ー裸族の章 8- チート技能:人たらし
俺の預り知らぬところで、俺のはじめての処遇が議論されている。どうしてこうなった。だれか説明してくれ、頼むから。
「だいたい、18過ぎた男が、女の味を知らないと言うのは、よっぽど家の中に閉じ込められていたってことぶひか」
「弥助は思うのデス。そんな家から飛び出してきて良かったと。そのまま、その家に居たら、死ぬまで部屋住みでしたヨ、彦助サン」
「彦助殿は運が良いの、です。飛び出した先で拾われたのが信長さまだったから。運がわるければ人買いにさらわれて、どこかの下人になるとこでし、たよ」
下人ってのは、聞いたことはある。確か、家人の世話をやらされる、実質、奴隷みたいなもんだったはずだ。
「ならば、その運の良さも含めて、歓迎せねばならぬよの。彦助はどんな娘がタイプなのじゃ?」
「好きな娘のタイプといわれれば、おしとやかで料理ができて、毎朝、いってらっしゃいのキスをしてくれるような彼女かなあ」
「おっほっほ。何を言うとるのじゃ、お主は。夜伽の娘の好みを聞いておるのじゃ。まあ、金を積めば、彼女として振る舞ってくれるものもおろうて」
「え、まじで。そんなこともしてくれるの」
「身請けというやつじゃ。借金の肩代わりをすることによって、娘を買いとるのでおじゃ。気にいった娘がおるのなら、そうするのもいいかもじゃ」
おれはうむむと唸る。そういう制度もあるんだなと。だが、縁もゆかりもない女性を金で自由にしたところで、その女性が自分を好いてくれるかはまた別なのだろう。
「わらわたちは、借金のカタで売られた身じゃ。信長さまが、店の主人と話をつけ、無体なことはせぬようにと信長さまの監視下にはおかれるようにはなったのじゃ」
「そんなことがあったのか」
俺は思わず百夜たちに同情しそうになる。
「だがな、売られた身だったとしても誇りは、皆持っている。自由欲しさに、好きでもない殿方からの身請け話など、聞くものは、ここにはおらぬ。どうしても欲しいというなら、惚れさせてからにするのじゃな」
彼女たちは不幸な生い立ちながらも、仕事に矜持を持っている。俺はあやうく、いらない言葉でそれを傷つけかけた。
「さすがは百夜姐さんだぶひい。女性にしとくにはもったいない好漢なんだぶひい」
「あ、あの。彦助殿が百夜さんを選ばないと言うのなら、今夜の相手はわたしでいかが、ですか?」
「ほう、わらわに自ら名乗りを上げるものがいるとは、これまた殊勝な男が尾張にはおったのかえ。どれ、顔をみせてもらおう」
そういうと、百夜は衝立のほうに歩いて来て、顔をのぞかせる。
「うむむ。そちかえ、わらわを指名したというのは」
「ひ、ひでよしです。苗字はありません。昨日までは百姓みたいなもんだった、ので」
たどたどしく言葉を返す、ひでよしであったが、態度は毅然としており、百夜のほうに向かい、まっすぐ立ち、百夜と見つめ合う。
「うむうむ、なるほど。引き締まった肉付きといい、その胆力といい、男としては合格じゃ」
だがなと、百夜は言う。
「わらわはツラの良しあしでは決めぬのじゃが、わらわより背の低いものは、さすがに興が冷める」
百夜は見た目、身長155センチメートルと言ったところか。だが、ひでよしはさらに低い。南無三。ひでよし。あとで骨はひろってやるからな。
ひでよしはがっくりと、肩を落とす。そして膝から崩れ落ちるように、その場に四つん這いになり、嘆き始める。
「ああ、百夜さんという素敵な女性を口説けません、でした。わたしは、自分が情けなくなり、ます」
素敵な女性と言われ、百夜は悪い気がしない。
「百夜さんと一晩、ともにできるのなら、惜しむ命もありま、せん」
「これこれ、わらわにそこまでの価値はありゃしないのじゃ」
「いつ、戦に呼ばれるかわからぬ身。一度でいいから、百夜さんという、芳醇な果実を味わいたかったの、です」
芳醇な果実なんていう言葉など、殿方に言われたこともない。百夜は商売女ながら、この男に一種の危なさを感じる。
「ま、まあ、そこまで言われて、そでにするのは可哀想なのじゃ。うんうん。では、今宵一度くらいは、ひでよしにしようかななのじゃ」
「わ、わたしは強欲ものゆえ、今夜限りではおさまりま、せん。百夜さんを味わい尽くすまで、通いつめま、しょう」
よくもまあ、こんな歯の浮くようなセリフをぽんぽんと出せるものだと、俺は感心してしまうね。
「まてまて。わらわはそんなに安い女ではあらぬぞ。そなたの給金では、月に2度で、ほかの娘とは遊べなくなってしまうのだぞ。それでもよいのかえ?」
「だいじょうぶ、です。その分、わたしが出世をすればいいのです、から」
「やれやれ、参った。降参なのじゃ。好きにすると良いのじゃ」
今、俺は、女性が落ちる瞬間を見せつけられた。ひでよしのスキルはとんでもねえ。こいつの人たらしはチート技能だ。ひでよし先生と呼ばせてもらっていいですか?




