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ー春雷の章 2- 嵐は人知れずやってくる

 俺たち4人は昼飯を喰らおうと、長屋がある広場に辿り着いた。だが、そこは、昼飯の雰囲気とは違う、何か落ち着かないものを感じる。


「おい、聞いたか。尾張おわりの守護大名・斯波義統しばよしむねさまが殺されたらしいぞ」


「本当かよ、誰がやったんだ」


佐久間信盛さくまのぶもりさまの話だと、守護代の織田信友とその家臣・坂井大膳さかいだいぜんの手によるものらしいぜ」


「おいおい、まじかよ。それで斯波義統しばよしむねさまの家族はどうなったんだ」


斯波義統しばよしむねさまの家族は織田信友にとらえられたが、肝心の嫡男・斯波義銀しばよしかねさまは行方知らずらしい」


「うわ、もう殺されたりしてるんじゃねえのか、それって」


 守護大名とか、守護代って何だっけ。俺の記憶が確かなら、室町幕府の時代にできた大名ってのが守護大名って呼ばれてて、守護代ってのは、名前から察するに、守護大名の補佐みたいなもんかな。


「大変なことになったんだぶひい。この尾張おわりを治めるひとがいなくなったんだぶひい」


「え。そうなの、それってなんかやばいのか?」


彦助ひこすけサンの、のんきさにはあきれ果てるのです。守護大名が殺されたと言うことは、その後釜をねらうものたちでいくさが起きるっていうことなのデス」


 ふむふむ。それがどうしたんだ。


「その流れなら、その斯波なんとかってのを殺した、織田信友だっけ。そいつが尾張おわりを次に治めるってことだろ」


彦助ひこすけ殿、そこまでわかっているなら、なんでその次が思いつかない、んですか」


 その次?その次ってなんだよ。さっぱりわからねえ。


「い、いいですか、彦助(ひこすけ)殿。尾張(おわり)が乱れてくれるということは、わたしたちの主、信長さまにとって、チャンスなん、です」


「え、だって、昨日の説明では、信長は、その織田信友だっけ。守護代の家臣なんだろ。信友ってやつが守護大名になれば、信長はそのまま、守護代に昇進じゃん」


「こいつ、本当にわかってないんだぶひい。いいか、彦助(ひこすけ)。織田信友は主君殺しなんだぶひい。大罪人なんだぶひい」


 俺にはいまいちぴんとこない。だって、戦国時代ってのは、下が上につと言って、下剋上の時代だろ。


「なんでだよ。この時代なら、主君殺して成り上がるなんて、普通のことだろうが」


「オウ、ノウ。椿サンは、彦助(ひこすけ)サンのお尻を叩きすぎましたネ。本当に馬鹿になってしまったのデス」


「主君を殺して成り上がってるやつなんて、ほとんどいないんだぶひい。蝮だと恐れられてる美濃(みの)の斎藤道三だって、守護大名に難癖付けて、追い出しただけなんだぶひい。殺しは別次元なんだぶひい」


「はあ?どういうことだよ。戦乱時代なんだろ、戦乱時代。律儀に仁義守るやつなんていないだろうが。それがこの時代の醍醐味なんだろ」


 よく見ると、3人が可哀想なやつを見るような哀れみの視線を送ってきている。おい、なんだよ、俺の頭がおかしいのかよ。


「ひでよし。こいつの顔をよおく覚えておくんだぶひい。もし、ひでよしが偉くなっても、こいつだけは重用したらダメなんだぶひい」


彦助(ひこすけ)サンが義理も人情もない、人間のクズだということがよおくわかったのデス。いつ刺されるかわかったものじゃないデスネ」


「あ、あの、彦助(ひこすけ)殿。あなたはまだ若いですから、やりなおせる可能性は十分あり、ます」


「なんだよ、なんかもう私刑リンチみたくなってるんですけどお。さいばんちょお、さいばんちょお、異議ありいい!」


 まあ、とりあえず、この3人の反応から察するに、戦国時代といえども、主君を殺すような不忠ものは、評判を一気に落とすわけだな。なんか、そう考えると、戦国時代ってなんでも有りなわけじゃないんだなあ。世間のしがらみってやつは、平和な現代と変わらないのかもしれねえ。


「あれ、でもよ。いくら大罪人の織田信友だけどさ。信長からみたら上司になるわけじゃん。その信友を信長が殺したら、おなじく主君殺しの悪人ってレッテルが貼られるんじゃねえのか」


「オウ。彦助(ひこすけ)サンがやっとまともなことを言いだしました。弥助(やすけ)が褒めてあげマス」


「うっせ。で、どうすんだよ。信長、この国、治められないじゃんか」


「そ、それはですね。まあ、予測なんですが、信長さまには手があるん、です」


「んん?なんだよ。なんかいい方法あるのかよ」


 俺たち4人がやんややんや、言い合ってるところに、ある男がやってくる。


「おおい、お前ら、メシを喰いながらで良いから聞いてくれ」


 あれはたしか、佐久間信盛さくまのぶもりってやつだ。お偉いさんが何の用だ。


「守護大名の斯波義統しばよしむねさまが殺されたってのは、もう、お前らの耳にもはいってるだろ」


「そう、それだよ、それ。信盛のぶもりさま、どうなってるんすか」


「俺たち、このまま、信友の野郎と仲良く、守護、守護代に就いちゃうんすか?」


「まあ、少し、静かにしろ。今、大事なことを言うから」


 大事なことってなんだろう。俺は騒がしい集団の中で必死に聞き耳を立てる。


「さっき、嫡男の斯波義銀しばよしかねさまを、信長さまが保護された。そして義銀よしかねさまは父上の仇討を信長さまに命令された」


 おお、おおと皆が叫び始める。一体、なんだっていうんだ。なにが起きる。


「お前ら、喜べ。いくさが近々、始まるぞ」


 いくさが始まる?その言葉を聞き、俺は胸の鼓動が早くなっていくのを感じるのであった。

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