ー裸族の章10- ふんどしは2丁もつこと
俺たちは互いの背中を洗いあい、ようやく風呂からあがる準備にさしかかっていた。この時代、初めての銭湯なだけあって、いろいろと時間はかかったような気がするが、まあ、楽しい時間ではあった。
「俺んち、こういう銭湯が近くになくてさ。あと友人同士で風呂に入るのは初めてかもしれない。だれかの背中を洗えるなんて貴重な体験をしたぜ」
俺はひでよしたちに向かって、そう言う。
「これから嫌でも毎日のように通うんだぶひい。殊勝なことを言ってられるのは最初だけだぶひい」
「ま、町まで出てこない限り、銭湯に行くなんて稀でしょう、からね」
「まあ、弥助はいつも給料日前はお金がなくて、水垢離ですけどネ」
「見ているこっちが凍えるんだぶひい。すこしは女遊びを控えて、貯蓄に回すんだぶひい」
たわいのない話をして、笑いながら背中を洗いあう。初めてのせいなのかもしれんが、なんか貴重な体験をした気がする。まあ、そうはいっても、これから日常的なことになっていくんだろうけどさ。
俺はこの時間を惜しむかのように、もう一度、身体にお湯をかける。
「いい湯だったぜ。じゃあ、そろそろ上がろうか」
俺がそう言うと、おもむろに皆が立ち上がり、乾いた手ぬぐいで身体を吹き始める。濡れた身体を丁寧にふきつつ、湿った手ぬぐいを絞り、またふいていく。その作業を何度かするうちに、尻にひりひりとしたものを感じる。
「なあ、俺の尻、腫れてないか?なんか、いまだにひりひりするんだよな」
そういうと、3人は俺の尻をまじまじと見てくる。なんだか視線がむずかゆいな。そういや弥助はバイだから、やべえ。
「ンー。少しあざになってますね。初日から随分しごかれたからでショウ」
「椿のケツ罰刀をかなり喰らってたからな、彦助は。そこにとどめで、ひでよしにぶん投げられてたぶひい」
「す、すいません。やりすぎてしまいまし、たか?」
「ああ、いいよ。あざくらい。昔はよく先輩にぶん投げられて、毎日、あざをつくってもんだしな」
部活の相撲は3年の夏には引退し、それからほとんど練習はおざなりだった。久しぶりに、思いっきり身体を動かせたし、あざくらいどうってことはないな。
「彦助を投げる先輩ってひとも相当、つよかったんだろうなぶひい」
「ああ、先輩は全国大会に出場するくらいだったから、相当、強かったぜ」
「ぜ、全国大会?彦助さんの先輩は、京都で活躍されているん、ですか」
ああ、しまった。俺がいた時代の話だった。適当にうやむやにしておこう。
「ん、いや、関東のほうかな。先輩が出てる大会は」
「へえ、関東でも相撲は流行っているんデスネ。さすが、神聖なるひのもとの国の御業なのデス」
まあ、両国国技館のことなんだけど、言ったところでわからんだろうし。各界に入った先輩は今頃どうしてんだろな。
「そんなことより、早く着替えちまおうぜ。湯冷めしちまうだろ」
「弥助はもう少し、可愛いお尻を見たかったのデスガネ」
「そういや、なんで僕たち、男の尻をまじまじと見ることになったんだぶひい。なんだか損した気分なんだぶひい」
「ひ、彦助殿がお尻がひりひりするって話だったじゃない、ですか」
そういや、俺のほうから見てくれと頼んだんだった。すっかり失念していた。男相手といえども、生尻は見られるのは、やはり抵抗があるなあ。
そういや父さんが高熱だしたときに病院行ったら、尻に注射打たれたって言ってたな。ああいうときは看護師さんに見られて興奮するんだろうか。まあ、熱でそれどころじゃないだろうが。
考え事をしながら、俺はパンツを履こうとしたら、3人がまじまじと見てくる。
「しかし、面白い形状の布デスネ。こういうものは私が居た国にはありませんデシタ」
おっと、そういや何気なく履いてたけど、この時代にはないのか、こういうブリーフのパンツ。弥助に聞くところによると、トランクスに似た形のものはあったらしい。
「てか、おまえ、下着の替えはないのかぶひい。男は最低、ふんどし2丁持ち歩くもんだぶひい」
まわしはつけたことはあっても、ふんどしはさっきの相撲のときに借りただけだ。そもそも、どうやってちゃんとつけるのかがわからない。でも、洗ってもないパンツを履くのもあれだなあ。
「ひ、ひこすけさん。銭湯には備えのふんどしが売って、ますんで、それを買ったらいい、ですよ」
ほう、銭湯はそんなサービスまでやってるのか。感心かんしん。じゃあ、さっそく買わせていただきますかね。
ふんどし一丁、20文(=2000円)であった。呉服屋で買ったほうが安いらしい。今度からは買うときはそっちにしようか。
「えっと、ふんどしのひらひらの部分を尻のほうに回して、ひもを前でちょうちょ結びにすると」
俺は田中がふんどしをつけている姿をじっくりと観察する。
「ひらひらを股間から持ってきて、結んだ紐にひっかけて、前に垂らすと。ふむふむ」
「僕の股間を凝視するのはやめるんだぶひい。俺は女性に見られるのは好きだけど、男はいやなんだぶひい」
俺だっていやだよ。でも、それ以上にあらってないパンツを履き続けるほうがいやだ。田中、我慢してくれ。俺だって我慢しているんだしな。ちなみにお前の締め方を見ているのは、この中でいちもつのサイズが、俺にダメージを与えないからだ。お前は選ばれしものなんだ、誇っていいんだぞ。




