ー絢爛の章 7- 人捕り、こわい
「田中、馬子にも衣裳ってやつだな。やっぱり新品の鎧は映えるなあ」
「そうぶひいか?褒められるとなんだか嬉しいんだぶひい」
俺たち4人は、鍛冶屋に武器を物色しに、やってきたわけだが、田中が新品の鎧を依頼していたらしく、それに着こんでいるわけだ。
「田中さん、かっこいいの、です!これは、女性たちがほっときません、ね」
「そんなに褒めるのはやめてくれだぶひい。こっぱずかしいんだぶひい」
「オウ。そんなにかっこいいのなら、弥助もお金を貯めて、新品の鎧を買いたいのデス」
俺たち、下級兵士の鎧は、信長からの配布品のためか、あちこちぼろっちくなっており、見た目が正直、汚い。まあ、無料でもらってるんだ、贅沢は言えないんだけどな。
「おう、田中。きつい部分とかないでござるか?調整は無料でやってやるから、遠慮なく言ってくれでござる」
鍛冶屋の主人、金兵衛が田中にそう聞いている。やっぱり、オーダーメイドなだけあって、いろいろと注文を聞いてくれるんだなあ。
「ちょっと、腰回りがきつい気がするんだぶひい。直せるもんなんだぶひいか?」
「んん?採寸通り作ったつもりだったが、鉄が縮んだのかでござるかな。よし、すぐに直してやるから、ちょっと脱いでくれ」
田中は上半身部分の鎧を脱ぎ、それを金兵衛に渡している。
「ここをこうして、よしこうでござるな」
金兵衛がとんかちをとんてんかんと、腹部分を内側から叩く。手際の良い作業だ。鍛冶屋のことはよくわからないけど、このひとは腕があるんだなって感じさせられる。
「よし、できたでござる。これでどうでござるかな」
田中は、再び、鎧を着込み、左右に身体を振っている。
「お、動きやすくなったんだぶひい。さすが金兵衛。たいした腕なんだぶひい」
「ほめたところで安くはならないでござる。上下合わせて、4貫と言ったところかな」
ふえええ。4貫ってことは、40万円くらいだから、結構なお値段なんだなあ。田中は、月々、がんばって貯めこんでたのか。
「いつもなら上下で6貫はするのに、信長さま考案の鎧は大分、安いんだぶひいね」
「そらあ、作りが簡単だからござるしな。量産品のなら3貫で済むが、田中のは注文品なだけあって、少々、値が張るのは理解してくれでござるよ」
「じゃあ、金は先払いしておくから、いつものように宿舎のほうに運んでおいてほしいんだぶひい」
「あれ?田中。着ていかないの?」
「お前は本当に馬鹿なんだぶひい。非番の日に鎧つけて町中歩くやつがどこにいるんだぶひい」
あ、それもそうか。でも、かっこいいから、それはそれでありな気もするけどなあ。俺、刀買うのやめて、鎧にしようかしら。
「商談成立でござる。皆さん方も、欲しいものがあったら遠慮なく言うでござるよ。金はとるでござるが」
「あ、俺、刀がほしい。見せてもらってもいい?」
「刀でござるか。さきほども言ったとおり、あなたは刀を持つには身分が合わないでござるよ。それでもほしいと言うのなら別でござるが」
「なんで、そんなに刀をもつことに拒否感を持つんだ?金兵衛さんだって、刀が売れたほうが嬉しいだろうに」
ううんと金兵衛が唸っている。何かあるんだろうか。
「わかっていないようなので説明するでござるが、戦では人捕りというものが横行しているでござる」
「人捕り?字面から言えば、ひとをさらうってこと?」
「そうでござる。戦では、下級兵士が命のやりとりするをするまで殺し合うことは、あまりないのでござる。それよりかは、人捕りをして、あとで奴隷市に流すほうが金が稼げるでござるよ」
「え、まじかよ。じゃあ、刀を持つような身分の高いやつは必然的に狙われやすいってこと?」
「そのとおりでござる。あなたはもし、人捕りにあったとして、身代金を差し出してくれるような方はいるでござるか?」
おれは、田中、弥助、ひでよしの顔を見る。
「すまん、彦助。僕は鎧を買ってお金がないんだぶひい」
「弥助のことはわかっているかと思いマスガ、年中、金欠なのデス」
「え、え?じゃあ、必然的に、彦助殿の身代金を払うのは、わたし、なのですか?」
「ひでよし。お前たちは熱い友情を持つ、親友なんだぶひい。もしもの場合は助けてやるんだぶひい」
「確かに、親友と言われたら否定しがたい、ですけど、ううんううん」
悩むって時点で親友じゃない気がするんですが、ひでよしさん?
「彦助殿。悪いことは言いま、せん。刀は諦めてくだ、さい!」
「ええええ。ひでよし、それはないだろう。俺たち、親友だろおおお!」
「いや、ですよ。わたしは婚活費用にお金を残しているの、です。彦助殿に使ってしまったら、わたしが結婚できなくなってしまい、ます」
俺の命より、婚活が大事って、親友としてどうなのよ、このひと。
「まあ、刃物が欲しいと言うのであるでござるなら、懐剣はどうでござるか?いろいろと使えて便利でござるよ。それに値段も張らず、財布にやさしいでござるしな」
金兵衛が俺にそう提案をしてきたのであった。ううん、人捕りは怖いし、この際、しょうがないのかなあ。




