ー爛漫の章 8- 鉄砲が高い
山の民とはなんじゃらほい?
「村や町などで定住せずに、山で動物を狩って生活をしているやつらのことなんだぶひい。まあ、だからといって、山もだれかの所有物だったりするから、狩りの場は限定されているんだぶひい」
「じゃあ、不法侵入者ってことかよ」
「入りあい山という制度があるんだぶひい。山の持ち主が、ここで柴を取ってもいいとか、増えすぎた獣を処分する依頼を出したりするんだぶひい」
「鹿さんや猪さんは、増えすぎると、村に下りてきて、作物を食い荒らす場合があります、からね。その増えすぎた動物たちを狩るのが、山の民の仕事なん、です」
「ふむふむ。鉄砲とか使うわけ?やっぱり狩りなんだし」
「彦助は、やっぱり馬鹿なんだぶひい。お前、鉄砲が1丁いくらか知ってんのかっていうんだぶひい」
んん?高くても50万円くらいだとして、貫に換算するといくらだっけ。俺の給料が1カ月で2貫だから20万円と考えれば
「5貫?」
「ぶひゃっひゃひゃひゃ。こいつ、本当に馬鹿なんだぶひい。安くても50貫(=500万円)はくだらないんだぶひい」
ぶふうと、俺はドジョウ飯を吹きだす。
「汚いんだぶひい。お前、いつでも何かしら、口に入れておくのは、やめるんだぶひい」
鉄砲1丁、500万円ってなんだよ。新入社員の1年分の給料より、たけえじゃねえか!
「そんなの3千丁も持ってる、信長って何もんだよ!」
「彦助さん。狂っているのデスカ?信長さまが持っているのは、せいぜい50丁デスヨ。信長さまの軍隊でも、エリート中のエリートしか持っていまセン」
あれ。信長って確か、長篠の戦いってやつで、鉄砲3千丁で武田騎馬軍団を倒したんだろ。あと2950丁は、どこに隠し持ってたんだ?
「とにかく、鉄砲っていうのは高価なん、です。50丁で2500貫(=2億5000万円)です、からね。それに火薬も買わなければなりま、せん。鉄砲は金喰い虫なの、です」
鉄砲を買うくらいなら、その分、兵士を雇ったほうがいいんじゃねえのかと、俺は思う。確か、今の信長の兵力は2000足らずのはずだ。実際に、今回の戦じゃ、鉄砲なんか使わなかったしな。
「鉄砲を使う理由ってのは、なんなんだ?そこまでして、金のかかるものより、弓矢があるじゃねえか」
「鉄砲を使う理由なのかぶひい。弥助は知っているのかぶひい?」
「弥助にわかるわけがないのデス。使ったこともないものをどうやって評価しろというのデスカ」
「わ、わたしもよくはわかりま、せん。撃っているところは見たことはあるのです、が」
なんだよ、結局、お前ら、全員、わからないのかよ。
「おもしろい話をしていますね。鉄砲を使う理由ですか」
んん?げっ、信長。なんで、こんなとこにいんだよ。
「簡単に言えば、威力の問題なのですよ。弓矢も確かに殺傷力は高いですよ。ですが、鎧を貫通するほどの破壊力はありません」
「え、でも、南蛮鎧って言うのは、鉄砲の弾すら弾くって聞いたことあるぞ。なら、鉄砲も無意味じゃねえか」
「南蛮鎧ですか。実物を見たことはありますが、あれなら、あるいは鉄砲の弾が効かないものもあるのかもしれません。ですが、たいてい、侍が着ている鎧は、矢や刀を防ぐものが主流です」
「足軽の鎧は、鉄の小札をいくつも縫い合わせたものだぶひい。彦助、お前も着てたからわかるんだぶひい」
確かにそうだ。胸の部分は鉄の板1枚で覆われ、腰から下にかけては、鉄の小さい札を幾重にも縫い合わせたものだった。
「ちなみに、きみたちが着ていた鎧は、先生が考案した、新作の鎧なんですよ」
へえ、そうなのか。鎧ってのは結構、重量があり、小さいころ、博物館で試着コーナーがあったから着て見たけど、総重量20キログラムと相当、重かったことを覚えている。
「通常の鎧は、胸の部分まで、鉄や木の小札を縫い合わせたものなんですね。ですが、先生の軍では、胸から胴にかけて、1枚の鉄の板なんですよ。それで軽量化かつ、安価で量産しやすいようにできています」
へえええ。信長っていうのは、そんな、一兵士の鎧のことまで気にかけてるのかよ。
「まあ、鉄砲の話に戻りますが、ひのもとの兵士の鎧というものは、鉄砲に対して、効果がないのですよ。鎧など簡単に貫通します。これは、弓矢や刀では、到底、不可能です」
「じゃあ、僕ら、下級兵士は鉄砲の前では、無力なんだぶひい。怖いんだぶひい」
「そんなに心配しなくてもいいですよ。そもそも、ここ近隣で鉄砲を持っているものは、ほとんどいません。まあ、1、2丁は持っているでしょう。ですが、そんな数で戦などできません」
そうなのか。この時代においては、50丁をそろえるということは、他国に対して、相当なアドバンテージがあるわけなのか。
「それに、鉄砲はまだまだ高いですからね。南蛮から伝わり、早10年となりましたが、鉄砲を作っているところは限られています。堺とその周辺くらいでしょうか」
「なるほど。では、ここ、尾張の国で、鉄砲が量産されるようになれば、価格はもっと安くなるということデスネ」
「まあ、鉄砲だけあってもしょうがないんですがね。火薬が、このひのもとでは作れませんし。もし、先生が津島の町近くの勝幡城の支配者ではなければ、鉄砲は運用できていませんでしたね」
「の、信長さまはついているのです、ね。このような土地を支配できている、ので」
「そこは父上のはからいですねえ。父上は、ここ津島の町をこよなく愛していました。この町で祭りを行う際は、いつも、わたしの手を引いてくれていましたし」
信長が遠い目をしている。そういえば、俺もこの時代に飛ばされてから、はや2週間が経とうとしていたんだっけ。親父は元気だろうか。




