ー絢爛の章 1- 酒は飲んでも飲まれるな
「あれえ。朝だぶひい。僕たちは何をしてたんだぶひい」
「いたたたたなのデス。昨夜は確か、寺を攻めたあとの祝勝会だったような気がするのデス」
「うーんうーん。なにも思い出せ、ません」
田中、弥助、ひでよしが頭を抱えている。俺も、皆の記憶を飛ばすために一緒に飲んでいたため、二日酔いで頭痛が痛い。
「なにか大切なことを忘れているような気がするんだぶひい」
田中は、だるそうに身体を起こす。記憶がさだかではないが、俺たちは自分たちの宿舎に戻り、そこでも酒をかっくらい、気が付けば早朝5時に目が覚めたのであった。
「うう、なんだか寒いの、です」
ひでよしが震えるような声で言う。
「ん、ひでよしさん。あなた、素っ裸じゃなデスカ。服はどうしたのデス?」
ひでよしが自分の姿を見て、おどろき、布団の中へとまた舞い戻る。
「ハハハッ。ひでよしさん、酔っ払って、服を全部、ぬいでしまったのデスネ」
弥助が大笑いしている。だが、田中が弥助のほうを見るやいなや、眠気ざましに飲んだ水を盛大に吹きだした。
「弥助、お前も素っ裸なんだぶひい。しかも、朝からいちもつを起立させて、どうどうと仁王立ちなんかしてんじゃないんだぶひい!」
弥助はそう言われ、自分の下半身を見ると
「ハハハッ。これはいけませんね。弥助もまだまだ若いということなのデス」
笑いながら、そそりたつ、いちもつを左右に振る弥助に早朝から殺意がわきそうだ。というか、田中、お前も素っ裸じゃねえかよ!
「あれ、なんで僕まで素っ裸なんだぶひい。あれれ、昨夜は何があったんだぶひい」
「お前ら、なんで全員、素っ裸なんだよ。いくら酔っ払ってたからといって、おかしすぎるだろ!」
3人を交互に指さす俺であった。だが、その3人は、一斉に、俺の股間めがけて指をさしてくる。ん、なんだ。もしかして、俺まですっぱだかって、おおおおいいいい!
「なんで、俺だけ、股間にひょっとこの面をつけてんだよ!だれだ、こんな細かい芸を仕込んだやつはあああ」
ぶひゃひゃひゃと、田中、弥助、ひでよしが笑う。俺は股間のひょっとこの面を右手で剥ぎ取り、布団に叩きつける。
「あいたあああ!」
ん、誰だよ。こんなかわいらしい声をあげているやつは。ここは宿舎だ。女がいるわけがない。
「なんですか、騒々しい。まだ早朝ではないですか。もう少し、寝かせてください」
「ちょっと信長さま。頭に何かをぶつけられたのです。かわいい私がひどい目にあっているのに、怒ってくださらないのですか!」
「黙っててください、帰蝶さん。先生が朝弱いのは知っているでしょう?もう10分お待ちください」
「寝るなああああ!起きろっていってんでしょうがあああ」
「え、帰蝶って、あの帰蝶さまだぶひいか?」
田中は二日酔いがふっとんだ顔をしている。だれだっけ、きちょうって。どっかで聞いたことがある気がするのだが。
「弥助は思うのデス。これは非常にまずいことのような気がするのデス」
帰蝶と呼ばれた、その女性は、きっというきつい目線を俺たち裸族4人に飛ばしてくる。そのきつい視線になにかがきゅっとしそうになるが、それは俺の性癖がなせる技とかとは関係がない。断じて違う。
「で、そなたたちは何者なの?私と信長さまの寝所に転がりこむとは良い度胸してるじゃない」
「あ、あの、言いにくいんですが、帰蝶さま」
「ん、なんである?はっきりと言ってみるがよい」
きちょうは透き通るような声で、田中を圧す。田中はその圧に押されながらも懸命に言葉を繋げるようであった。
「ここは、僕ら、兵士の宿舎なんだぶひい。転がりこんできたのは、信長さまと帰蝶さまなんだぶひい」
え?え?と、きちょうが回りを見渡している。小汚い男所帯の長屋であることに気付き、大層、慌てているご様子だ。
「わ、わらわは、なぜこのようなところにいるのでしょうか。昨夜は確か、酔い潰れる信長さまを介抱しようとしたら、無理やり、お酒を飲まされたような」
きちょうは頭を抱えて青い顔をしている。ああ、気丈なひとが困り果てて、青い顔になるシチュエーションはなんだかいいなあ。
「あと、帰蝶さま。重ねて失礼なことを言うようデスガ」
「なんじゃ、何か、わらわがしでかしたのであるか」
「いえ、帰蝶さま。オッパイが見えてマスヨ」
帰蝶の青い顔から、一転して、炎でもついたかのように顔面を真っ赤にする。そして、足元にある布団を身体に巻き付け、がなるように吼える。
「なんで、わらわは素っ裸なのよ、だれか説明しなさいよ」
顔を真っ赤にしながら半泣き状態のきちょうが怒号をあげるが、説明してほしいのは、こっちのほうだ。
「あのお、きちょうさん?俺らも酒をたらふく飲んで、昨夜の記憶があいまいなんだ。逆に、おれらと信長さまと、帰蝶さまがなぜ、同じ部屋で寝てるのか、こっちのほうが説明をしてもらいたいくらいなんだ」
ああ、二日酔いで頭がずきずきする。村ひとつを救うためとはいえ、その後の記憶が飛ぶほど飲んだのは、失敗であった。
きちょうを連れ込んだのは、たぶん、そこで二度寝をかましている、信長であることには違いない。叩き起こして、何があったのか聞きだしたいが、一応、俺の雇い主だ。主従の関係は、たぶん、絶対であろう。叩き起こして、ひかえおろう、この下郎が、切腹じゃあと言われてはたまったものではない。
「さて、どうしたもんだぶひいか」
これは、俺も同意見だ。裸の貴婦人と、裸族の4人組。そして、二度寝をする主君。このどうしようもない状況を打破することができるのであろうか。




