の主だ。それがなんか関係あるのかよ」
「信長さまが死ねば、彦助殿の夢が潰えます。私は親友である彦助殿の夢が叶わなくなるのは、いやなの、です」
「なん、なん、ななな」
俺は口から言葉を上手く、発せなくなる。
「もし、私が戦場で命を散らすことになった場合は、彦助殿、私の夢を、私に代わって成し遂げていただけま、せんか?」
「お、俺がかわりになって、も、いみが、ない、じゃないか!」
「いいえ。意味はあります。男が男に夢を託すのです。それを託された男には、その夢を叶える義務があり、ます。命は散れども、夢は消えません。いつか、きっと、誰かが代わりに成し遂げてくれるのです」
「それが、信長だって言うのかよ、お前たち、2人は!」
いきどおる、俺の右肩をぐいっと掴むものがいる。だれだよと思い、俺は右を向く。そして、振り向きざまに、横顔をつっぱりで吹き飛ばされる。
「田中、てめえ、何しやがる!」
つっぱりをかましてきたのは、田中である。
「1国1城の主になろうとしているやつが、ぴいぴいわめくんじゃないんだぶひい!いいか、彦助。ひでよしがお前に夢を託すと言っているんだぶひい。なら、託されてやるの一言くらい言えないのかだぶひい」
俺は、顔を斜め下に向け、ぐっと唸る。
「だけどよ。だけど、俺は親友のひでよしの命をもらってまで、夢を叶えるとかそんな覚悟は、ない」
ちっと田中が舌打ちをする。
「1国1城の主になるのが夢だと聞いたときは、この馬鹿は本当になる気なのかと、少しでも期待した僕が馬鹿だったぶひい」
「え?田中、それ、どういうことだよ」
「わからないだぶひいか。お前の夢を叶えるためなら、僕たちが力を貸してやるってことだぶひい」
「なんで、お前ら、俺の夢のために、そこまでしてくれるんだよ」
「弥助は思うのデス。彦助さんは水臭いのデスヨ。彦助さんの夢は、みんなの夢なのデス。もちろん、ひでよしさん、田中さん、もちろんワタシの夢は、みんなの夢デス」
「命を賭けて、みんなの夢を叶えるんだぶひい。僕たち、親友じゃないのかだぶひい。親友の夢くらい、叶える手伝いをさせるんだぶひい」
俺は、皆が言わんとしていることが、なんとなくわかってきた。
「へへっ、そういうことかよ」
皆が皆の夢を叶えるために、命を賭け合う。その集大成が、信長の存在ってわけかよ。ああ、わかったよ、神様、俺がやらなきゃならないことがわかったぜ。
「俺の一国一城の主の夢は、なしにしてくれないか」
「え、彦助殿、それは一体、どういうこと、ですか?」
「まあ、続きを聞いてくれ。俺には新しい夢ができた」
「ふうん。どうせ、くだらないことだろうぶひいけど、聞いてやるんだぶひい」
「俺は」
ここまで言い、一度、大きく息を吸い込む。
「俺は!ひでよし、田中、弥助。お前たちが夢を叶えるようになることが、俺の新しい夢だ」
「オウ、弥助には、よくわかりまセン」
「俺は、ひでよし、田中、弥助、それに信長の命を守ってやるって言ってんだよ。夢を守るために命を守る。それが俺の夢だ」
「大きく出たッスね。ひでよしたちだけじゃなくて、信長さまも守るって言うッスか」
「ああ、利家。お前の命も、俺が守ってやるぜ。利家も叶えたい夢が、もちろんあるんだろ?」
「そりゃ、当然ッス。でも、彦助、お前にそれができるッスか?」
「今はできない。そりゃ、訓練しはじめて、まだ3週間で、先日の戦が初陣だったからな。自分の力の無さを痛感したばかりだぜ」
「ははっ。こいつは面白いッス。それなのに、皆を守って見せると言うッスか!」
利家が豪快に笑っている。へっ、笑っているがいいぜ。将来、俺は、すげえことをしてやるからな。
「俺に期待してくれよ。悪いようにはしないからな。きっと、皆の夢を守れる男になってやるぜ」
「こりゃ、良いッス。さすが、信長さまが見込んだだけの男では、あるッス。皆に夢を預けられる立場ではなくて、守る立場ッスか。その夢、叶うかどうか、しっかり見させてもらうッスよ」




