ー爛漫の章 4- 回復力 げふんげふん
「ちょっと、あんた、背中を見せなさいよ」
椿は一気にまくしたてる。傷はとうにふさがっており、それほど心配する必要はないと俺自身は思うんだ。だが、心配する椿を見て申し訳ないと思い、台車を引く手を一旦緩め、鎧をぬぐ。そしておもむろに上着をぬぎ、背中を椿のほうに向ける。
どれどれと、椿、菜々、風花は、俺の背中をまじまじと見る。なんだかこそばゆい気持ちになる。
「ちょっと、これ、どうなってんだい」
「傷がふさがっていますね。こんなの見たことがありません」
「なんか気持ち悪いねー。本当に、きみ、鞭で打たれたの?」
3人は不思議そうな顔つきである。そんなに不思議なことなんだろうか。
「鞭で打たれたくらい、どうってことないだろ。確かに痛いことは痛いが、ほれ、このとおりだしよ」
「あんた、異常さがわかってないのかい?鞭だよ、鞭」
椿は必死な顔をしている。
「鞭の傷跡っていうのは、火傷みたいにただれるんだ。それが、こんなにキレイになってるわけがないじゃないか」
そんなもんかねえと俺は思ってしまう。
「もしかしたら、上官が気をつかってくれたのかもしれねえしさ。心配してくれるのはありがたいけど、大げさじゃねえかな」
「こいつの身体は異常なんだぶひい。回復力がすごいんだぶひい」
田中が横やりをいれてくる。
「た、たしかに、彦助殿は、異常なの、です。だって、いちもつだって起立したまま治らないです、から」
おまえ、なんてことを言いやがる!
「いちもつ?いちもつとはなんでございますか」
風花はさも不思議な単語を聞いたかのごとく、きょとんとした顔をする。菜々はおかしそうな顔で笑い、椿は怒り顔である。
「心配して損したわ。ああ、なんでこんなやつのこと」
「きみって、ほんと馬鹿だねー。なんだって、そんなことになってんのさー」
ひでよし、てめえ、あとでおぼえてやがれよ。
「お、俺に言われたって、わかんねえよ!生理現象なんだよ」
「今夜はこいつを連れて、遊女と遊んでくるんだぶひい。だから、こいつは楽しみで顔がゆるんでいるんだぶひい」
「へえ、そうなのかい。そりゃあ、楽しんでこないと罰があたるってもんだわね」
あ、あの椿さん。田中の言ってることは嘘なんです。僕は初めての相手は好きなひとがいいんです。
「わ、わたしたちは、誓いを立てたの、です」
「なになにー。どんな誓い?」
菜々が面白そうに、ひでよしに話を聞く。
「ちょっと、待て、ひでよし!」
「か、彼女を作るときは、同じ時間、同じ場所でと誓いあったの、です!」
「あははははは。何、馬鹿な誓い立ててるのさー。そんなの、みんな抜け駆けして作るに決まってるじゃないー」
「そ、そんなことはありません、よ。彦助殿が、誓いを裏切るわけがありま、せん!」
やめてくれえ。そんな誓い、俺だって、あの逆らえない空気の中、断りきれるわけがなかったんだよお。
「あらあら。では、私は彦助さんに手を出すことはできないですね。残念なのです」
え、まじで。風花さん、そんな風に俺のこと、思ってくれてたの。
「うふふ。冗談なのです。彦助さんは、私よりもっといいひとが現れますよ」
「ふ、風花さんより、いいひとなんてあらわれないっすよ!」
「ひ、彦助殿!わたしたちを裏切るつもり、ですか!」
ひでよしが怒り心頭である。裏切りものには制裁を。まさにそんな目ちからをひでよしから受ける。
「ふ、風花さん。彦助殿を惑わせるのは、やめてくだ、さい!彦助殿は、今夜、男になってくるのです、から」
俺が遊女と遊ぶのを確定事項にするんじゃねえええ。
「再三、言うが、俺は行く気はないからな!」
「金は出してやるって言ってるんだぶひい。先輩の言うことは絶対なんだぶひい」
「弥助は思うのデス。いい加減、儚い夢は捨てるべきだと」
「なになに。彦助くんには夢があるの?ねえ、どんなの」
「こいつ、初めては、好きなひとが良いって聞かないんだぶひい。鏡で顔を見てから言えっていうんだぶひい」
「あはははは。彦助くんは、純情なんだねー。そんなひと、めずらしいよー」
「てめえ、田中。いらんことばっかり言ってんじゃねえぞ!」
「彦助くんが怒ったー。あはははは」
終始、菜々は面白そうにげらげらと笑っている。
「大体、そんなにめずらしいのかよ。遊女と遊ばない男っていうのは」
「んー。そうだねー。独身ならともかくとして、既婚者ですら、遊女通いしてるひとは結構いるみたいだよー」
「私は、もし旦那さまがいましたら、遊女通いは控えてほしいところですね。私が劣っているのかと悩んでしまいます」
「そんなもんだぶひいかねえ。軍のおえらいさんになると、正妻だけじゃなくて、お妾さんを侍らせているひとも多いんだぶひい」
「私が武家に嫁いだら、嫉妬で狂ってしまいそうなのですわ」
「風花さんは器量が良いので、もしかしたら、武家のひとから、お声がかかりそうなものデスけどね」
「お話は家には来ているようなのですが、見たこともない殿方に嫁ぐのは少々、気がひけるのですよね」
「えー。風花、そうなのー。そんな玉の輿、逃しちゃだめだよー」




