ー春雷の章10- 気持ちを切り替えて
「おまえのかあちゃん、でえべそお!」
「おまえのとおちゃん、ちびでぶはげえええ!」
俺は精一杯、声を張り上げる。これは戦だ、遊びじゃないんだ。
「オウ。彦助さん。気合が入っていますネ。昨日とは別人なのデス」
「やっとやる気になったんだぶひいか。もっと声を出すんだぶひい」
「お、おまえのかあちゃん、で、でえべそお!」
ひでよしも、俺につられて声を張り上げている。部隊の隊長が号令をかける。
「皆の者、石をもてえ!合図とともに、一斉に投げろ!」
おおおおとばかりに、大小、それぞれの石を寺の境内めがけて皆が投げ込んでいく。俺は一抱えもあろうかという石を持ち上げ、閉ざされた寺の門にぶち当てる。
「てめえら、引きこもってんじゃねえぞ。さっさと降参しやがれ!」
時折、数人が寺から出てきて、罵声を浴びせてくるが、弓の一斉射撃により、手や足に矢を喰らい、その場に倒れる。敵の負傷兵は転がるように寺の中に戻り、また寺の門が固く閉ざされる。
「きさまら、寺のなかには女、子供がいるんだぞ。それを攻めたて、恥を感じないのか!」
寺の中から大声で叫ぶ人物がいる。田中が数歩、前に出てそれに応える。
「女、子供を盾にしているのは、お前らのほうなんだぶひい!恥を知るのはお前らのほうだろがぶひい」
田中の応えに対して返ってきたのは、矢の雨であった。
「田中、あぶねえ!さがれ」
「あんな卑怯者たちの矢なんか、当たらないだぶひい!」
田中は槍を振り回し、降り注ぐ矢を弾き飛ばす。
「皆の者、弓を構えろ、一斉射撃!」
隊長の号令一閃、織田の兵たちは、槍から弓へ持ち替え、散々に射かける。放たれた矢は、寺の門を超え、境内の中に突き刺さる。
「矢盾隊、前へ。突撃隊の援護に回れ!」
俺とひでよし、弥助は丸太をかつぎ、矢盾隊の後ろへ回る。そして、寺の門へ肉薄し、丸太でがこんと門を打つ。
「おらああああ。ひでよし、弥助、力をこめろおおおお!」
数度、門を打つ。その音と比例して寺内からの矢の数も増してくる。
「ええい、一旦下がれ。弓隊、前進、攻撃を密にしろ!」
俺たちは矢盾隊に守られながら後退を行う。敵からの矢は激しさを増していく。俺たちは致命傷はないものの、かすり傷を増やしていく。
「くっ、ひでよし、弥助、無事か?」
「弥助は大丈夫なのデス。ひでよしさんは生きてますカ?」
「は、はい!みんな、がんばっているの、です。こんなとこでやられはしま、せん」
寺の攻防は激しさを増していく。何度か門には肉薄するが押し切れない。
「くっそ。大砲とかねえのかよ。全然、門が壊れねえ!」
「あ、あきらめないでくだ、さい!活路は必ずあり、ます」
「もう一度、いくんだぶひい。力を込めるんだぶひい!」
田中は俺たちと合流し、一緒に丸太を担いでいる。田中も身体のそこかしこから軽く血を流している。
力を込めた一撃により、門はメリメリメリと音を立て始める。
「あと少しだぶひい。もう一度、力をあわせるんだぶひい!」
「おおよお!いっせえええのでえええ」
バキバキバキと門のかんぬきがへし曲がっていく音が聞こえる。
「オウ。門が悲鳴を上げているのデス。さあ、もっともっと叩きつけるのデス!」
「い、いきますよおお!」
俺とひでよし、田中、弥助は最後の力を振り絞り、門に向け突貫する。ついに門は最後の悲鳴とともにけたたましく倒れていく。門の先に見えるのは寺の境内である。
50人ばかしの僧兵と侍たちが弓を捨て、刀や薙刀、槍を手に取り始める。
「破壊部隊は下がれ、他のものは槍を持ち、入り口を確保しろ!」
織田の兵たちは、壊れた門を踏みつけ、入り口に殺到していく。疲れ切った俺たちは門より少し下がった位置でへたりと座り込む。
「よくやった。お前たちにはあとで恩賞を与える。下がって傷の手当てでもしていろ」
隊長が俺たちに門破壊のねぎらいの言葉を送り、また前線へと上がっていく。
「よおし、入り口は確保した。皆の者、逆らうものは斬れ、無力化したものたちはひっ捕らえろ!」
各々は槍やさすまたや、縄を手にもち、寺の中へ侵入していく。俺たちはそれを少し離れた位置で見ながら傷の手当てをしていた。
「俺たち、やったんだな」
壊れた門を見つめながら、俺は言う。
「最初はいやがってたくせに、やるときはやるもんなんだぶひい。少しは見直したんだぶひい」
「へへ。俺は出世がしたいからな。こんな寺、どうってことないぜ」
ひでよしは、ふうふうと息を整えている。
「て、寺の門とはいえ、固いのです。わたしたちの襲撃に備えていたということなので、しょうか」
「寺は外交の場所にも使うし、要人も泊まるから、ある程度の防御は元から固めてあるんだぶひい。少し手を加えれば、ちょっとした砦になるんだぶひい」
「そんなもんなのかあ。この時代っていうのは、寺も大変なんだなあ」
「寺だけじゃなく、村々も自分たちを守るために武装しているものなのデス。ですから、まったく戦った経験のない彦助さんのほうが珍しいのデスヨ」
「まあ、相撲ばっかりとってたからなあ。もっとまじめに訓練、受けなきゃならねえなあ」
俺は寺のほうをぼおっと眺める。ところどころから煙が立ち上っている。制圧完了まであと少しといったところだろうか。立ち上る煙の先を追って、俺は晴れ渡る空を見上げていた。




