ー芳醇の章 5- 両方いける口
俺の身長は170センチメートル。椿より5センチメートル上だ。よし、合格ライン突破!
「俺は175センチメートルッスね。俺の優勝ッス」
「ちょっと、利家さま、弥助のことを無視しないでクダサイ。弥助は180センチメートルありますんで、ワタシの勝ちなのデス」
ぐぬぬと利家のやつが唸っていやがる。
「弥助は南蛮人なのでカウント外ッス!無効ッス。肉ばっかり食っていやがるんじゃないッスよ」
「オウ、ノウ。弥助は果物が好物なのデス。確かにお肉も好きデスケドネ。ですが、お肉は肌に悪いのデス」
お前は美容に気を遣う、三十路の女性かよ。
「なにを張り合ってるんだかなー。で、体型はどうなのー?」
菜々が椿に尋ねている。俺は着物の上をはだけ、胸に息を吸い込み、出た腹を引っ込め、ボディビルダーのようにポーズを決める。
「彦助。あんた、気持ち悪い」
があああん。俺は両ひざをつき、四つん這いになり、がくっとうなだれる。
「そういうあらかさまなポーズをとるのはやめたほうがいいのデス。男から見ても気持ちが悪いのデス」
弥助が俺にとどめを刺しにくる。やめろ、やめてくれ、出来心なんだ。
「彦助くんは相変わらず馬鹿だよねー。そんなんだから彼女ができないんだよー」
菜々さん、殺生や。これ以上は本当にやめてくれ。
「まあ、殿方と言うのは格好つけたくなるものですよ。あまり責めるのは無体と言うものだと思いますよ」
おお、天使や、天使がおられる。風花さんはほんま天使やで。
「でも、気持ち悪いのは同意ですけどね」
俺は涙を流し、地面につっぷす。もう嫌だ。せめてひと思いに殺してくれ。
「彦助。しっかりしな。男がめそめそ泣いてんじゃないわよ」
椿よ。男は泣いていい時があるのです。男が泣いているときはそっと、そのご立派なおっぱいで慰めてください。
「話を戻して、椿は体型は気にするほうなんだぶひいか?」
「ん?気にはしないよ。ただ、余りにも細すぎたり、太りすぎてる人を見ると、健康に悪そうだなあって思うだけよ」
「じゃあ、僕にもチャンスがあるんだぶひいね」
「田中さん。その前に伸長が足りてませんよ。あなたはもうそんなことを忘れてしまったのデスカ」
田中ががっくりと肩を落としている。さあ、田中よ、そのまま地面につっぷすのです。俺と同じく涙を流しましょう。
「これで、田中、ひでよし、彦助が脱落ッスね。さあ、椿さん、残った2人のうち、どちらッスか」
まて。今、聞き捨てならないことを言ったな、利家め。
俺は、四肢に力を込め、立ち上がる。まだだ。まだ気持ち悪いと言われただけだ。俺はまだ戦えるはずだ。
「俺は勝負を捨てたわけじゃないぞ。ちょっと心にダメージを負っただけだ。ほんのちょっとな!」
「あ、あの。傍から見たら再起不能に見えたん、ですが」
うるせえ、ひでよし。あれは擬態だ。死んだふりだ。
「さあ、椿。選んでくれ。この中の3人からひとりを!」
「ええ?どうしても選ばなきゃだめなの?」
「椿ー。究極の選択かも知れないけれど、選んであげたら?別に付き合うわけじゃないんだしさー」
「ちゃらそうな利家さんに、バイの弥助さん。牛のような彦助さんですか。あらいやだ。どれを選んでも後悔しそうですわ」
風花さん、やめてください。また泣いてしまいそうです。
ううんと唸る椿である。この3人の中では、俺はまだ安全なほうだと思うぞ、さあ選んでくれ。
「ううん、じゃあ、彦助を選ぼうかな」
「ひゃっほおおおおおおおおおおお!おい、利家の馬鹿、馬鹿、馬鹿。見たことか、さあ見たことか」
「くっそおおおッス。俺のどこがダメなんッスか。椿さん、納得いかないッス!」
やあいやあい、負け犬が遠吠えしてんじゃねえよ。
「だって、利家さん。信長さまの彼氏なんでしょ?さすがに信長さまの恋人を選ぶことはできないわよ」
へ?
「バイの弥助は論外だし、信長さまの恋人を選ぶのも論外。じゃあ、彦助しか残ってないだけって話」
ちょっとまて、椿さん?利家が、信長の恋人ってどういうこと?
「え?知らないんだぶひいか、彦助は。信長さまは、ああ見えてバイなんだぶひい。いい女はもちろんのこと、良い男もくっちまうんだぶひい」
いや、それは知っている。森蘭丸っていう小姓ってやつが信長のホモ相手なんだろ?でも、なんで利家まで、信長とおほもだちしてんだ?
「待ってくれッス。確かに俺は信長さまと恋人関係ッス。でも、それとこれとは話が別ッスよ」
「利家さま。付き合うのは同時にひとりまでにしておくほうが身のためなのデス。弥助にも彼氏はいますが、もし彼女でも作ろうものなら、彼氏に刺されてしまうのデス」
「え、まじッスか。俺、彼女作ったら、信長さまに刺されてしまうッスか!」
「男の焼きもちは舐めてかからないほうがいいのデス。弥助も彼女がほしいのデスガ、彼氏が許してくれないのデス」
そうか、そんな事情が弥助にはあったのかあ。高伸長で外人で、顔もそんなに悪くない。なんで弥助は彼女ができないのかと思ってたけど、作れないのか。本当にいらない情報を知った気分だぜ。
「え?弥助さん、モテるん、ですか?じゃあ、なぜ私たちと桃園の誓いをしたの、ですか」
「ハハハッ。ひでよしさん。弥助たちは仲間であり、フレンドじゃないデスカ。フレンドとの約束は、例え理不尽なことであっても破らないことなのデス」
弥助が良いこと言ってる、ような気がする。てか、あの誓い、まじで守る気なのかよ、こいつ。




